●憲法改正手続法案に反対する声明

埼玉弁護士会

1. 与党は、本年4月13日、衆議院本会議において 「日本国憲法の改正手続きに関する法律案」 (以下、「法案」 という) の採決を強行し、 現在、「法案」 は参議院での審議が行われている。しかしながら、この間の世論調査や公聴会において、 「法案」 の審議が十分ではなく拙速との意見が少なくない現状のもとでの強行採決は到底看過できず、 さらに 「法案」 には憲法の基本的原理である国民主権の観点からみて是認しえない問題点が多々含まれており、当会としてはこれに反対する。

2. 日本国憲法が国家体制の基本秩序を定める最高法規であるとともに、国家権力を制限し個人の権利・自由を保障するという立憲主義憲法であることから、 憲法96条は一般の法改正よりも格段に厳格な憲法改正手続きを定めている。

  また、憲法改正手続きは国民主権の具体化であるから、主権を有する国民の意思が適正に反映されなければならず、 そのためには、国民に対して憲法改正の是非についての情報が十分に提供され、広範な議論がなされることが不可欠である。 国民・市民の意見表明の自由は最大限に保障されなければならないし、憲法改正改案についての賛成意見だけでなく反対意見も、 国民・市民にあまねく公平に行き届く配慮も必要である。

3. ところが、「法案」 は、憲法96条の 「過半数」 の意義を無効票を除いた有効投票数の過半数として改正案の承認にとってもっとも緩やかな基準を採用し、 かつ、最低投票率の定めもおいていない。これでは、例えば投票率が40%程度であれば、国民の20%台の賛成で憲法改正に至ることになり、 国民主権の趣旨に反するのみならず、憲法改正手続きの厳格性の趣旨にも反する結果となる。
  国会での発議から国民投票までの期間については、「法案」 では60日以後180日以内としているが、憲法改正を国民的に議論する期間としては短かすぎ、 議論不十分なままに国民が投票行動を余儀なくされるおそれがある。
  また、公務員等・教育者の憲法改正の是非に関する表現活動に関しては、広範な制限を定めるものとなっている。 制限規定について罰則は設けていないものの、その違反が懲戒処分の対象となることは明らかであるし、 公務員の政治的行為の制限について定める国家公務員法、地方公務員法等の規定についても適用除外とはしていない。 しかし、公務員等・教育者の表現活動をこのように広範に規制しなければならない合理的理由はなく、こうした規制は、 国民・市民の憲法改正に関する表現活動に対して重大な萎縮効果をもたらすことになる。
  さらに、テレビ、ラジオなどの有料広告に対しては、適切な規制が講じられていない。 マスメディアが資金力のある勢力に独占され、憲法改正案に対する賛成意見だけが一方的に宣伝されれば、国民の適切な判断を損ねることにもなりかねない。

4. 埼玉弁護士会は、昨年9月にも会長声明によりほぼ同内容の法案の問題点を指摘しているが、 今般、その問題点の多くを内包したまま参議院で審理されている 「法案」 について、改めて反対の意を表明する。

       以 上
2007年 (平成19年) 4月18日
埼玉弁護士会 会長  小 川 修