12月15日付 読売新聞社説に対する抗議声明

VAWW-NETジャパン 2007.12.25


  読売新聞東京本社
  代表取締役社長・編集主幹 老川祥一様


12月15日付読売新聞の社説に抗議し、
謝罪・訂正広告を掲載するよう強く求めます!!

  去る12月15日、読売新聞は 社説 「慰安婦決議 欧州での連鎖反応が心配だ」 で、「日本の信用を貶めるような決議がこれ以上広がらないよう、 政府は各国政府に強く働きかけるべきである」 との主張を展開しました。

  社説は、インドネシアにおいて日本軍が抑留所からオランダ人女性を選別・連行して 「慰安婦」 を強いた事件について、 「軍が組織的に慰安婦を強制連行したのではないことを示す反証でもある」 としていますが、なぜこれが、 日本軍の「慰安婦」強制連行はなかったとする 「証拠」 なのでしょうか? オランダ裁判は 「戦争犯罪の概念規定」 第7項で 「強制的売いんのための婦女誘拐及び売いんの強制」 を明記し、 慰安所開設の責任者であった被告岡田少佐に 「売春強要」 「婦女強かん」 と共に 「強制売春のための婦女子誘拐」 の罪で死刑を言い渡しました。 いわば、オランダ裁判は強制連行を明確に犯罪として裁いたものであり、スマラン判決は連行の強制と慰安所での強制を断罪しています。 これらはオランダのケースにおいても 「強制連行はあった」 とする証拠以外の何ものでもありません。 貴社は判決さえ読まずに強制連行はなかった証拠だと主張したのでしょうか。

  そもそも、日本軍が慰安所に連行して 「慰安婦」 を強いたのはオランダ人女性だけではありません。 現在までに確認されているだけでも朝鮮・台湾・フィリピン・インドネシア・中国・東ティモール・ビルマ・パプアニューギニア・グァム・ベトナム・日本・・・と、 アジア各地の女性たちに及んでいます。現在、名乗り出ている女性たちのほとんどは、 拉致や就業詐欺・甘言等による 「本人の意思によらない」 暴力的・強制的な連行の被害者です。これまで数々の 「慰安婦」 裁判が提訴されてきましたが、 除斥期間等の壁で敗訴したものの、強制的に 「慰安婦」 にされたケースはいくつも事実認定されています。 また、オランダ戦犯裁判に限らず、グァムや中国のBC級戦犯裁判や、東京裁判の証書でも強制的な連行や慰安所での 「慰安婦」 強制は明らかにされているものです。 貴社は、こうしたアジア各地の被害女性たちの証言や数々の公的資料までも否定するのでしょうか。

  なにより、「慰安婦」 問題における強制は連行だけを指すものではなく、慰安所における暴力的な「慰安婦」の強要も含まれます。 このことは、現福田政権も継承を表明している河野談話にも明記されている認識です。 また、アメリカ下院やオランダ議会、カナダ議会、EU議会が公的な謝罪や賠償・教科書記述・教育などを求めているのは、 「慰安婦」 制度は重大な人権侵害であり、重大な人権侵害の被害回復責任に 「時効」 はなく、被害者が納得する形で解決されなければならないと考えているからです。

  貴社は被害女性たちの声に耳を傾けたことがありますか? 彼女たちの証言をきちんと報道したことがありますか?  性暴力が被害者にどれほど大きな苦痛と苦悩をもたらすものであるか、真摯に考えたことはありますか?

  「慰安婦」 を強いられた女性たちは半世紀近い間、その被害を公に語ることができませんでした。 それは他の犯罪と異なり、性暴力は被害者の 「恥」 であるとする貞操観念が世界や社会に支配的であったからです。 蔑視と 「汚い女」 という烙印を押され、被害女性たちは戦後も強いPTSDに苦しみながらもその被害を訴えることができませんでした。 そんな女性たちが90年代になり声を上げ始めたのは、国際社会が戦時性暴力は重大な人権侵害であるという価値観を形成していくなかで、 「自分たちは恥しい女ではない。犯罪の被害者なのだ」 と自らの被害に向き合い、「生きているうちに尊厳を回復したい」 と願うようになったからです。

  社説は、「ドイツ軍も東ヨーロッパなどの占領地に500か所以上の<慰安所>を持っていた」 が、 「(ドイツは) 自らの国の問題には口をつぐむつもりなのだろうか」 と主張していますが、 多くの女性たちが強制収容されたラーヴェンスブリュック収容所は政府の手によって運営されており、被害女性を記憶するよう被害各国にブースを与えています。 また、昨年は、性暴力を強要した資料を展示し、他の資料館でも性暴力の女性たちの被害を描いた絵を展示しました。 日本が加害に背を向け、被害者の訴えに口を閉ざしていることを棚に上げて、どうしてドイツを批判することができるのでしょうか。

  アメリカ下院をはじめカナダ議会、オランダ議会、EU議会で採択された 「慰安婦」 決議は、 日本が犯した人権侵害に対して被害者が尊厳の回復を訴えているにも関わらず、事実すら否定し、被害者を置き去りにしたまま責任逃れに奔走し、 謝罪への抵抗を続ける日本政府への批判です。他国を批判する前に、まず、自らの国の不正義を正すことが先ではないでしょうか。 真実と事実を追及せず、ひたすら責任回避を誘導する貴社の姿勢は、被害女性たちに更なる苦痛を与え、国際社会における日本の信用と信頼を失墜させるものです。

  私たちは読売新聞の社説に抗議すると共に、社説の事実誤認を認め、即刻、謝罪・訂正広告を出すことを強く求めます。

  この件につき、2008年1月7日までにファックスまたは郵便にて回答するよう求めます。なおこの抗議文は他のメディアにも送らせていただきます。

2007年12月25日
「戦争と女性への暴力」 日本ネットワーク (VAWW-NETジャパン)


[注]

  抗議の元となった読売新聞社説は、おお旨次のような論旨が展開されている。
  「従軍慰安婦問題をめぐる対日批判決議が、欧州議会で採択された。しかし、ドイツでも占領地に、500か所以上の “慰安所” があった。 自らの国の過去の問題にはのか。
  1993年の河野官房長官談話がでは、日本の官憲が女性を慰安婦にしたかのような記述があるが、誤解の根元になる談話を見直していくことも必要だろう」