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  7・12シンポジウム報告
「映画の自由と公正な映画助成を考える」


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日本映画復興会議 事務局次長 伴 毅

  7月12日(土) 午後1時半より、東京・京橋のフィルムセンター会議室で、シンポジウム 「映画の自由と公正な映画助成を考える」 (主催/日本映画復興会議、協賛/映画人九条の会) が開かれ、42名が参加して活発な討論をおこないました。

  シンポジウムは、一橋大学大学院法学科教授の阪口正二郎さん、アルゴピクチャーズ社長の岡田裕さん、映画監督の大澤豊さんの3名がパネラーとなり、 映画評論家の山田和夫さんの司会で進行しました。 まず、阪口教授から「文化に対する国家の援助と自由」として発言がありました。

【阪口教授の発言】
  文化に対する国家の援助はどこの国でもおこなわれているが、国家の主張と、既存の価値観に挑戦する芸術との間の対立は不可避なので、 根本的な矛盾を抱えている。国家自身は、記者会見や広報、あるいは私人の意見として国家の主張を広める。そのために芸術も利用する。

  芸術・文化への給付 (助成) については、権利ではなく 「特権」 にすぎないという議論があり、そういう立場での判例もある。 一方では、公的援助の一つである公民館の使用について 「不当な差別的取扱いをしてはならない」 という判例もある。 すべての芸術に助成をすることは不可能なので、選別は必要なのだが、「優れた芸術」 を誰が判断するのかが問題。 文化に関する判断は文化の専門家に委ねる必要がある。

  また 「税金なんだから、国民の納得しないものには使えない」 という言い分については、道路特定財源と芸術振興を同列にしてはいけない。

  アルゴピクチャーズの岡田社長は、映画 「靖国」 上映妨害事件の経過をリアルに述べました。

【岡田裕社長の発言】
  2月に文化庁から 「試写をして欲しい」 と要請があり、「試写は評論家等を対象に週2回ぐらいやっている」 と答えると、 「自民党の 『伝統と創造の会』 の議員を対象に」 との事だった。断ると 「文化庁に提出されているDVDでやる」 というので、全国会議員対象にという条件でOKした。 その後、朝日新聞の報道があり、新宿の上映予定館が断ってきて、他の館も支配人はやる気でいても会社から断りをいれてきた。

  問題がマスコミなどでも広がって、いまは45館ぐらいで上映を進めている。

  靖国神社からの抗議については、撮影許可は一つひとつすべて取っており、「秘祭」 といわれたものも、他のマスコミも撮影していたもの。 登場した刀匠も、完成後パンフにメッセージを寄せるなどして賛同しており、本人が 「抗議はしない」 と言っている。 この事件については、ネットでのひどい書き込みが多く、この映画に対する圧力は、組織されたものではないかもしれないが、奥の深いものだと思う。

  文化庁は、国会議員の質問に対して助成金を守る立場でがんばっていたが、今年の助成審査では、 これまでの助成作品の助成金の使い方などを細かくチェックしてきている。

  大澤監督は、助成金の仕組みについて発言。

  「申請はほとんど出していたが、もらえないときもあり、透明感がない。選考に残った会社を集めて説明するとか、応募者が納得できるような方法は無いか。 映画の作り手として大きな問題。第三者機関的にお金は出すが口は出さないというものにして、映画人が自由に映画を作れる状況にして欲しい」。

  会場からの発言では、記録映画作家の羽田澄子さんが 「政治家が映画のことでこういう発言をしたのは初めてで、びっくりした。 こういう形で政治が介入するようになったら大変。登場した人物に議員が直接電話かけるようなことは許されない」。

  映演労連の高橋邦夫さんは 「東映系の映画館が上映を断ったと報じられた翌日、すぐに文化庁に質問状を出した。 稲田議員にも抗議した。税金が使われていることを口実にして与党の国会議員が政治介入したことが最大の問題。 これからもこういう動きが起こるのではないか」 と発言しました。

  そのほかにも 「これは憲法に繋がる問題。助成金があったから作れた映画も多い」 「記録映画と劇映画とでも助成の差別が大きい。 記録映画が政治的内容になるのは当たり前」 「芸術文化振興基本法に違反しているのでは」 「『政治的宣伝意図を持った映画と、 政治的なテーマをもった映画とは区別している』 という文化庁の答弁は重要で、これを貫いて欲しい」 「自粛や萎縮をせず、政治的映画を作り続け、 助成金の申請をし続けよう」 「助成が出るのは応募の3割程度で、額も劇映画では直接製作費の1割程。半分ぐらいは欲しい」 など、活発に意見が出されました。