「大飯原発」 ストレステストをめぐる混乱
ジャーナリスト 池田龍夫 2012.1.20
目次
定期検査で停止した原発を再稼働するためにはストレステスト(耐性評価)を行い、経済産業省原子力安全・委員会の審査を経た上で、
政府が最終判断するのが原則。「3・11原発事故」 を教訓に強化されたチェック体制に基づき、初の審査会が1月18日通産省で開かれた。
慎重派委員の欠席のまま “密室審査” で承認
関西電力が提出した大飯原発3、4号機(福井県おおい町=定期検査で停止中)再稼働の是非を論議する重大な会議だったが、
会議の公開をめぐって混乱。慎重派委員欠席のまま、3時間半後の20時ごろ別室で審査する異常事態になった。
結果的には、「大飯原発・安全評価は妥当」 との判断が下されたが、“見切り発車” 的な印象が濃く、再稼働をめぐる今後の展開は一層シビアになりそうだ。
「再稼働ありき」 の印象を受ける
一般傍聴人も参加させて、安全評価を議論すべきだという立場の井野博満・東大名誉教授、
後藤政志・芝浦工大講師の両委員は 「傍聴させないなら出席しない」 と途中欠席、「再稼働ありきの形式的議論はオカシイ」 との批判が高まっている。
枝野幸男経産相は18日夜、緊急記者会見を開き 「科学的な専門家による議論が平穏に開催できないことは容認できない」 と語っていたが、
“密室審議” での結論を国民は支持するだろうか。
会議を公開して、本質論議が望ましい
定期検査後の原発稼働への国民の関心は高まっており、原発立地県の首長は対応に苦しみ抜いている。
「ストレステスト」 結果を、政府の専門機関が審査するのは当然なことだが、公開の場で粛々と問題点を論議して欲しかったと思う。
金属材料工学の専門家・井野東大名誉教授は、「どこまで余裕があったら安全性が担保されるという判断基準が示されないまま、
評価結果を出すのはおかしい。福島第一原発事故で得られた知識を取り上げた上で、安全評価し直すことが先で、
再稼働ありきだ」(毎日新聞1月19日付朝刊)と指摘していたが、結論を急ぐ余り、一方的な審査・判断を強行したと思えてならない。
全原発54基のうち、現時点の稼働は5基
振り返れば、10カ月前に全国に原発は54基もあった。ところが現在、定期検査や事故・トラブルで49基がストップ。
辛うじて5基が動いているものの、今月中に2基が定期検査入りする。
このまま進めば、4月末の北海道電力・泊原発3号機を最後に全原発が止まることになる。
電力供給量の3割を担ってきた原発に頼れない現実が、目前に迫ってきたことを否定できまい。
「原発再稼働を進め、危機を乗り切りたい」 と焦る気持ちが分からないわけではないが、
安心・安全を求める 「脱原発」 の世論を無視できない現実を政府・国民が共有して、「代替エネルギーへ」 の転換を急がなければならない。
(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。


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