世田谷区が電力 “入札” に踏み出す

ジャーナリスト 池田龍夫 2012.1.28
目次

  東京都世田谷区は1月23日、新年度から区役所庁舎や区立小中学校など111施設で使用する電力について、競争入札を実施すると発表した。 「脱原発」 を掲げて昨年春初当選した保坂展人区長が決断したもので、“東電離れ” を加速するものと注目されている。

  区役所や区立小中学など111施設で実施へ
  世田谷区に登録している特定規模電気事業者(PPS)は約50社あり、競争入札を2月下旬に行い、落札業者の電力供給は4月1日を見込んでいる。 今回の対象は、区の施設全体の1割強だが、特に電気使用量が多い施設に絞った。 これによって、年間6億7000万円の電気料金の3%に当たる2000万円の削減ができると試算。 さらに東電が電気料金を値上げした場合、値上げ分を含めて1億1000万円の節約効果になるという。

  自治体による電力競争入札は広がっており、東京都でも立川市・国立市などが導入しているが、23区での導入は世田谷区が初めて。 人口約88万人のマンモス世田谷区が、“東電独占” を見直す方針を鮮明にした影響は大きい。 朝日新聞は1月23日付夕刊第2社会面で特報、24日付朝刊東京版で詳報した。 また、東京新聞が24日付朝刊1面に4段見出しを掲げて報じた姿勢に比べ、「読売」 「毎日」 両紙の東京版扱いは腑に落ちない。 人口密集地23区の新たな動きは、全国ニュースとの価値判断をすべきケースと思う。

  クリーンエネルギー開発・促進を目指す
  保坂区長は 「3・11原発事故から現在まで問われたことへの一つの総括。より安全な、再生可能エネルギーへ変えていく大きな流れだ。 (東電以外の)選択肢があることを自治体が示して実行し、国全体の議論を後押ししたい」 と語っており、 今後は再生可能エネルギーで発電された電力を導入する方針を進める意向と思われる。 先の 「脱原発・世界会議」 にも保坂区長は参加、「少々高くても自然エネルギーを買いたいという声を、 電力消費地で高めていく必要がある」 と分科会で発言していた。

  電力調達をめぐる “知恵比べ”
  「発電コストで劣る風力・太陽光の事業者入札参加はできるだろうが、コストを競う以上、 クリーンエネルギー業者が落札する可能性は少ない」 と常識的に推測されるものの、世界谷区が投じた “一石” は、 脱原発・新エネルギー開発促進への道を示しているのではないか。

  井熊均・日本総研創発戦略センター所長も 「自治体が主体的に電源を選ぶようになったのは良い傾向だ。 住民の生活を守る立場から、今後、自治体はPPSの活用が必須になるのではないか。 世田谷区などが成果を広げれば、やっていない自治体は住民の目に 『怠慢』 と映るだろう」(24日付朝日新聞東京版)と指摘していた。

  自治体以外では、城南信用金庫(本店・品川区)が、今年から大半の店舗で東電からの電気購入を止め、PPSへの変更に踏み切っており、 電力調達をめぐる “知恵比べ” が拡大する雲行きである。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。