「検証〜原発事故報道」 シンポジウム
ジャーナリスト 池田龍夫 2012.2.3
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  「メディアは何を伝えたか〜検証・原発事故報道」 と銘打ったシンポジウムが2月1日夜、毎日新聞東京本社で開かれた。 「新聞綱領制定25周年」 に当たって毎日新聞労組が主催したユニークな企画で、原発報道を検証する画期的な試み。 120人を超す参加者が3時間の討議に耳を傾けた。

  毎日新聞労組主催の有意義な討論
  パネリストは河野太郎衆院議員(自民党)、小出五郎氏(科学ジャーナリスト)のほか 「朝日」 「毎日」 「共同」 3社のデスク3人。 @ メディアは原発報道の役割を果たしたか A 事故以前の報道はどうだったか B今後 「原子力」 とどう取り組むか――の3点をめぐって活発に論じ合った。 各社も取材に来ていたようだが、ほとんど報道されなかった。 有意義なシンポだったのに労組主催≠ノビビったのか、毎日新聞2月2日付朝刊ですら、第3社会面扱いとは情けない。

  「政・官・業・学・報ペンタゴン▲ の罪
  原発事故以降、「政・官・業」 のトライアングルに、「学会」 「メディア(報道)」 を加え 「政・官・業・学・報」 のペンタゴンによる権力構造が炙り出されてきた。 「原発安全神話」 を煽った責任は大きく、この日のシンポでも 「深刻な批判」 が飛び交った。 事故当初の政府・東電の大本営発表≠ノ傾斜しすぎた報道、20キロ圏内取材の遅れ、 スピ−ディの情報隠し…等々に反省点が多いことが洗い出された意義は大きい。

  大本営発表≠ノ頼りすぎ
  事故以前から原発問題に取り組んできた河野氏の発言は鋭く、政治家の原子力知識の無さ・問題意識の欠落をしきりに嘆いていたが、 それと同時に記者の不勉強と問題追及の甘さを指摘した。現役デスクも科学知識の欠如、新聞社各部の縦割による弊害、 速報に追われて余裕の無い勤務態勢を率直に語っていたのが好ましかった。

  取材の問題点だけでなく、電力会社からの膨大な広告費にも話が及んだ。 記事作成への圧力の実態などは、限られた時間内で論議を尽くせない問題だが、新聞社内に自己規制≠フムードを臭わせる発言もあった。 記者はそれぞれ頑張っているものの、「政治的な経営に絡む、面倒な問題を避ける」 風潮を感じるというのだ。

  過去の報道を含め、「報道姿勢」 の検証を
  小出氏は、@ 飛び交うインターネット情報 A 発表報道パターン化からの脱却 B 原子力村に属した記者が火消し≠ノ回った罪 ――の3点を指摘したが、反省材料にすべきことである。 また、河野氏が 「原発稼働に賛成か反対かを問うだけの世論調査は意味がなく、 記者は原子力を勉強して危険性を徹底追及してほしい」 と熱っぽく語ったのが印象に残る。 「もんじゅ」 や 「六ケ所村核燃料再処理施設」 稼働に未練を残し、再生可能エネルギーへの取り組みが遅れてしまった原因は、 歴代政治家の責任と言い切る。

  各紙とも、競うように 「原発検証」 企画を立てているが、「ペンタゴン」 の一角である 「報道」 姿勢の検証も望みたい。 今回の 「シンポ」 に参加して、その必要性を痛感した。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。