「原子力防災指針」 見直しの危うさ
ジャーナリスト 池田龍夫 2012.4.25
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  福島第一原発事故は、初動の遅れが響いて被害を拡大させたと指摘されている。 原子力防災指針の見直しを検討していた内閣府原子力安全委員会の専門部会は、このほど中間とりまとめを公表した。 これまで原発から半径8〜10キロ圏だった防災対策重点地域(EPZ)を緊急防護措置区域(UPZ)として30キロ圏に広げたことが注目される.。 また、5キロ圏を直ちに県外へ避難を求められる予防防護措置区域(PAZ)とし、 50キロ圏の放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積するのを防ぐ安定ヨウ素剤を義務づけることとし、被害を最小限に防ぐ方針を打ち出した。 近く発足する 「原子力規制庁」 が正式決定するという。

  毎日新聞の調査報道を評価
  毎日新聞4月23日付朝刊が21都道府県で独自調査した結果を詳報していたが、今後クリアすべき問題点を提示した紙面展開を評価したい。 「この国と原発 『立ちすくむ自治体』」 のタイトルで4面全段に展開した 「原発立地自治体の苦悩」 には驚かされた。

  政府・防災指針が示す50キロ圏には、1200万人が住んでおり、バスでの移動などでは対応しきれない。 橋本昌茨城県知事は3月の県議会で 「県内にあるバスを総動員しても1回に24万人しか搬送できない。 一斉に106万人を避難させることは不可能だ」 と述べていたが、どの自治体でも同様な危惧が高まっている。

  この点に関し、松野元・元原子力発電技術機構緊急時対策技術開発室長が 「全員避難、保証無理なら廃炉に」 と鋭く問題点を突いていた。 傾聴に値する指摘なので一部を紹介して参考に供したい。

  「全員避難、保障無理なら廃炉に」
  「日本の原子炉立地審査指針の安全評価は、格納容器が壊れないことが前提だ。どんな重大な事故でも発電所敷地内で収まる建前だったため、 原子力防災体制の整備は原子炉設置許可の条件とならず、原子力防災は 『飾り』 のような存在だった。 本来はチェルノブイリ事故後に根本から見直すべきだった。面倒なことを嫌った政府の怠慢だと思う。 福島第一原発事故では、 地震で原子炉が自動停止してから津波で非常用ディーゼル発電機が壊れるまでの約1時間に緊急時対策支援システム(ERSS)がリアルタイムの予測をし、 その情報を緊急時迅速放射能影響予測システム(SPEEDI )につないで避難を容易にするはずだった。 現地からのデータが途絶えても、ERSSには全交流電源喪失から炉心溶融に至る過酷事故などを想定したデータがいくつも内蔵されている。 にもかかわらず活用できなかったのは、関係者に心構えがなかったからと言わざるを得ない。 ……今各地で行われている避難訓練の決定的な問題は、30キロ圏内の住民全員が本当に避難できるかを確認していない点だ。 ニューヨーク州のショーラム原発は、避難計画を州知事が承認しなかったため、運転開始できずに89年、廃炉となった。 日本でも住民の全員避難が保障できない原発は遠慮なく廃炉にすべきだ。 原子力と付き合うには本来、そのくらいの覚悟が必要だろう」 ――この指摘を政府関係者は真摯に受け止め、姑息な対応ではなく、 「脱原発」 への方針を明示すべきだと考える。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。