在京6紙は 「脱原発大集会」 をどう報じたか

ジャーナリスト 池田龍夫 2012.7.18
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  「脱原発・10万人大集会」 を報じた7月17日付朝刊各紙を点検して、価値判断の著しい落差を感じた。 在京6紙にはそれぞれ社論があることは承知しているが、紙面扱いが対照的で、「ニュースの価値判断とは…」 という根源的な問題を考えさせられた。

  猛暑の中、全国から10万人もの市民が集まる
  脱原発を訴える 「さようなら原発大集会」 は猛暑の16日、東京の代々木公園で開かれ、全国から集まった市民で立錐の余地のない盛会となった。 主催者側発表で約17万人、警察側集計でも7万5000人というから、「3・11原発事故」 後の市民集会としては最大規模だ。 市民団体や労働組合でつくる 「さようなら原発1000万人署名市民の会」 が主催したものだが、全国から多くの市民が参加した熱気は、 時代状況≠反映したニュースに違いない。

  予断と偏見抜きのニュース報道を
  挨拶に立った呼びかけ人・大江健三郎氏(77歳)は、約750万人分の署名を野田佳彦首相に提出した翌日に大飯原発再稼動を決めた経緯に触れ、 「私たちは侮辱の中に生きている。政府のもくろみを打ち倒さなければならない」 と訴えた。 90歳の瀬戸内寂聴さんは 「政府への言い分があれば、口に出していいし、体に表していい。たとえ空しいと思う時があっても、 それにめげないでいきましょう」 と語りかけたが、一市民として純粋な気持ちを吐露したものと受け取り、 予断と偏見抜きにこの市民集会を伝えることは新聞の責務との感慨を覚えた。

  価値判断の差が歴然
  具体的に各紙を点検すると、東京新聞が1面大トップ扱いで、社会面・第2社会面ブチ抜きの展開。 毎日新聞は1面2番手扱いで、社会面トップに雑感記事を掲載した。朝日新聞は社会面2番手扱いだったが、本記・雑感を詳しく報じていた。 3紙の価値判断の尺度は妥当と考えるが、いかがだろうか。

  他の3紙のうち読売新聞は第2社会面に3段1本見出し、産経新聞が第3社会面2段1本見出しだったが、見出しに 「警察発表の7万5000人」 を掲げていた。 日経新聞の社会面ベタ扱いには驚いた。経済専門紙であっても、社会面を作っている以上こんな扱いでは読者が満足するはずがない。

  先に 「市民運動」 に対する視点が欠落していないかと問題提起したが、流動化する社会の動きを監視していくのはメディアの責務だ。 原発関連の報道では、6紙の傾向が3対3に分かれていることがますます鮮明になってきた。 社論に差があって然るべきだが、生起したニュースの価値判断だけは歪めてはならない。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。