井戸川・双葉町長の核心を衝いた発言

ジャーナリスト 池田龍夫 2012.7.27
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  埼玉県加須市に役場機能ごと避難している福島県双葉町の井戸川克隆町長は7月24日、政府事故調査委員会の報告について不満を表明。 「町独自に事故を調査・検証して報告書をまとめたい」 と述べた。毎日新聞(25日付朝刊)の取材に答えたもので、ズバリ核心を衝いた発言との印象を受けた。

  「地震による損傷は無い」 と言い切れるか
  「何万人もが避難し、事故はまだ現在進行形なのに、なぜ 『最終』 報告書なのか」 と疑問を呈し、 政府事故調が福島第1原子炉建屋内の配管などが地震によって損傷した可能性を否定した点に不満を示した。

  先の国会事故調報告は、断定を避けたものの 「地震による損傷の可能性は否定できない」 と主張。 これに対し政府事故調は津波原因説を述べている点に井戸川町長が疑問を呈し、「内部が十分に調査できないのに、なぜそう言い切れるのか。 報告書を信頼できず、読む気が起きない」 と酷評した。事故から1年4カ月、双葉町長の憤懣を、政府も国民も深刻に受け止めなければならない。

  事故調報告待たずに 「再稼動」 させた野田首相
  朝日新聞7月25日付朝刊に掲載された 「過去から学ばない失敗、繰り返すな」 と題した加藤陽子東大教授の論稿は、 野田佳彦首相の政治姿勢を鋭く批判している。「6月、野田内閣は、国会と政府2つの事故調の報告を待つことなく、関西電力大飯原発の再稼動を決定した。 首相官邸周辺のデモを 『音』 と表現した首相は、報告書を 『紙の束』 とでも考えたのだろうか。 首相は記者会見で 『国民生活を守る』 ことだけを考え、全電源を失っても、『炉心溶融に至らないことが確認されて』 いると大見得を切った。 3・11後でこう発言できる精神構造と、その帰結には既視感がある」 と指摘し、45年の敗戦までの備え無き%本の悲劇と対比して警告。 特に満州事変時のリットン報告書を吟味もせずに 『国際連盟』 から脱退した愚かな過去を振り返って、 「国会と政府事故調の報告書を、国民の一人一人がよく読み込み提言部分の最大公約数が、しかと政策に実現されるまで、 監視する必要があろう」 との分析は見事である。

  原子力委に 「反省の弁」 を求める
  国会事故調の委員だった野村修也弁護士は7月17日、内閣府原子力委員会で発言、「反省項目が上がってこないような委員会であれば、 原子力を推進する担い手としていかがなものかと国民は見ている。 委員会としての反省報告書を1カ月以内に出していただきたい」 と要望した(朝日新聞18日付朝刊)。 原子力委(近藤駿介委員長)としての総括を早急に公表してもらいたいものである。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。