「脱原発依存」 のウネリ高まる

ジャーナリスト 池田龍夫 2012.8.27
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  野田佳彦政権は2030年の原発割合について 「0%」 「15%」 「20〜25%」 の3つの選択肢をつくり、 初めて討論型世論調査を導入して国民の声を集計した。パブリックコメント(意見公募)の結果と意見調査会のアンケート結果が、8月22日発表された。

  政府の世論調査、「原発ゼロ」 の民意鮮明に
  「原発0%案」 への賛成は意見公募型が89%、意見聴取会が81%の結果となり、「原発ゼロ」 の民意が鮮明に示された。 この意見や情報をどう解釈するかについては、専門家の意見は分かれているものの、政府が試みた調査結果が示した数字の意味は重く、 今後のエネルギー政策見直しに大きな影響を及ぼすに違いない。 政府は 「原発割合15%」 へ誘導したいとの意図があったようだが、原発の恐怖を感じ取った民意は 「0%」 を選択。 先にイタリアは国民投票によって 「原発ゼロ」 政策に転換したが、今回の世論調査結果は、それに匹敵するインパクトを感じさせる。

  野田首相、反原発市民団体と異例の面会
  野田首相は8月22日、反原発市民団体 「首都圏反原発連合」 代表11人と首相官邸で面会した。 同連合は毎週金曜日に首相官邸前で原発再稼動反対の抗議活動を行っており、デモ参加者は激増。 この市民運動を無視できず、異例の直接話し合い≠ェ行われた意義は大きい。 同連合は @ 大飯原発の再稼動中止 A 現在点検・停止中の全原発を再稼動させない B 全原発廃炉への政策転換  C 原子力規制委員会の人事案撤回――の4点を要求。これに対し野田首相は 「安全性を確認したうえで再稼動を判断した。 今後、国民が安心できるエネルギー構成のあり方を考え、方向性を定めたい」 と答え、論議は噛み合わなかったと言えるが、 首相に安全性優先へのエネルギー政策転換を再認識させた意義を評価したい。

  東京新聞8月23日付社説は 「首相は国民の声を真摯に受け止め、原発再稼動を取り止めて持続可能なエネルギー源開発に力を注ぐべきだ。 市民団体の側にとっては、首相との面会はゴールではなく、通過点にすぎない」 と述べていたが、もっともな指摘である。

  朝日新聞23日付社説が 「ものごとを政治家と既得権益を持つ組織の代表や一部の専門家で決め、ふつうの市民はかかわりにくいのが、 従来の 『ムラ社会』 型の意思決定の仕組みだ。不信はそこに根ざしている。組織されない市民の声を、どう政策決定に組み込むか。 今回の試みのほかにも、様々な回路を開かなければならない。…これを、開かれた政治への一歩とすべきである」 と分析していたが、 前向きな指摘と受け止めたい。

  全国ネットワーク 「脱原発法要綱案」 にも注目
  一方、「脱原発法制定全国ネットワーク」 は8月22日、脱原発を実行させる法案の制定要綱案を、衆院第1議員会館での記者会見で発表。 要綱案では、脱原発の時期を 「遅くとも2020年度から25年までのできるだけ早い時期、と幅を持たせているが、 各政党から幅広い支持を集めたい狙いがあるようだ。 代表世話人の大江健三郎氏は 「法案提出は、原発を止める強い意思表示とともに、そこに至る過程を様々に考えていこうとするもの」 と意義を語っており、 「脱原発依存」 に向けた今後の動向が注目される。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。