「中立」 の裏に米国の打算
ジャーナリスト 池田龍夫 2012.10.10
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  領土紛争について、米国務省・ヌーランド報道官は 「日本と中国で一緒に解決してほしいということだ。 どちらの側にもつかないが、挑発的な行動ではなく、話し合いで解決する必要がある」 と述べた。 またアーミテージ元国務副長官は 「米国には日米安保条約の下で日本の領土を守る義務があり、それには尖閣諸島も含まれる。 ただ、あらゆる影響力を使って日本と中国の衝突を避けることが米国にとっても大きな利益だ」 と指摘している。 同氏は先の 「日米同盟に関する報告書」 で、中国の軍事力拡大に対応できる力を日米が持つべきだと提言しており、米国が積極対応を控えているように映る。

  米国が日本に足場を残し続ける構造
  朝日新聞10月8日付朝刊オピニオン面 「風」 欄で、立野純二・アメリカ総局長の 「『中立』 の裏に米国の打算」 と題した分析は興味深かった。
  「米国の真意はどこにあるのだろう。米中央情報局(CIA)の1971年の極秘報告書は、日本の尖閣領有権の主張には理があると認めていた。 しかし、その後度重なる検討の末、尖閣の帰属先は明記されなかったという。 …… 『日本が対ソ交渉で、4島のうち2島返還へ動こうとした際ダレス国務長官は、ならば米国も沖縄を返さないと迫り、日本の対ソ接近を阻んだとされる。 そんな歴史を振り返れば、尖閣・竹島・北方領土問題は、冷戦下の米国のアジア戦略から生まれた同根の問題に見えてくる。 つまり反米陣営に染まりかねない近隣国と日本の間に領土問題を残し、米国が日本に足場を残し続ける構造を築いた』 との原貴美枝カナダ・ウォータル大学教授は分析している。 折々の思惑を巡らせてきた米外交は、『中立』 の仮面に下にうつろう大国の打算に見える」と喝破いていた。

  米紙も日本の右傾化を危惧する論調
  米紙ウォールストリート・ジャーナルは9月15日、東京発特派員電で 「日本ではナショナリストの政治家や活動家が新たな影響力を振るっており、 中国や韓国との関係をこじらせ、日本側政策担当者の頭痛のタネになっている」 との記事を掲載した。 記事は8月15日に2閣僚が民主党政権下で初めて靖国神社に参拝したことや、尖閣諸島の国有化計画などを報じたが、 日本が中韓を “挑発” しているとの印象を与えかねない内容だった。
 野田佳彦首相は9月の国連総会で 「主義主張を一方的な力や威嚇を用いて実現する試みは、国連憲章の精神に合致しない」 と訴えたが、 各国の反応は鈍かったようだ。

  沖縄の反発が根強く、野田政権は窮地に
  領土紛争だけでなく、オスプレイ配備でも米国の強引な手口が目立ち、沖縄県の反発は日に日に高まっている。 米国の外交戦略に振回されっ放しであり、日本の対米追従の姿勢を改めないと、政治不信がいっそう高まるに違いない。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。