従軍慰安婦問題が再燃、安倍政権に逆風
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.1.14
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  安倍晋三第2次政権の従軍慰安婦問題に関する姿勢が、注目を集めている。現段階では明言を避けているものの、その動向が警戒されているようだ。 安倍首相が熱望していた1月中の訪米が延期され、2月以降にずれ込んだ背景は、米側の日程調整が難しいことが表向きの理由とされているが、 「安倍氏の従軍慰安婦に対する誠意なき、というより、悪意に満ちた態度が米国内で批判されていることと無関係ではない」 と観測されている。 朴槿恵大統領に1月4日、額賀福志郎郎特使を送ったのも安倍戦略の一環だが、朴大統領は 「正しい歴史認識が関係改善の前提だ」 とだめ押ししている。 韓国だけでなく、中国・オランダ・米国なども日本を非難しており、 安倍首相が戦時中の国家犯罪≠隠蔽しようとすればするほど国際的孤立を招きかねない様相になってきた。

  そもそも1993年8月4日に宮沢喜一改造内閣の河野洋平官房長官が発表した一文が 「河野談話」 である。 慰安婦の募集は、軍の要請を受けた業者が主として当たった。その手口は甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多く、 さらに官憲等が直接加担したこともあった。慰安所の生活は強制的な状況の下で痛ましいものであったとし、従軍慰安婦の存在は認めて謝罪した。

  知日派イノウエ議員も安倍首相の歴史認識を酷評
  オバマ大統領も従軍慰安婦問題に強い関心を向けている。昨年暮に死去し、準国葬されたダニエル・イノウエ上院議員は知日派だが、 第1次安倍政権時、安倍氏の時代錯誤の歴史認識を辛らつに批判していた。 「下院が安倍首相に従軍慰安婦に謝罪することを求める決議121号を全会一致で採択したのはこの頃である。 同郷ハワイの英雄イノウエ氏を尊敬するオバマ大統領も、安倍氏の誤りを座視できまい」 と指摘されていた。

  さらに 「赤旗」 1月11日付け報道によると、知日派として知られる米ジョージ・ワシントン大学のマイク・モチヅキ教授は10日、 国会内で開かれたシンポジウムに出席し、「安倍政権が見直しの動きを見せている慰安婦問題での 『河野官房長官談話』 と日本の植民地支配についての 『村山富市首相談話』 について、日本とアメリカの国益、 そして東アジアの繁栄のためにも堅持すべきだ」 との見解を示したが、これまた厳しい警告である。

  英国エコノミスト誌の含蓄ある警告
  また、英国 The Economist 誌 2013年1月5日号が 「ぞっとする右寄り内閣」 と酷評。 安倍政策の問題点を指摘しており、その歴史認識に関する警告は傾聴に値するので一部を紹介しておきたい。

  「第一級ナショナリストの安倍新首相は、5年間で第3期目の景気後退に耐える日本経済の転換に専心すると約束した。 『2006年から7年、経済施策が戦時罪責をめぐる不必要な暴論と、災い多い発言で内閣が引っ掻き回され、 失敗に終わったことを首相第1任期で学んだ』 と新首相は言う。しかし、新首相が任命した19人の閣僚中14人は 『一緒に靖国に参拝する会』 のメンバーである。 13人は 『日本会議』 といって、伝統的な考え方への復帰を支持し、戦時の過ちに対する 『謝罪外交』 を拒否するナショナリスト・シンク・タンクのメンバーである。 9人は、学校教育で軍国主義時代日本にもっと栄光を与えるよう求める議員の会に属している。彼らは日本の戦時残虐行為のほとんどを否定する。 この隊列中には新文科大臣・下村博文がいるが、彼は1995年に打ち立てられた道標、 日本のアジアへの残虐行為を遺憾とする 『村山談話』 撤回を望むばかりか、1946年から48年に行われた戦犯裁判判決の取り消しさえ求めている。 安倍氏は1946年アメリカが課した日本を平和主義履行の国とする憲法、また安倍氏が愛国心を過小評価すると考える教育基本法、 そして日本が従属的役割を担う安全保障条約という、国の基本的現行憲章中、3法を改訂する自らの希望を、一切隠していない。 現在のところ、安倍氏は経済の滑り出しを目論んでいる。長期デフレの意気消沈から日本を跳ね上がらせる道として、日銀に対し2%のインフレ目標を課した。 また就任に当たり 『日本の外交・安全政策の転換がまず第一歩』 と安倍氏は述べた。 必然的に中国は苛立った。中華日報は、日米同盟を中国に圧力かけるために使えば 『単に、東シナ海の尖閣諸島だけでなく、 紛争の緊張を悪化させるのみ』 と警告した。 安倍氏は中国政府に対して和平のパイプを勧めることなく、ただ表情固く日本の領土を守るとの主張を繰り返した。 1985年に記録が開始されて以来、日本が管理する空への中国サイドからの初侵入が最近あった。 先月、中国偵察機が尖閣諸島上を飛行したのを迎撃するジェット機8機の緊急発進に続くものだ。 安倍氏は中国に対し苛立ちを抑えなくてはならず、自らのナショナリスト的本能は抑制し、 過去の幽霊は自民党の地下倉庫に錠をおろして閉じ込めて置かないといけない」――。 日本メデイアの指摘よりも安倍新政権の体質を探り当て、警告を発していると思えるので、長々と引用して参考に供した次第である。

  外交政策を見直し、誠意ある対応を望みたい
  歴史問題の処理は極めて難しい外交案件で、「友好関係の改善」 だけ叫んでも相手国は容易に応じないだろう。 従軍慰安婦問題で、領土・貿易などに支障が生じるようでは本末転倒。 安倍新内閣は小手先の引き伸ばし策ではなく、大胆で誠意ある対応策を示してもらいたい。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。