安倍新政権の前途は多難
景気、原発、領土、改憲など…
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.2.1
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  3年3カ月に及んだ民主党政権が瓦解、自民党に再び日本の政治が託された。昨年12月16日行われた第46回衆院選挙は、安倍晋三・自民党が圧勝。 「自公320超、民・国民新57」 との大見出しが、各紙17日付朝刊1面を飾った。

  各紙の世論調査報道を情報操作とまでは言わないが、アナウンス効果を否定できない。 「自公圧勝」 の事前予測に一部有権者の投票意欲を鈍らせた要因と思われる。今回の投票率(小選挙区)は59・3%、戦後最低になった事実が、 それを物語っている。

  小選挙区制度の奇妙な現象
  今回の投票結果を示す数字を精査すると、奇妙な現象に気づく。圧勝した自民党の比例区支持はほとんど増えてない。 27・66%しかとっておらず、前回の26・73%からわずか 0・93%増。ところが、小選挙区では自民党が79%の議席を獲得した。 一方、日本維新の会は比例区では20%を獲得。自民・民主の失政にガッカリした多くの有権者が維新の会、みんなの党などに投票したと思われる。

  毎日新聞12月17日付夕刊は、「自民党が単独過半数を大きく超える294議席(小選挙区237、比例代表57)を獲得して圧勝、3年前に失った政権を取り戻した。 ただ、296議席を獲得した05年衆院選の比例は77議席。比例に限れば、20議席も少なく、 119議席で大敗した09年の比例55議席をわずか2議席上回るにとどまった。 全国の比例得票数を集計したところ、自民党は1662万票で、05年の2588万票、09年の1881万票にも及ばなかった。 得票率は27・6%で、09年の26・7%とほぼ変わらなかった。 投票率が09年より約10%低かったことも影響しているが、全国的に自民党支持が広がったとは言い難い。 自民党の小選挙候補の得票を合計すると2564万票で、大敗した09年から165万票減っている。 12政党の乱立で民主党と第三極勢力が非自民票を食い合った結果、相対的に自民党候補の当選する小選挙区が増え、自民党の獲得議席を押し上げた形だ。 民主党の獲得議席は57議席(小選挙区27、比例50)で、 現在の民主党が結成された98年以降の最低だった06年の113議席(小選挙区52、比例61)の半数まで落ち込んだ。 比例の得票は962万票で、09年の2984万票から約3分の1にも及ばなかった。得票率も27・6%の3分の1に激減した。 日本維新の会は54議席(小選挙区14、比例40)を獲得。比例の得票は1226万票で、民主党を大きく上回った」 と、詳細に分析していたが、 「自民圧勝、民主惨敗」 の今選挙の経緯がよく分かる。

  比例区・拘束名簿式の欠陥
  一選挙区から議員が一人選出される制度を小選挙区と呼ぶ。その長所は @ 多数派にアピールする中道的な政党の候補者が有利になり、 穏健で安定的な二大政党制が出現しやすい A 有権者と候補者の距離が近くなり、候補者に関する情報が得やすい  B 一つの政党から1人の候補者しか出ないので、中選挙区制のように同じ政党の候補者同士の戦いがなくなる  C 有権者と候補者の距離が近くなり、候補者に関する情報が得やすい、などである。

  短所は @ 選挙区から一人しか選出されないので、落選者者に投じられた死票の割合が大きくなる A 少数派の意見が代表されにくく、 小政党の存立が危ぶまれるる B 有権者と候補者の距離が近くなる分、腐敗選挙の可能性が高まる  C 多数政党に有利なように選挙区割りが行われる、いわゆるゲリマンダーの可能性がある、などである。

  また衆院比例代表制については政党が予め提出した候補者名簿によって、候補者ではなく政党に投票する拘束名簿式比例代表制だ。 この制度のもとでは、有権者は名簿のどの候補者に投票するかの自由がなく、政党によって決められた当選順位を変えることができない。 この点、それが可能な参議院の非拘束名簿弐とは異なる。

  少数党が不利、死に票も
  以上、今選挙を点検して、現行小選挙区制の問題点、矛盾点に改めて気づかされた。 特に今回は12党乱立によって支持政党を絞り込むことが難しく、投票寸前まで悩んだ人が多かった。 小選挙区では1票でも多く得票すれ1人勝ちとなって当選。今回は乱立の影響もあって、票が割れて共食いのような現象も起きた。 政党に投票する比例区との落差は、前段で指摘した通り、矛盾だらけ。これでは、少数党は細るばかりだ。 清き一票≠行使しても、死に票≠ェ増えようでは本末転倒だ。従来から制度の抜本的見直しが指摘されてきたが、早急に改正作業に移るべきである。

  政策論争を避けた?
  さて、今回の衆院選は、景気浮揚、脱原発とエネルギー政策、憲法改正、教育改革、領土紛争などの重要テーマが目白押しだった。 ところが、選挙戦に入ると他党批判ばかりで、肝心の政策論争が希薄だった。 例を挙げると、原発問題でやや劣勢の自民党は 「原発推進」 の主張を緩めて、「将来的には脱原発も」 などとの表現でゴマ化していた。 脱原発の世論に押されて修正した、選挙目当てだったことは明らかだ。また憲法改正についても、公示前には驚くべきタカ派的発言を声高に叫んでいたが、 これもトーンダウン。「現行憲法の改正手続にのっとって…」 と言うだけで、威勢のいい具体策を引っ込めてしまった。 原発や憲法問題に深入りすると選挙に不利と軌道修正したに違いない。 それに代わって突如言い出したのが、景気対策。日銀総裁の金融政策を厳しく批判、財務省官僚を無能呼ばわりしたのは選挙戦術の転換だろう。 不景気に喘ぐ有権者に対しては、身近な問題に目を向けさせた効果はあったようだ。

  野田佳彦前首相は防戦一方で、相変わらずの原則論に終始していた感が深い。 原発、改憲問題につき、その危険性を訴えていた共産・社民両党の主張に共感した有権者は少なくなかったと思う。 しかし、各党首討論会でも議論が噛み合わず中途半端に終わったことが悲しい。 また、各メディアの 「何党が勝つか」 との世論調査の過剰報道に比べ、政策論の報道が少なかった。 マスコミ全体がお祭り騒ぎ≠ノ引き込まれ、日本の将来にとって重大案件との問題意識が不足していたと感じた。

  右傾化政策を警戒する韓国・中国
  毎日新聞12月18日付社説は、「財政や経済社会保障、原発・エネルギー、統治機構など今の日本は多くの危機に直面している。 衆院選での自民党圧勝を受け次期首相に就任する安倍晋三総裁が、自らの内閣を 『危機突破内閣』 と呼ぶ考えを強調したのは当然だろう。 日米同盟の強化は、尖閣諸島をめぐる中国の執拗な挑発を抑止するためにも欠かせない。 力で現状を変えようとする行為は日米両国との関係を決定的に悪化させ、国際社会の反発も招くということを、中国に理解させなければならない。 そのうえで肝心なのは、日本が対立激化の新たな要因を作ったと中国に言わせる状況を作らない知恵である。 世界は安倍自民党の大勝に日本の 『右傾化』 『保守化』 などとレッテルを貼っている。 日本の振る舞いが国際社会にどう映るかを常に意識することは大切だ。 日米同盟を中核にしながらも、穏健な国際協調路線を基本に据えて、慎重で賢明な外交を展開してもらいたい。 安倍氏は記者会見で、靖国神社参拝についてはその外交的影響を考慮して、明言を避けた。 思想信条はともかく、安倍氏は記者会見で、靖国神社参拝についてはその外交的影響を考慮して、明言を避けた。 思想信条はともかく、首相という立場の重さを意識して現実的に対応する可能性をのぞかせたものだろう」 と、安倍首相に柔軟な政治を要望していたが、 その通りと思う。

  デフレ脱却の道筋示せ
  日経同日社説が 「日本は確かに難局にある。経済の停滞と財政の悪化は止まらず、領土問題をめぐる緊張も続く。 この閉塞状態を 『決める政治』 で打開しなければならない。急がなければならないのはデフレからの脱却と円高の是正だ。 安倍氏は政府と日銀の政策協定で2%の物価目標を掲げ、大胆な金融緩和を引き出すと公約した。 しかし日銀の独立性を脅かし、財政赤字の補填を迫るような行為は慎むべきだ。原発の位置づけを含めた中長期的なエネルギー政策も問われよう。 自民党は 『10年以内に決める』 との方針を出した。自然エネルギーの利用を目いっぱい広げ、省エネをどう進めるか。具体的な政策を明らかにしてほしい。 また、安倍氏は日米同盟を進めるとともにアジア太平洋諸国との連帯を強調している。 尖閣問題をはじめ、従軍慰安婦問題や靖国神社参拝問題について、安倍氏は保守的な持ち主として知られる。 安倍氏がこうした考え方を前面に出すようなら、韓国をはじめとするアジア諸国の一部から反発を招き、米国の警戒感も誘いかねない」 と、 注文と警告を発していたことにも注目したい。

  安倍政権は当面、経済政策に全力を傾注し、7月の参院選挙に勝利して、参院のねじれ現象打開に進む構えである。
*新聞通信調査会月刊冊子 「メディア展望」 1月号から転載

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。