広島、長崎 「平和宣言」 の力強さ
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.8.19
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  68年前の8月も猛暑つづきだった。広島・長崎両市への原爆投下から敗戦の悲惨さを忘れることはできない。 日中戦争と太平洋戦争の死者は日本人で310万人、アジアで2000万人以上にのぼった。 想像を絶する悲劇を生んだ 「8月」 を、日本人は未来永劫に引き継いでいかなければならない。

  非人道兵器・原爆は 「絶対悪」 だ!
  松井一実・広島市長は8月6日、「無差別に罪もない多くの市民の命を奪い人々の人生を一変させ、また、終生にわたり心身を苛み続ける原爆は、 非人道兵器の極みであり、『絶対悪』 です。ヒロシマは、日本国憲法が掲げる崇高な平和主義を体現する地であると同時に、 人類の進むべき道を示す地でもあります。 また、北東アジアの平和と安定を考えるとき、北朝鮮の非核化と北東アジアにおける非核兵器地帯の創設に向けた関係国の更なる努力が不可欠です。 今、核兵器の非人道性を踏まえ、その廃絶を訴える国が着実に増加してきています。 そうした中、日本政府が進めているインドとの原子力協定交渉は、良好な経済関係の構築に役立つとしても、核兵器を廃絶する上では障害となりかねません。 ヒロシマは、日本政府が核兵器廃絶をめざす国々との連携を強化することを求めます。 そして、来年春に広島で開催される 『軍縮・不拡散イニシアティブ』 外相会合においては、 NPT体制の堅持・強化を先導する役割を果たしていただきたい」 と平和宣言で決意を披瀝、日本政府は核抑止論≠ノ寄りかかることなく、 非核化へのメッセージを鮮明にすべきだと強調した。

  NPT会議 「非人道性を訴える声明」 に署名しなかった日本
  田上富久・長崎市長の平和宣言(8月9日)はさらに痛烈に、政府を批判した。
  「日本政府に、被爆国としての原点に返ることを求めます。 今年4月、スイス・ジュネーブで開催された核不拡散条約(NPT)再検討会議準備委員会で提出された核兵器の非人道性を訴える共同声明に、 80カ国が賛同しました。南アフリカなどの提案国は、わが国にも賛同の署名を求めました。 しかし、日本政府は署名せず、世界の期待を裏切りました。人類はいかなる状況においても核兵器を使うべきではない、 という文言が受け入れられないとすれば、核兵器の使用を状況によっては認めるという姿勢を日本政府は示したことになります。 これは二度と、世界の誰にも被爆の経験をさせないという、被爆国としての原点に反します。
  インドとの原子力協定交渉の再開についても同じです。NPTに加盟せず核保有したインドへの原子力協力は、 核兵器保有国をこれ以上増やさないためのルールを定めたNPTを形骸化することになります。 NPTを脱退して核保有をめざす北朝鮮などの動きを正当化する口実を与え、朝鮮半島の非核化の妨げにもなります。 非核三原則の法制化への取り組み、北東アジア非核兵器地帯検討の呼びかけなど、被爆国としてのリーダーシップを具体的な行動に移すことを求めます。 ……地域の市民としてできることもあります。わが国では自治体の90%近くが非核宣言をしています。 宣言をした自治体でつくる日本非核宣言協議会は今月、設立30周年を迎えました。 長崎では今年11月、『第5回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ』 を開催します。市民の力で、核兵器廃絶を被爆地から世界へ発信します」 ――まことに理路整然とした宣言文ではないか。

  両市民集会で挨拶した安倍晋三首相は常套的な言葉の繰り返しで、核廃絶を世界に訴える迫力に欠け、両市長の力強いメッセージが数段優っていた。 日本の立ち位置≠ェこれでいいのか、主体性のない政府の姿勢が悲しい。

  「アジア諸国への加害責任」 には触れず
  15日の政府主催 「全国戦没者追悼式」 での安倍首相式辞にも失望した。 1993年の細川護煕政権以来歴代首相が引き継いできたアジア諸国に対する加害責任への反省や、哀悼の意を表する言葉が欠落していたのだ。 各紙の情報によると、首相自身の意向を反映したものという。 憲法改正や集団的自衛権行使を模索している安倍政権の国内向けレトリックと考えられる。 また首相は靖国参拝を見送ったものの、玉串料奉納は行っている。閣僚3人を含む国会議員100人余が参拝。 朴槿恵・韓国大統領が 「光復節」 で批判するなど、中・韓両国の反発を再燃させている。 韓国国会議員が15日靖国神社を訪れて抗議、境内は騒然たる空気に包まれるトラブルまで引き起こしてしまった。 双方に言い分があるにしても、歴史認識をめぐる対立が今後も尾を引きそうで、極めて憂慮される。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。