先進工業国の責任の自覚を
世界平和アピール七人委員会がG8各国首脳らにアピール


  世界平和アピール七人委員会は、来月北海道洞爺湖畔で開かれる 「先進国首脳会議」 (G8サミット) に向けた 「北海道洞爺湖サミット参加国首脳への要望」 をまとめ、 各国大使館、代表部を通じて首脳に送るとともに、27日午後6時から、武者小路公秀、井上ひさし、小沼通二の3委員が記者会見し、 アピールを発表、記者の質問に答えました。

  アピールでは、G8首脳に、グローバル経済の拡大のもとで、「価格高騰や食糧不足が現実化し、国家間でも各国内でも経済的社会的傘が広がり、 社会不安や軍事紛争の危機を招いて」 いると指摘。「先進工業国の責任を自覚し、問題の根幹を捉えた的確な決定を」 と訴え、 「地球環境の保護、国際金融の規制ルール、国際的な人権の擁護、核兵器の禁止などについて積極的な決定」 について期待を表明するとともに、 @ 環境対策は弱者の視点から A 「反テロ」 に名を借りた戦争や人権の抑圧に反対する B 核兵器保有国は削減義務の履行を−の3点をポイントに要望しています。

  記者会見で、武者小路委員は 「前書きにあるとおり、世界はいま、大変な危機にある。私たちは、先進国だけが集まることについて、 それがけしからんとは言わないが、それならそれで、先進国の責任を自覚してほしいと思う。 たとえば環境対策でも、CO2の削減や講習料の品種改良など技術的なことや環境ビジネスなどに目が向き、 投機マネーの規制やバイオ燃料問題などグローバル経済の影響に目が向いていないことに違和感を感じる。 あくまで地球上のすべての弱者の立場から対策を講じてほしい」 と説明。 小沼委員は 「北朝鮮問題など、核の拡散ばかりが問題にされているが、核保有国の削減義務については一向に進展していない。 京都でオーストラリアのラッド首相が京都で発表した核不拡散・軍縮国際委員会の設立提案を積極的に支持し、協力してほしい」 と話しました。

  また井上委員は 「いま、南半球には非核地帯条約ができて、核は使えないことになっているが、北半球ではこれが広がらないし、世界にはまだ2万9000発の核がある。 環境問題でも、世界の大洋にはビニールやポリエチレンなど分解されないゴミがたまる地域がいくつもできている。 私たちが言いたいのは、自分たちのしなければならないことを、もっとまじめにやってほしいということだ。 G8はいまの世界の状況を創った先進国の責任を自覚して、反省する会にしてほしい。メディアはそういう意味でも私たちの意見を広く伝えてほしい」と述べました。

  世界平和アピール七人委員会は、1955年11月、湯川秀樹、下中弥三郎、平塚らいてう、植村環氏らによって設立され、これまでに内外に向けて、 91本のアピールを発表してきました。今回のアピールは92本目。サミットに向けてのアピールとしては初めてです。
  現在の委員は、武者小路公秀、土山秀夫、大石芳野、井上ひさし、池田香代子、小沼通二、池内了の各氏です。


アピール No.92J
北海道洞爺湖サミット参加国首脳への要望

2008年6月27日
世界平和アピール七人委員会
委員 武者小路公秀 土山秀夫 大石芳野 井上ひさし
 池田香代子 小沼通二 池内了

  世界平和アピール七人委員会は、北海道洞爺湖畔に集まるG8首脳各位に対し、 先進工業国の責任を自覚し、問題の根幹を捉えた的確な決定をくだされることを切に望みます。
  いま世界は、拡大するグローバル市場経済のもと、原油などの価格高騰や食糧不足が現実化し、 国家間でも各国内でも経済的社会的格差が広がり、社会不安や軍事紛争の危機を招いています。
  世界の不安を取り除くには、民主的で公正な国際関係と市民社会の積極的な関与が必須であり、そこでの先進工業国の責務は重大です。 今回の協議において、地球環境の保護、国際金融の規制ルール、国際的な人権の擁護、核兵器の禁止などについて、 積極的な決定をされることを期待し、次のように要望します。

1) 環境対策は弱者の視点から

  私たちは、今回の協議が地球温暖化に対処しようとしていることを高く評価します。 環境においても強者であるG8には、地球上のすべての弱者の視点に立って対策を講じる責務があります。

  しかし、CO2削減などの技術的な施策に力点が置かれ、環境問題の根底にグローバル経済の影響があることへの認識があまり感じられないことに対して、 違和感をいだかざるをえません。

  たとえば日本はホスト国として、地球温暖化問題と食糧問題との不可分の関係を主要議題にしようとしています。 それは評価しますが、提案の中心は、高収量の品種の開発・普及や農業技術の移転などです。 もっぱら技術面を強調することで、原油や穀物価格の高騰を招いている投機マネーや、 貧困層の食糧を奪うことになるバイオ燃料の問題から目をそらすことがあってはなりません。

  環境保全と開発の両立をうたい、開発途上国の協力を得ようとしていることは理解します。 しかし報道によると、準備会議では、途上国への技術開発援助などが突出して議論されたようです。 すでに温暖化の被害を受けている、そして今後ももっとも受けやすいのは、開発途上国の貧困層や、先住民など伝統的な生活を送っている人々、 中でも女性や子どもです。脆弱な社会経済状況を克服しようとしている人々や、その支援にあたっている国際的な市民運動が進めている、 被害を未然に防ぐことができる国際的な仕組みつくりを支援するために、サミットにおいて真剣に議論されることを希望します。

  CO2排出権取引については、環境保全に一定の効果はあるものと認めますが、 国際投機マネーの流入が金融開発途上国への種々の阻害要因になりかねない危険に留意し、この制度が本来の目的を果たすべく配慮されるよう要請します。

2) 「反テロ」 に名を借りた戦争や人権の抑圧に反対する

  私たちは、今回の協議において、テロをはじめ国際組織犯罪の防止策が協議されることにとくに注目しています。 「反テロ」 戦争が、問題の文化社会的・政治経済的な根本原因の除去よりも、処罰と排除、 監視と抑圧といった対症療法的な軍事的・警察的対策を重視していることに強い危惧を覚えます。

  いまや監視体制は街角から宇宙までひろがり、テロ容疑者の尋問のための秘密収容所や、 グローバル格差が生み出す難民・「非合法」 移住労働者などの収容所が、南北格差の境界線に乱立して、新たな 「鉄格子のカーテン」 をつくりだしている観があります。 先進工業国の利害を優先するあまり、開発途上国の貧困層の不安と絶望を増大させるこうした対策は、先進工業国内の格差拡大とともに社会不安を助長し、 テロと犯罪の温床となっている可能性すら見受けられます。

  今回の協議では、「反テロ」戦争という発想を脱し、世界のすべての人々が平和に生存できる世界を構築する責任を確認されるよう強く希望します。

3) 核兵器保有国は削減義務の履行を

  私たちは、核兵器保有国が未だに核兵器使用を否定していないことを大いに危惧しています。 いかなる理由であれ、もし核兵器が使用されれば、人類史上最大の環境破壊になることに疑いの余地はありません。 その意味で、今回、核兵器の拡散防止が協議されることを全面的に支持します。

  しかし、核の平和利用と軍事利用の境界があいまいになっている今日、核兵器を保有したり、自国内への配備を容認したり、 核の傘に依存するなどの安全保障政策を保持する国がある限り、核兵器不拡散を徹底させることは不可能です。

  サミットの全参加国が、核軍備の縮小など核兵器不拡散条約第6条 (注1) に明記された約束をあらためて想起し、 各国がただちに明確な具体的計画を策定し、速やかに実施に移すことを要望します。 その意味からも、最近京都でオーストラリアのケビン・ラッド首相が発表した核不拡散・軍縮国際委員会の設立提案 (注2) をサミット参加国が積極的に支持し、 協力されるよう要望します。


注1) 核兵器不拡散条約 第六条 (条文)
  各締結国は、核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、 並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うことを約束する。

注2) ラッド首相の提案
  オーストラリアノケビン・ラッド首相は、来日第2日の2008年6月9日に、広島から移動した京都で、核不拡散・軍縮国際委員会の設立を提案した。 この委員会は、キャンベラ委員会、東京フォーラムの成果を再吟味し、残された問題を確認し、 2010年のNPT再検討会議を視野に入れて将来の行動計画を発展させることを目標としている。
  キャンベラ委員会 (正確には 「核兵器廃絶についてのキャンベラ委員会」) は、 核兵器のない世界への現実的提案を作るため1995年11月にオーストラリア政府が設立した国際的な独立の委員会で、1996年8月に詳細な報告書を発表した。 東京フォーラム (「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」) は、1998年に日本政府の呼びかけで発足し、1999年に17項目の提言を含む報告書をまとめた。