遺棄毒ガス・砲弾被害賠償請求事件弁護団
2007年7月18日
    
声 明
 
  本日、東京高等裁判所第5民事部(小林克巳裁判長)は、被控訴人(一審原告)らが、日本政府に対し、 旧日本軍が中国に遺棄してきた毒ガス・砲弾の被害による損害賠償を請求していた事件の控訴審で、 一審判決において全面勝訴をした被控訴人(一審原告)らの請求を翻し、同人らの請求を棄却する不当な判決を下した。

  本判決は、一審判決同様、大量の遺棄毒ガス兵器がいずれも日本軍のものであること、これらの毒ガス兵器は、 旧日本軍が川に投棄しあるいは地中に埋設し、それぞれ隠匿した上、遺棄したものと明確に認定し、本件各毒ガス兵器につき、 ソ連軍あるいは国民党軍のものであるなどの国の主張を証拠に基づきいずれも排斥した。

  しかしながら、本判決は、不作為の不法行為にあっては、 ある具体的な行為をしてさえいれは権利侵害の結果が生じていなかった高度の蓋然性が認められるという関係(条件関係)が必要であるとし、 本件は、その条件関係が認められないとして、国の不法行為の成立を否定した。

  判決は、遺棄毒ガス兵器の分布範囲は広大な中国大陸に及んでおり、毒ガス兵器等の遺棄地点はいまだ特定されていないこと、 旧日本軍関係者の供述に基づいて毒ガス兵器が発見されていないことの2点を挙げて条件関係を否定しているが、 かかる事実認定がおよそ説得力をもたないものであることは明らかである。 しかしながら、できるだけ多くの場所で、できるだけ発見されにくい方法で遺棄・隠匿し、関係書類も消却して、それで年月が経てば、 遺棄兵器が存在する場所を特定できないなり、条件関係が否定されるという判断であり、常識に反した極めて不当な判決である。

  他方、判決は、日本政府に対して、本件被控訴人被害者らの救済措置の策定を望む旨の付言を詳細に述べている。 わが国は、化学兵器禁止条約の批准を待つまでもなく、わが国は遺棄兵器に関する情報を収集した上で、 中国政府に対して、遺棄兵器に関する調査や回収の申出をすること、また、情報を提供することは国家としての責務であると述べた上、 上記責務を果してもこれによって被害の発生を未然に防止できる可能性が少ないとか、 すでに中国政府が遺棄毒ガス兵器の調査回収を行なっているなどの理由で、 情報の収集やその提供を真摯に行なわないなどということは責任ある国家の姿勢として許されないとした。

  本件毒ガス兵器の被害者や遺族が現在に至るまで全く何らの補償もおこなわれていないことを指摘した上、 本件毒ガス被害者を補償しないことは正義にかなったものとは考えられないとし、全体的かつ公平な被害救済措置の策定を望むとした。

  被控訴人(一審原告)ら被害者は、旧日本軍により遺棄された毒ガス(イペリット・ルイサイト)により慢性気管支炎を含む呼吸器系障害、 胃潰瘍等の消化器系障害、皮膚障害、遅発性慢性角膜炎等の眼障害、中枢神経系の障害など、時間の経過とともに全身に障害を受け、 ほとんど全ての被害者が稼働できない状況である。本判決の付言のとおり、国の政治的責任は免れない。

  日本政府は、被控訴人(一審原告)らに賠償し、さらに中国国内における旧日本軍による遺棄毒ガス兵器被害者への医療支援、 生活支援を含む被害者全体の救済を一日も早く実現すべきである。

  弁護団は直ちに上告するとともに、本日の判決を契機にして、早期の全面解決を強く求め、内外の世論と運動を力にしつつ、 これら被害者に対して、早期の救済をはかるべく、最後まで戦い抜く所存であることを表明し、本判決に対する声明とする。

    2007年7月18日
    遺棄毒ガス・砲弾被害賠償請求事件弁護団