沖縄密約情報開示請求訴訟 資料


平成23年11月14日

  内閣総理大臣 野 田 佳 彦  殿


                    沖縄密約情報公開訴訟
                    原告共同代表  桂     敬  一
                               柴  田  鉄  治
                               新  崎  盛  暉

外務省への公開質問書提出のお知らせ及びお願いの件

  平成21年に国を被告(処分行政庁は外務省及び財務省)とする、いわゆる沖縄密約情報公開訴訟(東京地方裁判所民事第38部  平成21年(行ウ)第120号文書不開示決定処分取消等請求事件)を提起した私たち原告は、 本年9月29日の控訴審判決における認定事実や判示理由に照らしたとき、 それらの所見と外務省のこれまでの言動とのあいだに多くの食い違いがあることを重視し、これらについて不審を晴らすため、 公開質問書を11月14日付で外務大臣宛に提出、回答を求めることにしましたので、政府の最高責任者としての貴職にもお知らせ申しあげるしだいです。 公開質問書の写しを同封いたしますので、詳細はこれによりご理解くださるよう、あわせてお願い申しあげます。

  私たちの訴訟の提起は自民党政権下のことでした。そして、平成22年4月の東京地裁一審判決は、 被告・国に対して当該密約を証する文書の開示を命令するものでした。 しかし、情報公開の推進を公約した民主党政権下で、国はこの判決を不服として控訴(事件名:東京高等裁判所第19民事部 平成22年(行コ)第183号  文書不開示決定処分取消等請求控訴事件)、私たちは被控訴人として再び裁判の続行を強いられ、納得し難い判決理由により、原審判決を取り消され、 訴え、請求もすべて却下、棄却される事態に逢着しました。

  この控訴審判決の事実認定は、開示請求対象の密約文書がとくに重要なものであればあるだけ、外務省が密約そのもの、 ならびにその証拠文書を隠蔽する必要を強く感じ、公式発言ではそれらの不保有を言明しながら、実際には限られた人間による特殊な保管をつづけ、 最終的には平成13年の情報公開法施行前、秘かに 「廃棄」 した可能性が否定できない、とするものでした。 そして、このような可能性を根拠に被告の主張する 「不存在」 は妥当なものであり、不開示処分決定の理由としても情報公開法上十分であるとし、 この決定を適法としたのです。私たちは情報公開法をこのように解釈する判決には承服できません。 そのため、本年10月12日、最高裁判所に上告いたしました。

  もちろん私たちは、最高裁判所の公正な判断を見守る所存です。しかし、控訴審判決の指摘と、外務省の言明とのあいだに認められる食い違いは、 裁判とは別に追及せざるを得ない問題です。なぜならば、判決が外務省の各種の密約の存在、それを裏付ける文書の取得、 その廃棄までの保管の続行等を、すべて事実として認定したのに対して、外務省は、沖縄返還交渉当時から現在に至るまで、 それらすべてを 「不存在」 「不保有」 とのみ、いい続けてきたからです。控訴審判決についての報道談話も、 「請求文書を保有していないという従来の政府の主張が認められた」 (藤村修官房長官)、 「ないものないないから、すみませんということです」 (山口壮外務副大臣)と述べるだけのものでした。 このように判決を、自分たちを正当化するものとして、全面的に肯定、受容するからには、外務省は廃棄によって 「不存在」 「不保有」 の状態に至った、 と判決が断じた部分をも、受け入れざるを得ないのが法理です。 外務省は否応なく、事実とされた公文書廃棄の行為について説明責任を負う関係に置かれます。

  私たちはこの点を、不備が目立つ現行の情報公開法によってのみ、争うつもりはありません。 そのことは、民主党も情報公開法改正案をおまとめになっておられるので、貴職にも十分ご理解いただけるものと考えます。 私たちはそれよりも、国民の納得がいかない、こうした問題を放置し、政府が統治行為の正統性を危機に晒すことをおそれるものです。 外務省は、実際に文書廃棄をしているのなら、その事実を率直に認め、それが正当な行為なのか否か、不当な行為であるとしたら、 なぜそうした事態が発生したかの理由、責任の所在、今後の防止策などを、早急に国民の前に明らかにすべきです。 あるいは、廃棄の事実がないのなら、一審判決が命じたように、さらに探索を続け、文書開示に結びつけていくべきです。 過失による紛失が確認できたのなら、そのことを謝罪したうえで、米国側保存文書を用いてでも、密約の事実を認めるべきです。 政府に対する国民の信頼回復を真面目に望むなら、それこそが早道です。

  私たちは、発足した民主党政権が情報公開の促進を公約し、沖縄密約関係文書の公開に力を入れだしたことを歓迎、 自民党単政権時代の談合がまかり通ってきた国内政治、不透明な外交に、終止符が打たれるのかと期待しました。 しかし、本件訴訟を提起したのち、せっかくの政権交代が起こったのに、政府は公約の方向には大きく動こうとせず、 外務省にいたっては、曖昧な調査を重ねながら、相変わらず自民党時代の密約外交を庇いつづけており、 私たちはしだいに大きな失望を感じるようになりました。情報公開法改正案も国会提出後、店ざらしのままであり、 明年の通常国会に提出と報じられている 「秘密保全法制」 は、限定不能とも思える 「特別秘密」 を設けて公務員に厳しい守秘義務を課し、 必然的に情報公開とは逆行する流れを強めるおそれがあります。 民主党政府は政権運営への協力を求めるため、情報公開を自民党との取引材料にするのか、との疑惑を国民のあいだに招きかねません。

  そのような疑念を払拭し、「国民の知る権利」 を尊重、日本における情報公開制度の発展を目指し、民主主義をしっかり根付かせるためにも、 外務省は今、沖縄密約問題をめぐる態度について深刻に反省し、私たち原告の公開質問書にも誠実に回答することが求められている、 といわなければなりません。また、外務省をそうした方向に導き、実地において情報公開制度の基盤的な条件を整えるためにリーダーシップを発揮することは、 まさに政府の最高責任者である貴職が双肩に担うべき課題であります。 外務省の指導、監督に関して遺漏のないご協力を賜りたく、重ねてご高配をお願いいたします。 なお、貴職に対するのとほぼ同じ内容の書状と外務大臣宛の公開質問書を、被告代表者である平岡秀夫法務大臣にもお送りしたことを、ここに申し添えます。
以 上