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ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に抗議する憲法研究者の声明

2022年3月16日


ロシアのウクライナに対する軍事侵攻に抗議する憲法研究者の声明

 2022年 2 月21日、ロシアのプーチン大統領は、ウクライナ東部 2 州を、それぞれ独立した「ドネツク人民共和国」および「ルガンスク人民共和国」として承認した。プーチン大統領は、ただちに両国と相互安全保障条約を締結したが、この条約は、ロシア軍が両「国」において軍事基地を建設し、それを使用する権利を認めるものである。またプーチン大統領は、ロシア国防省に、両「国」での平和維持活動を行うよう指示した。
 2 月24日、ロシア軍は国境を越えてウクライナに軍事侵攻を開始した。ロシア軍は首都キエフをふくむウクライナ全土で、ウクライナの軍事施設のみならず、一般の病院・学校・住宅など民間施設を爆撃している。その結果、多数のウクライナ軍兵士とウクライナ市民、さらにロシア軍兵士に死傷者がでている。すでに百万人をこえるウクライナ市民が、戦火を逃れようと、ルーマニアやポーランドなど欧州諸国にむけて避難を開始している。しかし避難経路の安全は確保されておらず、途中で失われる人命も少なくないと報じられる。さらにロシア軍は武力攻撃を拡大している。
 ロシアのウクライナ侵攻を非難する世論は、ますます強まり、国連総会でも 3 月 2 日、ロシアに対して即時・完全・無条件に、ウクライナの領土から軍隊を撤退させるよう求める決議が、圧倒的多数の賛成をもって採択された。他方、欧州では、ウクライナ侵攻にともなって、軍事力に依存しようとする動きもみられる。このような動きは、平和的共存にもとづく国際社会の再構築にとって有害であり、言論や報道の歪曲が横行する中で、国家間の軍事紛争が民族的偏見や憎悪へと転化してしまうことも憂慮される。
 人類が「欠乏からの自由」と「恐怖からの自由」を享受し、平和のうちに生存するために必要な、地域と国家と社会と環境とが、いま深刻なダメージをうけている。
 日本国憲法前文は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたい」ことを規定する。またこの憲法は、全世界の国民に対して、平和的生存権を保障することを宣言する。そのような日本国憲法に立脚して、わたしたち日本の憲法研究者有志は、ウクライナ、ロシア、日本を含めた全世界の政府と民衆にむけて、以下の声明を発する。

 一、ロシアがウクライナ東部の 2 州 (ドネツク州およびルガンスク州) を、それぞれ独立「国家」として承認し、それら「国家」との間で相互安全保障条約を締結したことは、ウクライナの内政に干渉し、同国の領土的一体性を損ない、主権国家の独立と平等を尊重する国連憲章2条1項をはじめとする国際法に反するものであること。

 二、ウクライナがロシア領土に対する攻撃をしていないにもかかわらず、ロシアがウクライナに軍事侵攻をすることは、不戦条約 1 条や国連憲章 2 条 4 項が禁止した他国に対する侵略戦争に該当し、ロシアの自衛権行使として正当化されないこと。またかりにウクライナ東部2州が独立国であったとしても、ウクライナがそれらに対する攻撃をしていないにもかかわらず、ロシアがウクライナに軍事侵攻をすることは、ロシアの集団的自衛権行使として正当化されないこと。したがっていずれの意味においても、ロシアの軍事侵攻は国際法違反であること。
 ロシア軍はウクライナ全土 (東部 2 州を含む) における違法の攻撃をただちに停止し、またウクライナ全土 (東部 2 州を含む) からただちに撤退するべきこと。

 三、戦争を禁止し、国家間の紛争を平和的手段で解決することを原則とした国連憲章にかんがみ、ウクライナ・ロシア両国は、ただちに国連総会および国連安全保障理事会の主導で紛争が解決されるよう、誠実に努力すべきこと。日本を含む他の国連加盟国は、国連が主導する平和的手段によって紛争が解決されるように、協力すべきこと。またロシアを含む安全保障理事会常任理事国は、安全保障理事会で拒否権を濫用せず、問題が迅速かつ適切に解決されるよう努めること。

 四、核兵器は、住民と地域に対する甚大な被害をもたらす非人道的な兵器であり、全地球的で回復困難な害悪すらもたらしかねないものである。核兵器保有5カ国は2022年 1 月 3 日、「我々のいかなる核兵器も、お互いの国家、あるいは他の国家を標的としたものではないことを再確認する」という共同声明を発した。これらのことを想起して、ロシアをふくむすべての核兵器保有国は、ウクライナ侵攻にかかわって、核兵器を絶対に使用しないこと。
 核保有国が、他国に対する核兵器の使用を明確にあるいは暗に示すことによって、他国に対する干渉や抑圧を強めようとすることは、主権国家の自律を保障した国際法に対する侵害として許されない行為であること。

 五、1986年のチェルノブイリ原発事故が民衆にもたらした惨劇を、再び繰り返してはならない。またジュネーヴ条約第一追加議定書は、原子力発電など危険な力を内蔵する工作物等に対する軍事攻撃を禁じている。これらのことにかんがみ、ロシアは、チェルノブイリやザポリージャをはじめとするウクライナ国内にある原子力発電施設への軍事攻撃を絶対におこなってはならないこと。
 それらの施設から核物質が外部に漏出したり、施設が破壊されたりすることのないよう、その管理運営にロシア軍は絶対に介入しないこと。すでに占拠している施設からは、ただちに軍隊を撤退させること。施設の復旧のために、国際社会は、国際原子力機関などに対して最大限の協力をおこなうこと。

 六、核兵器を保有したり使用したりすることは、ウクライナ紛争の解決にならない。むしろ核兵器が増えたり、保有国が増えたりすれば、意図的あるいは偶発的使用の可能性が高まる。このことにかんがみ、国際社会は核兵器の廃絶にむけて一丸となるべきであり、ウクライナ・ロシア両国をふくむすべての国は、核兵器禁止条約にいまこそ加入するべきであること。
 日本政府は、核保有国に核兵器を廃絶するようはたらきかけるために、「核兵器を保有しない・製造しない・持ち込ませない」という核兵器禁止三原則を堅持しつつ、かついまこそ核兵器廃止条約に率先して加入すること。また今夏に開催される核兵器禁止条約締約国会議へ参加し、核廃絶を求める国際世論の一翼を担うこと。それに逆行する「核兵器保有」論や「同盟国との核兵器共有」論は、政府として絶対にくみしないこと。

 七、日本をふくめた各国は、ウクライナ紛争の平和的解決のため、外交的・経済的手法を追求すべきこと。紛争当事国・紛争地域へ兵器その他の軍事物資を移転したり、軍隊・兵員を派遣したり、兵員を訓練したりすることは、そのような努力を損なうものとなりかねず、慎むべきこと。またウクライナ戦争を利用した軍需産業の営利行為を許さず、国際的な武器管理システムを堅持するなどして、適切な歯止めを維持すること。

 八、ウクライナ・ロシア両国は、国際人権法が保障した、ウクライナ市民の自由と権利と尊厳とを絶対に侵害しないこと。とくに戦時国際法の規定を遵守し、一般市民およびその居住する都市を攻撃の対象とせず、またとりわけ女性、子ども、その他、脆弱な人たちを保護すること。また避難民に危害を加えず、その希望する地域への避難を支援すること。
 現に何百万人ものウクライナ市民が、食料や医薬品や衣料の不足という生命や健康への差し迫ったリスクに脅かされていることにかんがみ、ウクライナ・ロシア両国は国際社会の人道的支援活動を妨げないこと。
 日本政府は、ウクライナ市民のための救援物資支援をはじめとする人道的支援に積極的にとりくみ、また避難をもとめるウクライナ市民を「難民」として受け入れ、在日ウクライナ人への法的支援をすすめること。

 九、貿易規制などの経済的制裁は、それが紛争の解決に適合的な限り必ずしも排除されないが、被制裁国で暮らす民衆の生命や健康を害することにならないよう、とくに食料・医薬品・エネルギーなどについては十分な配慮のうえで講じられるべきこと。

 十、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」というユネスコ憲章前文を想起し、各国政府は、メディアの取材と報道によって真実がひろくつたえられるように、またウクライナ人やロシア人を含めたすべての民族を対象とする偏見や憎悪表現が排除されるように、必要な注意をはらうこと。文化・芸術・スポーツなどの領域における交流は、それが紛争当事国の宣伝に悪用されない限り、つねに尊重されるべきこと。
 すべての民衆は、心の中に平和のとりでを築くべきこと。

以上

【賛同者】 2022年 3 月16日12時段階 84名
愛敬浩二 (早稲田大学)
浅野宜之 (関西大学)
麻生多聞 (鳴門教育大学)
足立英郎 (大阪電気通信大学名誉教授)
飯島滋明 (名古屋学院大学)
井口秀作 (愛媛大学)
石川多加子 (金沢大学)
石塚 迅 (山梨大学)
石村 修 (専修大学名誉教授)
井田洋子 (長崎大学)
稲 正樹 (元国際基督教大学教員)
植野妙実子 (中央大学名誉教授)
植松健一 (立命館大学)
浦田賢治 (早稲田大学名誉教授)
榎澤幸広 (名古屋学院大学)
江原勝行 (早稲田大学)
大内憲昭 (関東学院大学)
大野友也 (鹿児島大学)
岡田健一郎 (高知大学)
奥田喜道 (奈良教育大学)
小栗 実 (鹿児島大学名誉教授)
奥野恒久 (龍谷大学)
加藤一彦 (東京経済大学)
上脇博之 (神戸学院大学)
河合正雄 (南山大学)
河上暁弘 (広島市立大学)
川畑博昭 (愛知県立大学)
菊地 洋 (岩手大学)
木下智史 (関西大学)
君島東彦 (立命館大学)
清末愛砂 (室蘭工業大学)
倉田原志 (立命館大学)
倉持孝司 (南山大学)
小林 武 (沖縄大学)
小林直樹 (姫路獨協大学)
小松 浩 (立命館大学)
近藤 敦 (名城大学)
近藤 真 (岐阜大学名誉教授)
斎藤一久 (名古屋大学)
斉藤小百合 (恵泉女学園大学)
笹沼弘志 (静岡大学)
澤野義一 (大阪経済法科大学)
清水雅彦 (日本体育大学)
鈴木眞澄 (龍谷大学名誉教授)
菅原 真 (南山大学)
髙佐智美 (青山学院大学)
高橋利安 (広島修道大学名誉教授)
高良沙哉 (沖縄大学)
竹内俊子 (広島修道大学名誉教授)
竹森正孝 (元岐阜大学教員)
田島泰彦 (元上智大学教授)
多田一路 (立命館大学)
建石真公子 (法政大学)
常岡せつ子 (フェリス女学院大学名誉教授)
内藤光博 (専修大学)
中川 律 (埼玉大学)
中里見博 (大阪電気通信大学)
中島茂樹 (立命館大学名誉教授)
長峯信彦 (愛知大学)
中村 安菜 (日本女子体育大学)
永山茂樹 (東海大学)
成澤孝人 (信州大学)
成嶋 隆 (新潟大学名誉教授)
二瓶由美子 (元桜の聖母短期大学教員)
丹羽 徹 (龍谷大学)
根森 健 (新潟大学・埼玉大学名誉教授)
長谷川憲 (工学院大学名誉教授)
波多江悟史 (愛知学院大学)
濵口晶子 (龍谷大学)
福岡英明 (國學院大學)
藤井正希 (群馬大学)
藤野美都子 (福島県立医科大学)
本庄未佳 (岩手大学)
前原清隆 (元日本福祉大学教員)
松原幸恵 (山口大学)
水島朝穂 (早稲田大学)
宮井清暢 (富山大学)
三宅裕一郎 (日本福祉大学)
宮地 基 (明治学院大学)
村田尚紀 (関西大学)
本 秀紀 (名古屋大学)
山内敏弘 (一橋大学名誉教授)
脇田吉隆 (神戸学院大学)
和田 進 (神戸大学名誉教授)

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