「君が代」 斉唱・上告審で、新たな判断基準示す

ジャーナリスト 池田龍夫 2012.1.23
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  卒業式・入学式シーズンになると、公立学校での 「君が代」 斉唱をめぐるトラブルが起きて懲戒騒動を引き起こしてきた。 東京都の教職員が式典で日の丸に向かって起立せず、 君が代を斉唱しなかった理由で処分された件につき最高裁第一小法廷(金築誠志裁判長)は1月16日、 「戒告は裁量権の範囲内だが、減給・停職は慎重に考慮する必要がある」 とする判決を下した。 平たく言えば、「式典を妨害もしてないのに、職務命令に反したとの理由で懲罰的処分をするのは重すぎ、慎重に考慮すべきだ」 ということで、 「処分と訴訟」 という “不毛な対立” に歯止めをかけた判決といえよう。

  不毛な対立を招く懲戒処分に “歯止め”
  「国旗・国歌法」 が成立した1999年度以降、式典でのトラブルによって懲戒処分された教職員は全国で述べ728人も上るという。 今回訴訟を起こしていたのは東京都内の公立学校の元教員ら計171人。そのうち、2年で3回の不起立で停職1カ月になった1人と、 減給になった1人の処分は取り消されて名誉を回復。過去に国旗掲揚を妨害し、 校長の対応を批判する文書を生徒に配った別の停職処分者1人については 「裁量権の乱用とはいえない」 として処分を取り消さなかった。 残る168人は戒告だったため 「裁量権の範囲」 との判断となった。

  教員の歴史観や信念に配慮を
  「公務員の懲戒処分については 『社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を乱用した場合は違法』 とする1977年の判例がある。 最高裁が今回示した不起立に対する判断基準は、この判例に沿いつつ、不起立が教員個人の歴史観や信念に基づく行為である点を踏まえた。 日の丸・君が代が戦前の軍国主義の象徴になった経緯を重視し、『強制』 に反対してきた教職員らの思いに一定の配慮したことがうかがえる。 最高裁がルールを示したことで、今後の懲戒処分の判断や処分の是非をめぐる裁判での判断の道筋ができたことになる」 (朝日新聞1月17日付朝刊)がコメントしているように、この判決を契機に、 学校内での “不毛な争い” に終止符を打つ方向に関係者が熟慮してもらいたいと願っている。

  非行などと次元が異なるテーマだけに、慎重に扱え
  今回の最高裁判決は裁判官5人のうち4人の多数意見によるものだが、 多数意見に賛同した桜井龍子裁判官(元労働省女性局長)は 「従来の機械的な処分自体が問題」 との補足意見を表明している。 弁護士出身の宮川光治裁判官が 「不起立行為は信念に起因するもので、いわゆる非行・違反行為とは次元を異にする。 他の職務命令違反と比較しても、違法性は顕著に希薄だ。原告らの歴史観は独自のものではなく、一定の広がり共感がある。 学説などでは起立・斉唱を業務命令で強制することは憲法19条に違反するという見解が大多数だ」 と、1人反対意見を主張していた。 裁判官でも意見が食い違う、憲法観に繋がる重大テーマだけに、“強権発動” だけは自戒してもらいたい。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。