「情報発信の不備」 が招いた混乱を陳謝
政府事故調で枝野・前官房長官
ジャーナリスト 池田龍夫 2012.5.28
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  国会の原発事故調査委員会(黒川清委員長)は5月27日の第15回会合に枝野幸男・経済産業相(前官房長官)を参考人として招き、 事故当時の対応を中心に約2時間半にわたって事情聴取した。
  各委員から、「炉心溶融」 発表の遅れ、二転三転した 「避難情報」 の不手際などに厳しい追及が行われた。 前回の海江田万里・前経産相は情報の混乱に振り回されたと証言していたが、枝野氏も 「情報発信の不備」 を率直に認め、反省の弁を繰り返した。

  SPEEDI が働かず、避難指示に不手際
  証言内容は28日朝刊各紙が詳報すると思われるので、質疑を傍聴して感じた幾つかの問題点を報告したい。
  @ 「3・11事故」 発生から15日ごろまでの情報が混乱。的確な情報をスピーディに流せなかった。 放射性物質の拡散を予測するSPEEDI (緊急時迅速放射能影響予測ネットワーク)の試算公表の遅れが 「住民の信頼を損なう大きな原因になった」 と証言、 「多くの皆さんが避難を余儀なくされ、申し訳なく思う」 と陳謝した。避難区域が10キロ→20キロ→30キロ圏と変わり、屋内退避要請も含め、 避難指示に問題があったことを認めた。

  「炉心溶融」 公表が遅れる
  A 原子力安全・保安院の広報担当審議官が事故翌日の3月12日の記者会見で 「炉心溶融」 の可能性を認めた直後に担当を交代させられた点について、 委員が 「炉心溶融の言葉を使わないよう指示したのでは…」 と追及。枝野氏は 「こういう言葉を使うなと指示したことはない。 翌日の私の会見でも 『炉心溶融の可能性』 と言っている」 と否定したが、政府が炉心溶融を正式に認めたのは6月7日だった。 この点を指摘されると、枝野氏は 「3月13日の会見で、可能性≠ノ言及していた」 と答えだけで言葉に窮した。

  B 3月15日未明に 「東電全面撤退」 の情報を耳にした枝野氏が第1原発の吉田昌郎所長(当時)に電話したことも明らかにした。 「本社が全面撤退のようなことを言っているが、まだやれることはあるかと聞いたら、所長は 『まだやれることがある。 頑張ります』 と答えた」 のでホッとしたと証言。東電側は全面撤退を考えたことはないと説明しており、改めて政府中枢との認識の違いを露呈した。

  C 3月14日に米国から 「米国人技術者の官邸駐在の要請」 があったが、断った。その後もNRC(米国原子力規制委員会)からの情報が寄せられるなど、 米国はかなり苛立っていた。外国への情報発信にも反省材料は多い。

  「リスクコミュニケーション」 の欠如を痛感
  D 東電と官邸間の情報の流れが悪いうえ、保安院の説明も不適切。「直ちに人体に影響はない」 との説明の仕方も反省している。 「リスクコミュニケーション」 の欠如を痛切に感じている。わが国にも有能な 「政府広報官」 を新設、リスク対策を充実させる必要がある。 官房長官とは別な人材を育成して、広報態勢を整備しなければならないと思う。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。