ドイツの政治理念に学ぶことは多い
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.2.6
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  「欧州の中で、メルケル首相率いるドイツの存在感が増している。経済危機への対応を仕切り、ベルリンは 『EU』 の首都と称される。 何が起きているのか」――朝日新聞2月3日付別刷 Globe の問題提起は興味深かった。 安部晋三政権の迷走ぶりにイラついていたので、メルケル独政権の政治手法に学ぶべき点が多いことに感じ入った。 その内容の一部を紹介しながら考えてみたい。

  安倍政権の歴史認識を懸念
  「ドイツと同様に日本も過去に向き合い、1995年の村山富市首相談話や河野洋平官房長官談話などを発表した。 ドイツでは過去への反省という点では、保守派と左派の差はさほど大きくない。ドイツとフランスは、過去には対話が難しい関係だったが、 今は全くそうではない。安倍政権が歴史認識を国家主義的な方向に変え、中国や韓国との緊張が高まるのか、注目している。 世界の歴史をみれば、保守政権のほうが対立を抱える国に対して大胆な妥協ができるケースもある」(セバスチャン・コンラッド教授)との指摘には同感で、 安倍政権のタカ派路線への警告と受け止めたい。

  福島原発対策に、ドイツの決断
  「福島第一原発事故に、もっとも敏感に反応した先進国はドイツだった。独メディアは連日、事故を大々的に取り上げた。 ドイツ大使館は大阪に機能を移し、本国に帰国するドイツ企業も相次いだ。……日本では、昨年末の総選挙で安倍政権が誕生した。 ドイツでは、原発事故後の最初の選挙で 『脱原発』 勝利を収めなかったのに驚いた人も多く、私もよく理由を聞かれた。 選挙結果は、政権運営の未熟さを露呈した民主党への不信任という要素が強いと説明したが、日本の 『脱原発』 が、 ドイツほど大きなうねりになっていないことは確かである。 電気料金が高騰して不況を深刻化させかねないといった経済的懸念が主因だろうが、 日本の政治の場で根本的な理念をめぐる議論が盛んではないことに関係があるかもしれない。ドイツの道のりは、平坦ではない。 再生エネルギーの割合を大幅に増やした結果、電気料金は大幅に上昇している。 それでも、ドイツは 『脱原発』 『低炭素社会』 という目標をそう簡単に変えないだろうと、環境問題に詳しい米国人のシュラーズ氏はみる。 現実に揉まれつつ国としての哲学や理念を持ち続けること。 その政府の重みを、ドイツは私たちに示しているかもしれない」(山脇岳志編集委員)との分析も的を射ていた。

  政権誕生から1カ月余、2月末に訪米予定の安倍首相は、原発政策、中・韓両国との関係改善、沖縄問題、 TPP問題などに独自の提案をする覚悟があるだろうか。米国頼み≠フ政治姿勢からの脱皮を求めたい。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。