米大統領、TPP交渉に積極的な姿勢を示す
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.2.15
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  米国は、軍事優先主義から通商政策拡大の世界戦略への転換を急いでいるのだろうか。 オバマ大統領2月12日の一般教書演説で初めて 「TPP(環太平洋経済連携協定)を促進し、輸出を増強する」 と強調した。 安倍晋三首相は 「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉に参加しない」 と述べていたが、日米首脳会談を前にトーンダウンしてきたことが気になる。 自民党内の論議は真っ二つで、野党の姿勢もバラバラ。政府は例外品目設定を条件に交渉参加に余地を残していいるようだが、 果たして米政府が譲歩するだろうか。

  米通商代表部(USTR)のカトラー代表補は先週いっぱい都内に滞在、外務・経産両省幹部と会談。 政府内では 「安倍政権のTPPへの本気度を探りにきた」 と、観測されている。

  農業だけでなく、21分野にも及ぶ
  TPPは2006年、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で発効した経済連携協定。 加盟国全ての関税の90%を撤廃し、15年までに貿易の関税を削減しゼロにすることが約束されている。 産品の貿易、衛生植物検疫措置、サービス貿易、知的財産、政府調達(国や自治体による公共事業や物品・サービスの購入など)、 競争政策を含む、自由貿易協定の主要項目をカバーする包括的な協定である。

  2010年3月から拡大交渉会合が始まり、米国、オーストラリア、ベトナム、ペルーが交渉に参加し、10月にマレーシアが加わった。 10年11月に開かれた2010年APECで、TPPは、ASEAN+3(日中韓)ASEAN+6(日中韓印豪NZ)とならび、 FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)の構築に向けて発展させるべき枠組みと位置づけられた。

  TPPは農業だけでなく、21分野に及んでいる。自民党は、自動車などの輸入で数値目標は認めず、国民皆保険制度を守り、 米や牛肉など食の安全基準の堅持などを掲げ、米側から例外を認める言質を取れば交渉参加もあり得るとの姿勢のようだ。

  安倍首相、厳しい選択を迫られそう
  安倍首相の周辺が描くシナリオは、オバマ大統領から直接、例外を設ける余地があるという感触を取ったうえで、 3月にも交渉参加を表明する段取りとみられている。TPPは農業だけでなく、医療、保険など21分野に及んでいる。
  新聞各紙があまり報じていないので、内閣官房ホームページ掲載の内容を紹介し、参考に供したい。

(1) 物品市場アクセス(作業部会としては、農業、繊維・衣料品、工業)  物品の貿易に関して、関税の撤廃や削減の方法等を定めるとともに、 内国民待遇など物品の貿易を行う上での基本的なルールを定める。
(2) 原産地規則  関税の減免の対象となる 「締約国の原産品(=締約国で生産された産品)」 として認められる基準や証明制度等について定める。
(3)貿易円滑化  貿易規則の透明性の向上や貿易手続きの簡素化等について定める。
(4) SPS(衛生植物検疫)  食品の安全を確保したり、動物や植物が病気にかからないようにするための措置の実施に関するルールについて定める。
(5) TBT(貿易の技術的障害)  安全や環境保全等の目的から製品の特質やその生産工程等について 「規格」 が定められることがあるところ、 これが貿易の不必要な障害とならないように、ルールを定める。
(6) 貿易救済(セーフガード等)  ある産品の輸入が急増し、国内産業に被害が生じたり、そのおそれがある場合、 国内産業保護のために当該産品に対して、一時的にとることのできる緊急措置(セーフガード措置)について定める。
(7) 政府調達  中央政府や地方政府等による物品・サービスの調達に関して、内国民待遇の原則や入札の手続等のルールについて定める。
(8) 知的財産  知的財産の十分で効果的な保護、模倣品や海賊版に対する取締り等について定める。
(9) 競争政策  貿易・投資の自由化で得られる利益が、カルテル等により害されるのを防ぐため、競争法・政策の強化・改善、政府間の協力等について定める。
(10) 越境サービス  国境を越えるサービスの提供(サービス貿易)に対する無差別待遇や数量規制等の貿易制限的な措置に関するルールを定めるとともに、 市場アクセスを改善する。
(11) 商用関係者の移動  貿易・投資等のビジネスに従事する自然人の入国及び一時的な滞在の要件や手続等に関するルールを定める。
(12) 金融サービス  金融分野の国境を越えるサービスの提供について、金融サービス分野に特有の定義やルールを定める。
(13) 電気通信サービス  電気通信サービスの分野について、通信インフラを有する主要なサービス提供者の義務等に関するルールを定める。
(14) 電子商取引  電子商取引のための環境・ルールを整備する上で必要となる原則等について定める。
(15) 投資  内外投資家の無差別原則(内国民待遇、最恵国待遇)、投資に関する紛争解決手続等について定める。
(16) 環境  貿易や投資の促進のために環境基準を緩和しないこと等を定める。
(17) 労働  貿易や投資の促進のために労働基準を緩和すべきでないこと等について定める。
(18) 制度的事項  協定の運用等について当事国間で協議等を行う「合同委員会」の設置やその権限等について定める。
(19) 紛争解決  協定の解釈の不一致等による締約国間の紛争を解決する際の手続きについて定める。
(20) 協力  協定の合意事項を履行するための国内体制が不十分な国に、技術支援や人材育成を行うこと等につ いて定める。
(21) 分野横断的事項  複数の分野にまたがる規制や規則が、通商上の障害にならないよう、規定を設ける。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。