揺れる安倍政権の原子力政策
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.6.3
目次

  安倍政権が6月にまとめる成長戦略の素案に 「原発の活用」 を明記し、「再稼働に向けて政府一丸となって最大限取り組む」 との方針を鮮明にした。 素案は、5月5日の産業競争力会議で示され、近く閣議決定するという。

  成長戦略の一環に原発再稼働推進を盛り込むとは…
  朝日新聞5月31日付朝刊の特ダネで、1面トップを飾った。安部政権は当初、「2030年代に原発ゼロを目指す」 との民主党政権時の方針を見直すと表明。 ただ 「原発への依存はできるだけ低減させる」 と付け加えており、今回の 「再稼働推進」 への方針転換には驚かされた。 同紙は、「電力業界や産業会の強い再稼働要請に応えたもの」 と分析している。5月には、再稼働を求めて自民党の議員連盟ができた。 首相も5月15日の参院予算委員会で、できるだけ早く再稼働を実現していきたいと表明している。 産業競争力会議産業会などから 『原発を早く再稼働し、国策として一定比率を持つべきだ』 との意見が相次いだ」 とコメントしていたが、 まさにその通りであろう。

  火力発電の充実や風力、太陽光などのインフラ整備を急げ
  朝日新聞は6月1日付社説でもこの問題を取り上げ、次のような警告を発している。
  「福島の原発事故から2年あまりを経て、こうした分野に参入する企業も目につくようになってきた。 火力発電の充実のほか風力や太陽光などに挑戦する振興勢力を積極的に支援するのが、成長戦略の柱のはずだ。 ここで政府が原発回帰の姿勢を強めれば、古い電力体制が温存され、新規参入の余地をせばめることになる。 それは、地域独占から自由化・競争促進への転換を目指す電力システム改革とも矛盾する。 何より、『原発への依存度をできる限り低減する』 とした安倍政権の方針に反する。
  福島の問題は解決にはほど遠い状況にある。日本がこの重い問題にどう道筋をつけるのか、世界が注目している。 原発再稼働を急ぎたい人たちの声にばかり耳を傾けていては、大局を誤りかねない」。

  廃炉の損失は分割処理との方針を打ち出す
  一方、6月2日朝刊各紙は、「原子力規制委員会は、日本原子力発電の敦賀原発直下活断層があると断定した。 ほかにも活断層の疑いや古くなった原発も廃炉の可能性が大きい」 などと報じている。 この方針を示された電力各社にとって廃炉費用は莫大で、経営上ピンチに立たされた。廃炉に踏み切れない電力各社を説得するため、 経済産業省が 「長い期間をかけて、廃炉による損失は分割処理する」 との方針を打ち出したとみられる。 経産省は、廃炉1基当たり1000億円前後かかると試算しており、電力会社のショックは大きいはずだ。
  いずれにせよ、原発対策にはカネと時間がかかる。福島原発処理を最優先課題に位置づけると共に、新エネルギー政策も併行して推進すべきだ。 安倍政権は原発稼働にこだわっているが、「脱原発」 の目標設定に切り替えて欲しい。

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。