国会事故調の 「提言」 を審議せず
ジャーナリスト 池田龍夫 2013.6.26
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  福島原発事故から2年余、未だに放射線汚染に悩まされ続け、原子炉の破壊状況などの解明を阻んでいる。 政府事故調とは別に、国会事故調査委員会が設立されたのは2011年12月8日。事故原因や背景などを政府から独立して究明するため、 「3条委員会」 の権限を付与された組織である。黒川清委員長(元日本学術会議議長・東大名誉教授)ら10人の専門委員が精力的に調査・検証を行い、 昨年7月5日衆参両院議長に膨大な 「報告書」(A4版641ページ)を提出した。

  国会議員の劣化がひどい
  黒川委員長らが総力を挙げた成果 「7つの提言」 にまとめて提出したが、「報告書」 から約1年も経つのに、国会はさっぱり機能していない。 政争に明け暮れるばかりで、国民のための重要案件は店ざらし状態である。
  東京新聞6月2日付朝刊は、「報告書で原子力問題に監視する目的で、『常設の委員会』 設置を提言したのは、 政府や規制委が事故検証の中で明らかになった問題点を改善しているかを国会で継続的にチェックする体制整備を重視したからだ。 提言に基づき、衆院では今年1月に特別委が設置された。 しかし、閣僚の出席をめぐって与野党が対立。自民党は政府側が追及される場となるのを恐れ、全会一致のとき以外は閣僚を呼ばないことを強く求めた。 結局、野党側が譲歩、先の特別委には、田中俊一規制委員長らだけが出席するという不完全な形でスタートした。 ねじれ国会の参院では、野党が結束すれば閣僚も出席する特別委が作れるはずなのに、未だに調整がつかず動きが止まったままだ。 今国会で委員会が設立できなければ、秋の臨時国会以降になる」 と報じていたが、とんでもない話である。 蜂須賀礼子、元国会事故調委員は 「国会から 『半年で調査してくれ』 と依頼され、寝ずに頑張ったのに、国会は提言を吸い上げてくれない。 歯がゆい気持ちだ」 と国会の怠慢に憤懣をぶつけているが、その通りだ。

  黒川委員会の建設的提言を1年間も放置
  国会事故調については、本欄で何回か取り上げてきたが、このほど 「日本原子力学界誌」(2013 Y3)を入手、 黒川元委員長の<国会 『東京電力原始力発電所事故調査委員』 とその意義>と題する長文の報告文を精読した。 先の 「報告書」 に基づいて寄稿した内容で、コンパクトに事故調の意義を再確認できた。 「今回のような事故は国内だけで済むような問題ではない。世界は知っているのである。行政府に関する案件は国会が独立委員会を委託し、 行政府のチェックとして機能させている。民主主義での三権分立の原理を体言している手法といえる」 との意義に続いて、 事故調が懸命に挑んだ模様をリアルに描いている。非常に大事な指摘があるので、紙幅の許す限り要点を紹介しておきたい。

  世界にも恥ずかしい日本の取り組み
▼ 私は委員長として最初の挨拶でエネルギーを 『国民、未来、世界』 とし、最後の挨拶で辞令交付の日が 『真珠湾攻撃70年目の日』 であること、 『太平洋戦争生き残りの証言』 と 『福島原発事故の関係証言』 にある相似性と、背景にある日本人の性格はなにか、について、触れた。 国会事故調の報告書はウェブに日英語で公開されているし、委員会の様子は記者会見とともにウェブ上に公開されている。
▼ 基本として委員会はすべて国民とメディアに公開、ウェブ上でも公開、記者会見を公開。英語の同時通訳も入れた。 会場で20回の委員会を開催。38人の参考人を招いた。結果として20回の委員会、1000人以上の関係者の聞き取り調査、2000点以上の資料調査。 3回のタウンミーティング、1万人以上の被災者たちのアンケート調査、2400人余の福島第一原発作業員からのアンケート調査をした。 被災市町村と被災者の調査視察、福島第一、第二、女川、東海原発の調査視察。海外への視察は3チームを派遣。 訪問相手方のアポ入れは外務省、相手方の在日大使館を通じて行うが、現地では日本の大使館員と接触は原則禁止。立法府と行政府の利益相反である。
▼ 私たちはこのようなプロセスを取りながら 『7つの提言』 をまとめた。国会事故調は日本国家の三権分立の民主制度に基本をおいた統治機構について、 国会議員には全員とは言わないが、その意識はある。その実効性は国会議員ばかりでなく、議員を選挙という手段で選ぶ国民にかかっている。 学者はどうか、官僚はどうか、ジャーナリスはどうか、その辺を理解しないようでは、極めて困るのである。
▼ 原子力の専門家とはなんなのか、日本の原子力安全・保安院のトップの専門性、資格に懸念のあることは、後で知ったことだが、 世界中の研究者がしていたことなのだ。では、科学者の世界での役割はなんなのか。 その点については日本学術会議による 『日本の計画』(2002年)の 『学者に駆動される情報循環モデル』 にあるような、政府とはできるだけ独立した、 科学者のコミュニティを構築していくことであろう。これは日本では大きなチャレンジだ。 グローバルな世界にあっては』、大学や研究機関の評価は世界での評価であり、世界の学者たちが大学の教育、研究、 自分のキャリアへむけて選択する時代が来ているということを、強く意識しておく必要があろう。
▼ 民主制度は与えられるものではない。立法府、行政府、司法の三権が分立して相互に緊張感として機能しているのか。 世界の環境変化に対応して適切に、変化しているのか。肝要なのである。「報告書」 は、この民主国家の基本問題を提起している。 これこそがこの 『国会事故調』 が関係者に、国民に問いかけている基本メッセージなのだ。 すべての関係者が、この大事故からしっかりと学び、適切な対応を進めなければ、日本の将来は危うい。その時間は限られている。

  七つの提言
  @ 規制当局に対する国会の監視 A 政府の危機管理体制の見直し B 被災住民に対する政府の対応 C 電気事業者の監視  D 新しい規制組織の要件 E 原子力規正法の見直し F 独立調査委員会の活用

(いけだ・たつお)
1930年生まれ、毎日新聞社整理本部長、中部本社編集局長などを歴任。
著書に 『新聞の虚報と誤報』 『崖っぷちの新聞』、共著に 『沖縄と日米安保』。