ブックレビュー 


「派遣切り」「非正規切り」「正社員切り」の時代だからこそ読んで欲しい
 〜新刊「労働法はぼくらの味方!」(岩波ジュニア新書)の紹介

弁護士 笹山 尚人




「労働法はぼくらの味方!」


 笹山 尚人著
 (岩波ジュニア新書)


  2009年2月20日付けで、岩波ジュニア新書から、「労働法はぼくらの味方!」 という本を出版しました (税込819円)。

1、「派遣切り」「非正規切り」「正社員切り」
  厚生労働省は、この3月までに、15万人もの非正規労働者が職を失うと推計しているそうです。 このような 「派遣切り」 「非正規切り」 のほかにも、正社員のリストラ計画が声高に叫ばれ、「正社員切り」 も進められようとしています。
  このように、世の中はどんどん労働者に冷たくなっています。このような社会だからこそ、労働者は労働法を知り活用して、自らの身を守ることに役立てるべきです。

2、「SHOP99」 「すき家」 などの事例から
  私は、とりわけ、20代、30代の青年労働者、非正規雇用で働く労働者の権利に関心をもって、労働者側に立って労働事件を数多く取り扱っています。
  このページでも、「SHOP99事件」 「すき家事件」 を紹介させて頂いています (これらの事件の詳細は、 「弁護士の訟廷日誌」 の該当ページをご覧ください。)。
  こうした事件に共通する特徴は、会社が労働者に働いて貰うにあたり、当然に遵守すべき労働法を遵守せず、法律違反を指摘されてもそれを是正しようとしない態度です。 このように、現代の労働社会は、労働法を無視する実態が広く横行し、多くの労働者が認められるべき権利の実現を阻まれ、苦しい生活を余儀なくされています。

3、労働法教育の必要性
  私はこうした事例を多数見るうち、労働法が無視される背景には、使用者の法令遵守の姿勢の欠如と共に、 労働者の側の労働法に対する無知が広く存在することに気づきました。 中高生の方が、大学生が、学校を卒業して仕事に就くとき、それまでの教育の過程で、労働法の内容について勉強する機会を提供されたことがあったでしょうか?
  おそらく、経験がないという方が多いのではないかと思います。この国では、高校や大学を卒業して就職する労働者が、 自分の身を守る武器としての労働法を教育されていないのです。だから、労働法が無視され、自分の権利が踏みにじられていても、 そのことに気づかず、労働法違反を放置してしまう結果になるのです。
  「派遣切り」 「非正規切り」 「正社員切り」 が叫ばれる社会だからこそ、これから労働社会に出て行く中学生、高校生といった子供たちに、 労働法を教育することが必要なのではないか。
  私が本書を書く思いは、このようなものでした。

4、生きた労働法を〜実例を参照した設定
  私がこの本を書くときに注意したのは、「生きた労働法を届けたい」 ということでした。
  労働法の内容について解説する書籍は巷にあふれています。だから、弁護士である私が新たに書く以上、現場で労働法は実際にどのように使われていて、 具体的にどのように役に立つのかということを、わかりやすく伝えるのでなければ意味がないと思いました。
  このような見地で、私は、できるだけ中高生に身近な設定で、実際に遭遇することが多いであろう事例を中心的に想定して、 その中で労働法が具体的にどのように生きているか、使うときはどのように使うのかを説明することを心がけました。
  この本では、3人の人が、自分の労働問題について、佐々木弁護士に相談する形で話が進みます。3人の方の抱える問題は、ネタをばらせば、 私が実際に担当した相談、事件から設定したものです。3人の1人真吾君が相談するアルバイトの問題は、現実に高校生の方から聞いた相談を基にした設定ですし、 正社員の問題で正社員が語る自らの就労状況は、「SHOP99」 の原告、清水さんから聞いたお話に基づいています。

5、労使交渉論を展開
  労働法をどのように使うのかという問題においては、私は労働組合に団結して行動する方法について力を入れて説明しました。 本でも書いたとおり、それがもっとも現実的で効果の期待できる方法だからです。
  しかし、きっと今の労働者の多くは、労働組合の活動に参加するということ自体がイメージできない。労働組合が使用者と交渉を行うということについてイメージできない。
  そうだとすれば、その点のイメージを持って貰うために、労働組合が使用者と交渉するということは、どのようなことなのか。 それが労働者に利益をもたらすようにするためにはどのようなことが必要か。今回、そのような「労使交渉」論を述べることにしました。
  私自身、労働法に関するいくつかの書籍の出版、監修などに関与してきましたが、初めて「労使交渉」論について言及することが出来ました。 単独で書籍を出版できた光文社新書 「人が壊れてゆく職場 自分の身を守るために何が必要か」 (2008年7月) でも、労働組合の意義と効用について書きましたが、 ここまでは言及できませんでした。
  著者としては、この点がこの本の画期的な点だと思っています。

6、労働法教育の役に立って欲しい
  私は、この本をまず、中高生、中高生を育てている親の方、中高生を教育している学校や塾の先生たちに読んで貰いたいと考えています。 そして、労働法教育の必要性を感じる全ての労働者、労働組合の方にも読んで貰いたいと思います。 それを通じて、労働法教育の必要性が広く認識され、実践されていく一つのきっかけになってくれたら、これほど嬉しいことはありません。
  アマゾンの書評では、現時点では、ありがたいことに、次のような評を頂いています。

  「「労働法」 は、働く者の味方だというけれども、どんな味方か、その味方にどう助けてもらえばいいかは、学校などではほとんど教えてくれない。 自分で勉強しようにも難しくて取り組めない。その難題を本書はかなり解決してくれる。「労働法」 について知っておくべきことがほぼ述べられているし、 職場で問題が生じた場合、どう解決するのがベターかも教えてくれる。」

  「著者も述べているように、学校では教えなさすぎる働くということを、なんとか子どもたちに 伝えたいという気持ちがひしひしと伝わる内容となっている。 著者の望む通り、私の身近にいる若い人たちに是非とも推薦したい1冊である。」
  ぜひ、多くの方にこの本を読んで頂き、働く人の今の問題に対する参考になってくれたら、また、読んだ人が子供たちに読むことを勧めて頂けたら、 また、学校の先生たちに生徒たちとの授業やコミュニケーションの参考にしてもらえたら、と思っています。
2009年3月7日記