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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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防衛力抜本強化予算 = 5年間43兆円を上回る軍拡の兆し

2024年3月21日

1 防衛力の抜本的強化予算

 安保三文書が定めた防衛戦略は、自らを「戦後防衛政策の大きな転換」と述べています。その意味の中心は大軍拡予算です。2023年から2027年までの5年間で合計約43兆円の防衛予算を編成するものです。この額は30大綱の中期防5年間の防衛予算総額の1.7倍という途方もない軍拡です。最終年度にはGDP2%を達成することを目指します。23年のGDP560兆円で2%は11兆円です。

以下の表をご覧ください。

年度 当初予算 補正予算 防衛力強化加速パッケージ 増減
20年度 4051億
21年度 5兆3422億 7738億 5兆7473億
22年度 5兆4005億 4464億 6兆1743億 583億
23年度 6兆8219億 8130億 7兆2683億 1兆4214億
24年度 7兆9496億 1兆1277億

 防衛省は、21年度防衛費補正予算と22年度防衛予算とを合わせて「防衛力強化加速パッケージ」と自称して、合計すればGDP1.09%を達成したと自画自賛しています。
23年度防衛費本予算と24年度防衛費本予算では、前年度比でいずれも1兆円を超える大幅な軍拡予算になっています。

2 防衛省が公表している令和6年度年度防衛予算の概要を見ていた際に、一番疑問に思ったことがあります。大型輸送ヘリCH47の取得予算です。
 CH47JA 12 機 2106 億で1 機 175.5 億、最新鋭の戦闘機F35よりも高額だったからです。調べて見ると30 大綱当時の装備品単価表では1機当たり89 億で、この約2倍に高騰していたのです。さらに空自用に調達するCH47J は1 機 当たり196 億です。CH47JはCH47JAの一つ前の旧型です。旧型の方がはるかに高額ということも理解ができませんでした。

 その後のマスコミ報道などから、防衛省は円安による輸入資材の高騰が招いたものと説明していました。5年間43兆円の計算基礎が円ドルレートで108円であることも分かりました。

 現在の円ドルレートが150円前後ですから、3割以上の円安です。しかも多くの防衛装備は海外からの輸入ないしはライセンス生産です。とりわけ米政府からの輸入が最も大きい金額です。政府対外有償援助(FMS)と言われている仕組みです。24年度防衛予算の中でFMSは9320億にも達しています。国内防衛産業で最も受注額が大きい三菱重工よりも、FMSの方が大きい金額となっています。また米国の軍事産業から直接輸入する額よりもFMSの方が高額となっています。

 このように見てくると、5年間で43兆円という軍拡予算でも防衛力整備計画が予定する防衛装備品をそろえることは到底できないのではないかとの疑問が出てくるのは当然です。
 防衛大臣は43兆円を上回ることはないと否定しています。しかし、防衛省は秘かに43兆円を上回る軍拡予算を検討しているはずです。前述したように、川崎重工業がライセンス製造しているCH47の単価ですら暴騰していおり、完成品の装備の輸入でも同じように高騰しているからです。

3 43兆円を上回る軍拡の仕掛け

 防衛省は省内に「防衛力の抜本的強化に関する有識者会議」を立ち上げて、2024年2月19日に第1回会議を開催し、その際の資料等が防衛省HPで公開されています。
 その中で防衛省作成の資料3に、防衛省が有識者会議で議論してほしい事項として三点を挙げ、その一つに「為替変動、物価高、人件費の上昇が、装備品調達へ与える影響等も考えていくべきではないか」を挙げています。有識者会議の議論を、43兆を超える軍拡予算に誘導しようとしている意図がありありです。

 早速有識者会議の座長である榊原定征氏(元経団連会長、現名誉会長)は、物価高や円安の影響を踏まえ、2023年度からの5年間で43兆円とする軍事費のさらなる増額の可能性に言及したとの新聞報道がありました。
 これに対して官房長官、防衛大臣は43兆円の見直しを否定しました。榊原氏の発言はおそらく世論の反応をうかがう「観測気球」でしょう。政府として現段階では否定して見せたのが官房長官と防衛大臣の発言です。

 私には、防衛省がひそかに43兆円の増額見直しの検討を始めたサインと映りました。
 防衛省は有識者会議を表の顔とし、防衛省内部には別に国民の目から隠された議論の仕組みを作っています。それが「防衛力抜本的強化実現推進本部会議」です。23年度防衛予算が成立する前の23年1月19日にこの会議の設置要綱を通達し、23年度防衛予算が成立した直後の23年4月5日に第1回会議を開催しました。

 この会議の本部長は防衛大臣、本部長代理が副大臣、副本部長が政務官、本部員が事務次官、防衛審議官、官房各局長、各幕僚長、情報本部長、装備庁長官等となっており、防衛省の全組織を挙げた会議体です。これらの下に三つの事務局を設置しており、会議体を支援する防衛省、自衛隊の多数の職員・隊員が組織されています。課長級がチーム長になります。

 私が情報公開で入手した資料は第1回会議分だけですが、「対外厳秘推進本部関係者限定」との赤色スタンプが押されており、内容はマスキングされた秘密度の高い議論をしています。第2回以降の資料も情報開示請求していますので、いずれ内容をご紹介する機会があるでしょう。

 この会議体の任務は、防衛力の抜本的強化を一刻も早く実現させることです(第1回会議での防衛大臣発言から)。有識者会議第1回までにすでに複数回開催されているはずですが、その中で円安等による装備品の価格が高騰していることに対して、どうやって防衛力の抜本的強化を実現させることができるかを議論しているはずです。

 しかし43兆円の軍拡予算については、財源として増税を含むため、世論からは厳しい意見が突きつけられていることから、防衛省から公然とこれを上回る防衛予算を求めにくいでしょう。
 そこで防衛省が考えた方法が、有識者会議での議論と報告書を出させて、世論を説得するための「お墨付き」にするという手段です。

 この方法は今回に限ったことではありません。安保三文書作成に際しても、表の顔として有識者会議が設置され、他方防衛省内に「防衛力強化加速会議」が設置されました。この会議体も「防衛力抜本的強化実現推進本部会議」と同じように防衛省を挙げた組織となっています。2021年11月12日第1回会議から2022年12月16日第15回会議まで開催されています。

 過去の防衛大綱でも、官邸内に有識者会議を設置していますが、それと並行して防衛省内に防衛大綱を実質的に作成するための会議体が設置されています。
 防衛省は有識者会議を表の顔として、自らは「裏部隊」の会議体を設置して秘密裏に議論し、有識者会議の議論を誘導しながら、防衛省の狙いを込めた有識者会議提言を作成させ、防衛省の目論見を達成してきたのです。

 榊原氏の発言を受けて、自民党国防部会などの合同部会で、5年間43兆円の積み増しを求める声が相次いだとの新聞報道がありました。43兆円増額を求める仕組みがまた一つ動き始めたことを意味しています。
 これまでも自民党国防部会等の議論や提言は、防衛大綱策定に決定的な影響を及ぼしてきました。台湾有事=日本有事論を展開したのもこの部会の議論ですし、反撃能力保有を推進したのもこの部会の提言でした。

 安保三文書の策定にあたっても、自民党安全保障調査会は2022年4月21日に「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」を岸田総理大臣へ提出しています。この提言の中で、新たな防衛政策の柱として「脅威対抗型の防衛戦略」を要求しました。この内容は安保三文書に取り入れられています。
 5年間43兆円の防衛予算の増額を実現するための政治的な仕組みが作られつつあるのです。有識者会議、自民党、防衛省内部組織の連携という仕組みです。

4 防衛力の抜本的強化に関する有識者会議の部会メンバーに三菱重工業会長宮永俊一氏が含まれていることに、とても驚きました。
 三菱重工業は国内防衛産業の中でも最大の受注高を維持しています。特に、スタンド・オフミサイル開発製造ではほぼ独占しています。12式ミサイル能力向上型の地発型、艦発型、空発型、島嶼部防衛用高速滑空弾、潜水艦発射型誘導弾の開発製造を受注しています。次期主力戦闘機の開発も我が国では三菱重工業が受注しています。

 これはあからさまな軍産談合という外ないと思います。防衛力抜本的強化とそのための5年間43兆円という巨額の防衛予算を手にした防衛省には、防衛産業のトップ企業との癒着を避けるという最小限度の慎みすらないのでしょう。それだけ巨額の防衛予算を手にして「有頂天」になっているのかもしれません。

 防衛予算は国民の税金ですし、赤字国債による財源が防衛予算に含まれているのですから、将来の国民の負担となります。防衛省と防衛産業とが癒着して国家財政を食い物にしても、何らの痛痒も感じないのでしょう。
 「軍事が栄えて国滅ぶ」ことを許してはならないと思います。

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