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幸せは武力で守れない

寄稿:飯室勝彦

2015年6月2日

安全保障関連11法案の国会審議が始まり、その危険性が一層明らかになった。首相の安倍晋三は「国民の幸せを守るため」というが武力で国民の幸せを守れないことは歴史が教えている。反憲法的、反民主的な安倍政権により「諸国民との協和による成果……を確保」し、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こらないやうにすることを決意」した日本国憲法が踏みにじられようとしている。

「私たちは国民全体の生命、暮らしに対して責任を持っている」「国民の命や暮らしを守るためにもし必要であれば(地球の裏側までも)行く」……自衛隊の武力行使や米軍に対する後方支援を正当化するため、安倍は国民の「命」「幸せ」という言葉を多用する。

しかし、要するに「戦争ができる国」にするための法案である。安倍が「戦争法案」との批判に対し過敏に反応していきり立ったのは、図星をつかれたからだ。

「後方支援」とは言葉の綾で実質はアメリカがする戦争への“参戦”である。安倍の言葉のむなしさは、武力、戦争によって国民の幸せが守られたことはない近現代史が教えている。守られたように見えても、それは一時的な幻であり、やがて国民、民衆の大きな犠牲が明らかになってくるのが常だった。

審議の過程で、安倍の民主主義、議会制度に対する無知、無理解もさらに鮮明となった。安倍や閣僚たちの答弁は「一般に」「原則的」「基本的に」などあいまいな文脈が目立ち、具体的、詳細に説明して議員や国民に納得してもらおうという姿勢は見られない。

安倍が答弁席からしばしば飛ばすヤジも、立法府に対する敬意が全く欠けていることを示している。5月28日の委員会では、質問の前提となる自説を開陳している議員に向かって「早く質問しろよ」と大声を上げた。その一方で自身は「答弁が長すぎる」として委員長から「簡潔に」と注意されたこともある。

後に「延々としゃべって私の答弁権を妨げた」という趣旨の弁解をしたが、とんでもない勘違いだ。

法案だけでなく、国政、国民生活に関わる問題全般などについて疑念をただし、問題点を摘出し、国民を代表して追及するのは議員自身の権利であり、国民に対する義務である。これに対して政府は国民に納得してもらえるよう丁寧に説明しなければならない。

安倍にあるのは好き勝手なことをしゃべる答弁権などではなく「説明責任」だ。

民主主義の根幹であるチェック・アンド・バランスが正しく機能するには政府と議会が互いに敬意を払う関係が必要だ。ヤジの背景には、すぐ感情的になる、消し炭のような安倍の性格、多数議席を有するおごりなどもあるが、議会、議員の役割に対する理解が決定的に欠けている。特に野党議員を「敵」としか見ていない。それは野党議員を国会に送り出した国民に対する蔑視に通じる。

議会軽視はまだある。新安保法制案が国会に提出されてもいない段階で行われた、米国議会における演説で「この夏までに成就させる」と誓った。異論と真摯に向き合い、考え直す気などないことを自ら認めたのである。この一事だけでも、日本国民よりも米国の方を向いていることが明らかと言えよう。

何よりも多くの人をあきれさせたのは、安倍がポツダム宣言をしっかり読んでいないと公言したことである。安倍が否定する「戦後レジーム」のスターティングポイントになったのがポツダム宣言。それをろくに読みもせず戦後体制についてあれこれ言うのは政治家として不見識、無責任極まる。

 優れた政治家は、豊かな読書量や知的な会話、深い考察などの積み重ねで得られた教養をもとに、精神的基盤を固めてゆく。首相を務めた宮沢喜一にとってそれは日本国憲法だった。ポケットに常に全文のコピーを入れておき、判断に迷うことがあると「憲法にてらしたらどうか」と取り出して読んだという。

安倍にとって宮沢の憲法に匹敵するのは、あの戦争の時代を指導し、ポツダム宣言と日本国憲法を憎み続けた祖父・岸信介に対する情念であり、敬愛する祖父が否定した宣言ならあえて読むまでもないというのだろう。

「日本国民は……平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意」し、「われらは平和を維持し……国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」(日本国憲法前文)

歴代政権はこの決意を実現するための行動をしてきたか。安倍政権は武力を振りかざす前になすべき努力をしているのか。

日本人が戦後70年かけて築きあげた国のあり方と、それに対する国際的信頼を根底から覆しかねない局面だ。国民は現象面での緊張や声高な危機論に振り回されず、国際社会と日本の戦前戦後を冷静、客観的に振り返り、将来を見据えて安倍政権をチェックしたい。

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