2008.6.15更新

ETV2001番組改編事件上告審
〜女性国際戦犯法廷を取り上げた番組が
不当に改変された事件〜
事件名:損害賠償上告事件
係属裁判所:最高裁判所第1小法廷 (横尾和子裁判長)
最高裁判決期日:6月12日
   判決は こちら をクリックしてください。
紹介者:飯田正剛弁護士
連絡先:VAWW-NETジャパン


【事件の概要】
1 当事者
  原告 (被上告受理申立人):VAWW-NETジャパン
  被告 (上告受理申立人):NHK、NEP (NHKエンタープライズ)
                  DJ (ドキュメンタリージャパン)

2 概要
  2001年1月に放送されたNHK 「ETV2001」でVAWW-NETジャパンらが主催した民衆法廷 「女性国際戦犯法廷」 が取り上げられたが、 その番組内容が当初の説明 (法廷をつぶさに追うドキュメンタリー) とは全く異なり、判決さえ放送されないものであったことから、 VAWW-NETジャパンが期待が侵害されるとともに説明義務違反があったとして、NHKや制作会社に慰謝料請求をしたもの。

  一審ではDJの責任のみが認められたが、高裁の審理が終結する直前、番組を担当したデスクが政治圧力があったと内部告発した。 この内部告発を受けて、証人尋問などが行われた結果、高裁はNHKらの責任を認める判決を下した。
  この訴訟を巡っては、政治圧力をスクープした朝日新聞とNHKが批判しあうなどしたため、争点がずれた感はあるが、 控訴審は安倍晋三氏がNHKの放送総局長に対し、自分の意見を述べるなどしたことを受けて、 NHKが過剰に反応して編集の権限を濫用するような編集を行ったことを認めた。

3 控訴審が認めた期待と信頼について
  控訴審判決は、「原告らの本件番組についての期待と信頼」 と明示して、次のような判断をした。

  「取材対象者が取材に応じるか否かは、その自由な意思に委ねられており、取材結果がどのように編集され、あるいはどのように番組に使用されるかは、 取材に応じるか否かの意思決定の要因となり得るものであり、特にニュース番組と異なり、本件のようなドキュメンタリー番組又は教養番組においては、 取材対象となった事実がどの範囲でどのように取り上げられるか、取材対象者の意見や活動がどのように反映されるかは取材される者の重大関心事であることから、 このような両面を考え合わせると、番組制作者の編集の自由と、取材対象者の自己決定権の関係については、取材の経過等を検討し、 取材者と取材対象者の関係を全体的に考慮して、取材者の言動等により取材対象者がそのような期待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、 番組制作者の編集の自由もそれに応じて一定の制約を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼が法的に保護されるべきものと評価すべきである。 そうすると、このような期待と信頼を故意又は過失により侵害する行為は、法的保護の違法な侵害として不法行為になると解するのが相当である。」 ここで認められた 「期待」 という法的構成自体は、前述の東京地裁判決も認めていたものであった。
  しかし、東京地裁判決は被告DJに対してのみその侵害責任を認めただけであったが、控訴審判決は、被告DJのみならず、 被告NHKや被告NEPに対してもその侵害責任を認めた。

4 いわゆる 「政治家の圧力」 について
  デスクの内部告発があったことから、控訴審判決で注目されたのは、いわゆる 「政治家の圧力」 の有無である。
  控訴審判決は、「面談の際、政治家が一般論として述べた以上に本件番組に関して具体的な話や示唆をしたことまでは、 証人松尾及び証人野島の各証言によってもこれを認めるに足りず、他に認めるに足りる証拠はない。」 と判断したが、 ここだけを取り上げて、控訴審判決は 「政治家の圧力」 を認めなかったという理解をするのは、誤りである。

  控訴審判決は、本件放送前、「安倍官房副長官は、松尾らに対し、いわゆる従軍慰安婦問題について持論を展開した後、 一審被告NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した。」 と事実認定したばかりか、 「松尾と野島が相手方 (注:政治家) の発言を必要以上に重く受け止め、その意図を忖度してできるだけ当たり障りのないような番組にすることを考えて試写に臨み、 その結果、そのような形へすべく本件番組について直接指示、修正を繰り返して改編が行われたものと認められる。」 と判示するなどしており、 「政治家の圧力」 を認めたと理解するのが、控訴審判決の全体の趣旨に沿うものと考えられるからである。

5 控訴審判決の報道について
  控訴審判決は、「政治家の圧力」 を明示して認めてはいないが、「政治家の圧力はなかった」 とも明示していない。
  それにもかかわらず、NHKは、控訴審判決当日の午後9時のニュースにおいて、「控訴審判決は、 「国会議員が具体的に番組に介入したとは認められない」 と指摘しました。」と報道した。
  しかし、このような報道は、一方的である。そこで、VAWW-NETジャパンは、BRC (放送と人権等権利に関する委員会) に申立を行った。

【バウネットの声明】
  表現の自由は死んだ!
[資料]
  ・NHK番組改変 東京高裁判決全文 2007.1.29
  ・NHKvs.朝日新聞 「番組改変」 論争 「政治介入」 の決定的証拠
 魚住 昭
  ・NHK裁判判決の意味 梓澤和幸
  ・NHK裁判報道で見落としてはならないこと 山田健太
  ・言論の自由、沈黙させられた声      [英語原文] テッサ・モーリス=スズキ
文責 NPJ編集部