2009.11.8更新

中国残留孤児2世 労働災害損害賠償請求事件
事件名:中国残留孤児2世 労働災害損害賠償請求事件
係属機関:東京高等裁判所第10民事部 園生隆司裁判長
  2009年5月18日、一審の不当判決を覆し、労働者の生活と労働における最低限の権利を擁護した勝訴的な和解が成立しました。

  和解の内容
1 被控訴人は、本件事件について安全配慮義務に違反していたことを認め、被控訴人に対し謝罪するとともに、今後安全の確保に関する法令を遵守し、 同種の事故を繰り返さないようできる限り努力することを約束する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、本件損害金として既払金のほか2500万円の支払義務あることを認め、これを本日和解の席上控訴人に支払う。
3 控訴人はその余の請求を放棄する。
4 控訴人と被控訴人は、控訴人と被控訴人の間には本和解条項に記載するほか何ら債権債務のないことを相互に確認する。
5 訴訟費用は、第1、2審とも各自の負担とする。
という内容の和解が成立しました。

   中国残留孤児2世 労働災害損害賠償請求事件・控訴審
   勝訴的和解成立に関する声明


紹介者:指宿昭一弁護士
連絡先:日本労働評議会中央執行委員会書記長 間野浩毅
     電話 049-247-0011
     弁護団 (広報担当) 暁法律事務所 弁護士 指宿昭一
     電話 03-6427-5902


【事件の概要】
(1) 当事者
  原告 労働者 (男性・中国残留孤児二世)
  被告 プレス会社

(2) 請求の内容
  安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求

(3) 請求の原因の内容
  原告は、プレス機に右指を挟まれ、指3本を失った上、右腕が全く動かなくなった。原告は、中国残留孤児の息子で、日本語会話がほとんどできず、 日本社会のこともよくわからないため、会社は70万円の金銭を支払っただけで、解決したとしていた。

【これまでの経過】
  原告は、本件について、泣き寝入りするしかないかと考えていたが、中国残留孤児国賠訴訟を支援していた労働組合が、この件を聞いて、 被害者の相談に乗り、弁護士を紹介して、訴訟の準備を進めた。

5月22日の裁判の内容
  原告・被告が以下の主張を行なった。

  原告:江戸川労働基準監督署の調査嘱託回答書に基づく主張
1 被告には、事故当時、定期自主検査義務に違反し、 安全装置点検等のプレス機作業主任者の職務を行わせていない違反があることを理由とした是正勧告が行われていた。
  上記違反が本件事故の原因であることは明らかである。
  なお、被告は、上記回答書に反する虚偽の主張を行い、虚偽の内容を含む作業主任者の陳述書を提出していた。
2 被告の安全配慮義務違反の内容は、主要には安全装置等の調整・点検義務違反である。

 被告:原告が主張する障害等級に対する反論

6月26日の期日の内容
  原告 障害等級に関する反論と念書に関する反論、原告本人陳述書の提出
  被告 被告代表者の陳述書提出
  証人申請

8月5日の期日の内容
  原告本人、被告代表者、被告専務 (プレス機作業主任者) 尋問
@ プレス機の安全装置を設置・点検する義務がある作業主任者が、事故当日、会社におらず、安全装置の設置・点検をしていなかったことが明らかになった。
A 原告は日本語の理解能力が低く、「念書」 の意味を理解できなかったこと、原告が生活に困窮している状況下で 「念書」 が作成されたことなどが明らかになった。

  2008年11月13日に原告の請求を棄却する判決がでました。
  原告は同月25日に東京高等裁判所に控訴しました。

[控訴審]
2009年2月19日の裁判 (控訴審第1回) の内容
1 控訴状、控訴理由書、証拠申立書、答弁書陳述。
2 控訴人意見陳述
  裁判長から、「右手を見せてもらえませんか」 と呼び掛ける。中澤氏、左手で右手を持ち上げる。
  裁判長、「それ以上、上がらないのですか?」 と質問。指宿から、「左手で持ち上げないと上がらないのです。上げようと思えば上がります。」 と説明。
3 代理人意見陳述
4 裁判長から、「原判決の証拠だけに基づいても、原判決は見直すべき点がある。」 「裁判所の関心は、手の先端部分の欠損が上腕の麻痺に至ることがあるのかということ。この点に関して、医学文献及び本人の陳述書の提出を検討して欲しい。」 という話がありました。
5 裁判所から和解の勧告がありました。

3月 5日、弁論準備期日。
3月31日、弁論準備期日兼和解期日。
4月13日、和解期日。裁判所から、解決金2500万円の支払いと、謝罪、再発防止の努力を含む和解案が提示されました。
4月14日、期日外で、裁判所から和解勧告。
4月30日、和解期日。
5月18日、和解期日。和解成立。

【一言アピール】
  プレス工場に勤務していた中澤明雄氏は、平成15年5月プレス機に指を挟まれ、右腕の機能を失い障害を負いました。 10ヶ月の入院後、職場復帰を果たしましたが、待っていたのは不当な暴力とイジメでした。 警察に相談しても不当な暴力・イジメを無くすことは出来ず、やむなく退職に追い込まれました。 しかし、退職時会社は70万円の支払いで解決を図ろうとしました。余りにも少なすぎる金額です。

  日本労働評議会 (略称:労評) は、謝罪と再発防止、適正な損害賠償を求め、団体交渉を行いましたが、会社は非を認めません。 私達は、2007年7月20日東京地裁へ提訴しました。

  景気が良いといわれても、中小零細企業では依然として厳しい状況が続いています。 そして、そのしわ寄せはすべて、中小零細企業で働く労働者に転化され、 底辺で苦しむ労働者の実情を反映した問題だと思います。加えて、中澤氏は中国帰国者2世であり、国籍は日本人ですが、 言葉は不自由で中国人だと認識されてしまいます。
  問題の背景には、このような外国人差別も存在していると思います。 民主、人権、反差別を掲げ、今回の問題を広く社会的に訴えていきたいと思います。

  取材・報道は大歓迎いたします。

文責 弁護士 指宿昭一