2009.8.3

高田健の憲法問題国会ウォッチング


解散・総選挙に際して

  自公連立政権を打倒し、憲法改悪と 「戦争のできる国づくり」 に反対し、9条をはじめ 「憲法3原則」 を守り、生かす方向を堅持する政党と議員への支持を

(1)
  7月21日、ようやく衆議院が解散になり、8月18日公示、30日が総選挙の投開票日となった。小泉純一郎内閣のもとで行われた前回の 「郵政民営化選挙」 以来、 ほぼ4年ぶりの総選挙である。この間、自公連立与党は安倍晋三、福田康夫、麻生太郎と3代にわたって、総選挙によって民意を問わないまま、政権を維持しつづけた。 小泉内閣以来4代の政権は、米国のブッシュ政権に追従し、改憲と自衛隊の海外派兵の道をおしすすめ、 規制緩和や郵政民営化の新自由主義的な構造改革路線を推進して、社会に貧困と格差を拡大してきた。

  とりわけ小泉内閣と安倍内閣のもとで、日本は米国のアフガニスタン、イラク戦争に積極的に加担し、自衛隊の海外派兵を一段と推し進めた。 そして憲法改悪に向けて自民党新憲法草案を策定し、国会では改憲手続き法を強行成立させた。 また教育基本法を改悪し、防衛庁の省昇格化と自衛隊の主要任務に海外派兵を加えるなどの自衛隊法の改悪を強行した。 さらに、新テロ特措法と海賊派兵新法を成立させ、自衛隊の海外派兵を恒常化した。米軍再編の動きに対応する在日米軍と自衛隊の体制の再編も進んできた。 北朝鮮との関係では 「ミサイル防衛」 を進め、PAC3の全国展開をはじめ、国会解散で廃案になったとはいえ船舶臨検法の策定も企てられた。 与党の中では敵基地攻撃論や、核武装論、武器輸出3原則の見直しなども唱えられはじめた。 いま、日米安保体制と自衛隊は、海外での戦争を推進できるような極めて危険な方向に大きく変容させられようとしている。

  今回の総選挙は世界的な経済危機のもとで進んでいる生活破壊の政治とあわせて、自公連立政権が進めてきたこれらの積年の悪政への審判の重要な機会である。

(2)
  マスコミや民主党は今回の総選挙を 「政権選択選挙」 と呼んでいる。この呼称には功罪両面がある。
  たしかに自公連立政権の悪政を終わらせ、参議院と同様に与野党逆転を実現する課題は緊急の課題である。 いうまでもないが、衆議院で自公与党が3分の2超の議席を有して、憲法59条を恣意的に運用し、議会制民主主義を破壊している現状は許すことはできない。 福田内閣と麻生内閣のもとで常態化した、衆議院での3分の2の議席を利用した再可決の強行というやりかたは必ず終わらせなくてはならない。

  「政権選択選挙」 と呼ばれるのは、このところの各種の世論調査の結果や、東京都議会議員選挙の結果などに見られるように、多くの人びとが自公政権に嫌気がさし、 政治の転換を望んでいることの表現である。その内容は、2代にわたって続いた無責任な政権の投げ出しや、 小泉首相以来、与党がとってきた 「構造改革」 路線の結果が貧困と格差の拡大をはじめ、年金問題、医療問題など、 民衆に耐え難い犠牲を強いてきたことへの不安と不満の蓄積である。また防衛汚職をはじめ、政官財の癒着の構造も相次いで暴露され、 この仕組みへの人びとの怒りも増大した。まさに人びとはこれらの自公政治の転換を望んでいる。

  しかし 「政権選択選挙」 という規定には民主主義にとって歓迎できない重大な負の要素が含まれている。 その根底にあるのは 「政権交代可能な2大政党制」 という考え方である。
  第1に、この考え方は 「小選挙区制」 の選挙制度を前提にしている点で、危険であり、 非民主主義的である。ここでは小選挙区制への批判は展開しないが、それは膨大な死票を生み出す選挙制度であり、 民意を正確に議席に反映する点では全く評価できない制度である。
  第2に、この社会の民意は多様であり、それをわずか2つの政党選択に収斂するのは不可能で、不当である。 多様な民意を反映した多様な政党が国会で活動する状態こそが望ましい。議会制度はできるだけ民意を反映したものでなければならない。 「2大政党制」 でなくても、民意を反映した政権交代は可能であり、そうした方向を目指すべきである。

(3)
  私たちはこの総選挙で、9条をはじめ、日本国憲法の3原則 (主権在民・民主主義、基本的人権の尊重、平和主義) を擁護し、それを生かし、 社会に実現する方向で活動する政党と国会議員が一人でも多く当選するよう奮闘したい。この3原則の対極にあるのが、自公連立政権と改憲派議員たちである。

  私たちはこの選挙において、自公与党が過半数割れを起こし、参議院と共に衆議院で、これまでの与野党が逆転する状況を目指したい。 そして、その中では社民党、共産党などの護憲派の政党の前進と、民主党内の改憲反対派勢力の前進を期待する。 選挙後、これらの勢力が国会外の民衆の運動と連携して、憲法3原則を実現していくよう奮闘できる状況をつくらなければならない。

  この総選挙で与野党逆転が実現した場合、新政権は民主党が第1党の連立政権になるだろう。だが、民主党はそのマニフェストをみても不安で、 不徹底な要素が多くある。私たちはこのままの民主党に過度の期待を持つことはできない。
  とりわけその憲法問題への態度や安保防衛政策などに関して、市民運動は重大な危惧を抱いており、これを慎重に監視し、働きかけなければならない。 民主党の中には 「自民党以上」 に右翼的な勢力があり、改憲の主張を展開している。米国や自公与党を支持した勢力は 「現実主義」 の名のもとで、 民主党の右傾化のためにさまざまな圧力と揺さぶりをかけるだろう。総選挙を前にして、すでに非核3原則問題、インド洋派兵給油問題などで、 民主党幹部の動揺した発言が繰り返されている。

  私たちは与野党逆転の新政権の成立を歓迎したうえで、それに対して院外からさまざまな大衆的行動をもって、良い政策は積極的に支持し、悪い政策には批判し、 断固闘うというスタンスをとることになる。これらの努力の中で、改憲反対勢力の共同行動の輪をできるかぎり拡大し、強化しなくてはならない。 この間、多くの人びとと共に勝ち取ってきた 「九条の会」 や 「5・3憲法集会」 などでの広範な共同行動と組織は、そのための重要な橋頭堡である。 いま、これらのさらなる発展が求められている。
  自公政権の打倒は私たちがねがう憲法3原則が実現する社会に向かっての長い道のりの、重要ではあるが、第一歩にすぎない。 私たちは一歩一歩とその道を歩みつづけるだろう。憲法12条はこういっている。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、 これを保持しなければならない」 と。
(「私と憲法」 7月25日発行、第99号所収)