N シ ス テ ム と は
弁護士 櫻 井 光 政
Nシステムとは、自動車ナンバー自動読取装置のことです。「N」 はナンバーの頭文字です。
全国の一般道、高速道路に2000箇所近く設置され、設置箇所を通行する全車両のナンバーを記録、保存しています。
しばしば速度違反取締装置である 「オービス」 と混同されますが、「オービス」 は速度違反をしている車両のみを撮影するもので、
違反の有無に関わらず全車両を撮影するNシステムとは機能も目的も異なります。
警察庁はその設置目的として、盗難車両の発見や自動車を使った犯罪の捜査を挙げます。
しかし、犯罪の捜査には一定の効果を挙げているようですが、盗難車両の発見にはさほど効果が上がっていません。
また仮に、犯罪の捜査に一定の効果を挙げているとしても、プライバシーを侵害して良いということにはなりません。
プライバシーの侵害を最小限に止めるための方策が必要です。
しかしながら国はプライバシーの侵害ということについては全く無頓着です。
私たちは、Nシステムはプライバシーを侵害するものだと主張しました。より具体的には、Nシステムは、(1) 自動車を運転する者の肖像権を侵害し、
(2) 自由に移動する権利を侵害し、(3) 自己情報コントロール権を侵害するものだと主張しました。
Nシステムはカメラを備えていて、通過する全車両を撮影していますが、撮影の範囲は運転者の肖像にまで及び、
かつ一定の運転者の肖像は画像として保存されているはずだというのが (1) 肖像権侵害の根拠です。
また、Nシステムによって行動を監視されることによって自由に移動することが躊躇されるようになるというのが (2) 自由に移動する権利の侵害の根拠です。
さらに、個人に属する情報を勝手に収集され、かつその保管の期間や使用状況すら全く明らかにされないというのはおかしい、
Nシステムは自己に関する情報のうち何を誰に知らせるかという自由を侵すものだというのが (3) 自己情報コントロール権侵害の根拠です。
これに対して国は、(1) については、肖像は撮影していないと強弁し、肖像権侵害の主張自体が失当であると反論しています。
また (2) についても、移動したいところに移動する障害は何もないのだからこの主張も失当であると反論します。
さらに (3) についても、そのような権利があるかどうかはともかく、運転者はナンバーを見えるところに取り付けなければならないのであって、
他から見られることは当然の前提になっているのだから、それをコントロールする権利はないと反論しています。
(1) については私たちも運転者の肖像を残しているという直接証拠を提示できていません。
しかし、本当に運転者の肖像を残していないというのであれば、国の方がその立証をすべきだと思います。
国からの立証の容易さと、争われているのが憲法的価値であるということの重要性に鑑みれば、その限りで立証責任は転換されるべきでしょう。
(2) について、物理的障害がなければ自由に移動できるというのはあまりに粗末な理屈です。監視されていても自由な行動が取れるかどうかが問題なのです。
物理的な障害はなくても心理的な障害によって自由な行動を取れないという方が少なくないはずです。
(3) について、ナンバーを常に見られても良い状態にしているということと、それを常時記録されるということはまったく別のことです。
Nシステムによって記録されるのは単にナンバーだけでなく、当該ナンバーの車両がいつどの地点をどの方向に向かって走って行ったかという情報です。
しかもその情報は集積されることにより、特定のナンバーの車両がどのような行動パターンを取っているか、
いつどのあたりまで足を伸ばしたかなどが分かるようになるのです。
それは、単にナンバーを見やすい位置に取り付けることが義務付けられているからといって当然に受任すべき義務ではないと言うべきです。
しかし残念ながら、これまでの訴訟では、裁判所はことごとく国の主張を容れ、国を勝訴させてきました。
他方この間カメラを使った監視システムは今やNシステムに限らずさまざまな場所で利用されるようになって来ています。
プライバシー保護の観点からの、監視システムの利用規制・適切なルール作りの必要性はますます高まっていると言えるでしょう。
2009.4.29
※ 参考 第二次Nシステム訴訟について
※ 参考 Nシステムについて詳しくは こちら をご覧ください。

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