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我々は負けていない!
大津地裁・大飯・高浜原発差し止め仮処分決定は住民の指摘を認めている

寄稿:海渡雄一(脱原発弁護団全国連絡会共同代表)

2014年12月1日

差し止め請求却下の決定

関西電力の高浜原発3、4号機(福井県高浜町)と大飯原発3、4号機(同県おおい町)の地震対策は不十分だとして、滋賀県の住民らが再稼働差し止めを求めていた事件について、大津地裁(山本善彦裁判長)は11月27日に、申請を却下する決定をした。

関西電力が2013年7月、再稼働に向けて、規制委員会に対して新規制基準への適合性審査を申請し、原子力規制委員会が審査を進めていた。

この事件は、滋賀県の住民が大津地裁に提訴していたが、弁護に当たっていたのは吉原、井戸弁護士らであった。

今回の決定は、結論こそ却下であるが、その理由を「規制委員会がいたずらに早急に、新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは考えがたい」と説明している。つまり、再稼働が目前に迫っているわけではないからまだ差し止め決定を出す必要性がないといっているのだ。

住民の側は、若狭湾の周辺には多くの活断層があり、想定を超える地震や津波が起こる可能性が高いこと点を差し止めを求める理由として主張してきた。原発の耐震設計の基準となる基準地震動が過小に評価されており福島原発事故と同じ

ような事故が起き、琵琶湖が汚染され、住民の生命と健康に深刻な危険が生じることをと訴えてきた。

決定はこのような住民側の指摘を否定していない。むしろ否定していないどころか、これを認めていると評価できる。

 

原発事故の取り返しのつかない重大性を明確に認めている

まず、第1に、「事故の重大な結果に照らせば,本件各発電所の再稼働後に,いったん重大な事故が発生してしまえば,文字通り,取り返しのつかない事態となり,放射能汚染の被害も甚大なものとなることが想定される」ことを認めている。

 

新規制基準の合理性について関西電力は説明していない

第2に、新規制基準の合理性について、関西電力が何ら説明を加えていないとし、「自然科学においてその一般的傾向や法則を見いだすためにその平均値をもって検討していくことについては合理性が認められようが,自然災害を克服するため,とりわけ万一の事態に備えなければならない原発事故を防止するための地震動の評価・策定にあたって,直近のしかも決して多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることにどのような合理性があるのかに加えて,研究の端緒段階にすぎない学問分野であり,サンプル事例も少ないことからすると,着眼すべきであるのに捉え切れていない要素があるやもしれず,また,地中内部のことで視認性に欠けるために基礎資料における不十分さが払拭できないことなどにも鑑みると,現時点では,最大級規模の地震を基準にすることにこそ合理性があるのではないか。」と判示している。

このような考え方は今年5月21日の福井地裁の大飯原発差し止め判決と共通する見方である。さらに、「自然科学においてその一般的傾向や法則を見いだすためにその平均値をもって検討していくことについては合理性が認められようが,自然災害を克服するため,とりわけ万一の事態に備えなければならない原発事故を防止するための地震動の評価・策定にあたって,直近のしかも決して多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることにどのような合理性があるのか」という部分は、浜岡原発訴訟や川内原発仮処分など、全国の裁判所で脱原発弁護団が一致して訴えてきたことを明確に認めたものであり、画期的な判示である。

 

避難計画すら立てられていない段階で規制委員会が再稼働を容認するとは考えがたい

第3に、決定は住民の避難計画にも言及し、「原発事故に対応する組織や地元自治体との連携・役割分担,住民の避難計画等についても現段階においては何ら策定されておらず,これらの作業が進まなければ再稼働はあり得ない」としたのである。

そして、結論として、「このような段階にあって,同委員会(原子力規制委員会のこと)がいたずらに早急に,新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたく,上記特段の事情が存するとはいえない。」として、住民の訴えを却下した。

 

 決定は再稼働が切迫すれば司法はストップをかけるという警告だ

このように、この決定は原発の安全性を認めたものでないことはもちろんのこと、規制委員会が再稼働を容認するとは到底考えられないとしたのであり、むしろ、住民の指摘をかなりの程度までみとめた決定であると評価できる。つまり、いまより再稼働が現実のものとなったときには司法はこれを差し止めるべきだとする考え方を含んでいると理解することが許されるであろう。

 

川内の仮処分で必ず勝利を!

我々は負けていない。原発再稼働を許さない闘いは、ここまで裁判所を追い込んできた。次は川内原発だ。規制委員会の結論が出ている川内については、司法は逃げられない。我々は、鹿児島地裁で、川内原発の再稼働を差し止める司法の審判を勝ち取ろう。

大津地方裁判所平成23年(ヨ)第67号,同第40号 決定(抜粋)

第4 当裁判所の判断

1 本件各申請前後の事実経過

疎明資料及び審尋の全趣旨によれば,以下の各事実が一応認められる。

(1)大飯発電所敷地内に存するF-6破砕帯の調査等について

ア 債務者(編集者註:関西電力。以下同。)は,平成24年7月18日,原子力安全・保安院から,大飯発電所敷地内のF-6破砕帯の調査について指示を受け,同年8月6日から,同発電所敷地内でF-6破砕帯の活動性と長さについての調査及び評価を実施し,同年10月31日,原子力規制委員会に対する中間報告を行った。

その後,債務者は,原子力規制委員会の「大飯発電所敷地内破砕帯の調査に関する有識者会合」(以下,「有識者会合」という。)の評価会合において,調査の追加実施に関する指示を受けた。

イ 債務者は,本件各申請後である平成25年7月25日,原子力規制委員会に対し,大飯発電所敷地内で行ってきた破砕帯調査に関する最終報告を行った。

ウ 同年9月2日に開催された有識者会合の第6回評価会合において,原子力規制委員会委員長代理でもある島﨑邦彦委員は,「今回の会合では,破砕帯の評価に関して認識の共有化が図れたと私は思っておりますので,一定の方向性が出たと思います。」と述べた。

エ 同月5日に開催された原子力規制委員会の第21回会議においては,上記島﨑委員から「9月2日の破砕帯の評価会合で有識者の間で共通の見解というか,理解が持てるようになりました。」「問題になっているのは,非常用取水路を横切る破砕帯でございまして,これは,事業者の言う山頂トレンチのF-6破砕帯と呼ばれるものですけれども,これについても,9月2日の評価会合で将来活動する可能性のある断層等には当たらないという見解に到達したという次第でございます。」との説明がなされ,これを受けて,田中俊一原子力規制委員会委員長は,将来活動する可能性のある断層には当たらないというような方向性がある程度固まった,という認識を示した。

(2)債務者は,原子力規制委員会の審査会合における議論等を踏まえ,同年12月20日ころに大飯発電所の津波に対する施設評価についての報告書を,平成26年4月ころに同発電所の基準津波に係る報告書を,それぞれ原子力規制委員会に対し提出した。

(3)債務者は,原子力規制委員会の審査会合における議論等を踏まえ,大飯発電所については同年5月9日,高浜発電所については同年8月22日,地震動評価に係る報告書を作成し,原子力規制委員会に提出した。

(4)佐賀新聞社は,同年9月10日に,同社ホームページに,原子力規制委員会田中俊一委員長が,同日,新規制基準への適合を了承した九州電力川内原子力発電所に続く原子力発電所の候補として高浜発電所を挙げたこと,同委員長は,高浜発電所の基準地震動について了解したのは事実である旨述べ,また,今後の審査については相当早く効率的に進むと期待しているなどとも述べていた旨を記事として掲載した。

2 保全の必要性について

(1)現在停止している本件各発電所の再稼働の差止めを求める仮処分命令は,その保全の必要性が疎明されなければならないところ,再稼働が差し迫って いるという事情が明らかでなければ,その保全の必要性が疎明されたものと はいえないというべきである。

(2)前提事実(13)(編集者註:本記事では省略)のとおり,債務者は,平成25年7月8日,原子力規制委員会に対し,本件各申請をした。

原子力規制委員会は,本件各申請について,設置許可基準規則等に照らした新規制基準適合性審査をし,その適合性を認めた場合でなければ,本件各申請に対する許可をすることはできず,原子力規制委員会が許可しなければ,債務者は,本件各発電所を適法に再稼働することができないものである。

福島第一原子力発電所における前提事実(9)ア(編集者註:本記事では省略)の事故の重大な結果に照らせば,本件各発電所の再稼働後に,いったん重大な事故が発生してしまえば, 文字通り,取り返しのつかない事態となり,放射能汚染の被害も甚大なものとなることが想定されるとしても,原子力規制委員会が本件各申請を許可する以前に,本件各発電所の再稼働が差し迫っているということはできないから,現時点で本件各発電所の再稼働を差し止める仮処分命令の申立てについて保全の必要性を認めるためには,これを認めるに足りる特段の事情のあることが疎明されなければならない。

(3)原子力規制委員会は,前提事実(13)(編集者註:本記事では省略)のとおり,いまだ本件各申請について審査を行っているところ,債権者ら(編集者註:住民側。以下同。)は,本件各申請については原子力規制委員会が早急に審査を進めており,本件各発電所の再稼働は目前に迫っているから,これを緊急に差し止める必要性は高い旨主張する。

債権者らは,上記1のとおり①原子力規制委員会委員長が,大飯発電所敷地内のF-6破砕帯について,将来活動する可能性のある断層には当たらないというような方向性がある程度固まった旨の認識を示したことや,②債務者が,原子力規制委員会に対し,同委員会の審査会合における議論等を踏まえて,大飯発電所について津波に関連した各報告書を,本件各発電所について地震動評価に係る各報告書を,それぞれ提出していること,③高浜発電所について早期に審査が進む可能性があることを示唆した記事が存することなどに基づいて,本件各申請に係る審査が相当程度進んでいるとして上記主張を行っているものと解される。

しかし,上記主張は,結局,今後の審査の進捗によっては本件各申請に対する許可が早期になされる可能性があるというにとどまるものであり,いまだ本件各申請について審査中である現時点において本件各発電所の再稼働を差し止める必要性を基礎付けるに足りる事情とはいえない。債権者らは,その他,現時点において本件各発電所の再稼働を差し止めるべき特段の事情について具体的な主張疎明をしない。

ところで,債務者は,新規制基準の合理性(自然科学においてその一般的傾向や法則を見いだすためにその平均値をもって検討していくことについては合理性が認められようが,自然災害を克服するため,とりわけ万一の事態に備えなければならない原発事故を防止するための地震動の評価・策定にあたって,直近のしかも決して多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることにどのような合理性があるのか。加えて,研究の端緒段階にすぎない学問分野であり,サンプル事例も少ないことからすると,着眼すべきであるのに捉え切れていない要素があるやもしれず,また,地中内部のことで視認性に欠けるために基礎資料における不十分さが払拭できないことなどにも鑑みると,現時点では,最大級規模の地震を基準にすることにこそ合理性があるのではないか。)について,何ら説明を加えていない。加えて,田中俊一原子力規制委員会委員長は,申立外の原子力発電所の再稼働に関連して,原発が新規制基準を満たすかどうかを審査するだけである,新規制基準への適合は審査したが安全だとは言わないなどとも発言しており,当該発言内容は,新規制基準の合理性に疑問を呈するものといえなくはないこと,さらには,原発事故に対応する組織や地元自治体との連携・役割分担,住民の避難計画等についても現段階においては何ら策定されておらず,これらの作業が進まなければ再稼働はあり得ないことに照らしても,このような段階にあって,同委員会がいたずらに早急に,新規制基準に適合すると判断して再稼働を容認するとは到底考えがたく,上記特段の事情が存するとはいえない。

以上によれば,本件各発電所の再稼働を差し止める仮処分命令の申立てに ついて上記特段の事情のあることが疎明されているとはいえず,保全の必要性が認められない。

3 よって,債権者らの本件各申立てはいずれも理由がなく,これらを却下すべきであるから,主文のとおり決定する。

平成26年11月27日

大津地方裁判所民事部

裁判長裁判官 山本善彦

裁判官 北村ゆり

裁判官 田中浩司

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