NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  アジア文明対話から世界文明対話の夢へ

【NPJ通信・連載記事】一水四見/村野謙吉

過去の記事へ

アジア文明対話から世界文明対話の夢へ

2025年12月1日

 現在、インターネットの発達とパソコン・スマホの普及によって世界中で起きている様々の情報が、国籍・人種・所在地を問わず、あらゆる人々の日常生活にまで時々刻々感じられるような時代状況である。

 電車に乗れば、座っている乗客も立っている乗客も、確実に10人のうち7~8人がスマホを見ている。
 ラーメン店では、右手でスマホを操作しながら左手に持った箸でそばを食べている若者がいた。

 情報源は、トランプ大統領の言動、ウクライナとロシアの戦争、イスラエルとパレスチナの戦闘、移民問題、地震、竜巻、インターネット関係の犯罪、異様な殺人事件、日本では熊の出没など限りなくある。
 そして日中関係は、相変わらずギクシャクしている。
 何か、頭が錯乱状況になるような複雑な世相だ。

 このような状況下では、大きな文明的見地から世界を見る必要があるのではないかと思う。
 そして6年前、アジア文明対話大会に参加するため北京へ行ったことを懐かしく思い出した。

* * *

 2019年5月15日から18日の期間、北京において「アジア文明対話大会 (Sharing Experience on
Asian Governance) 」が開催された。
 この対話大会は、2015年から進められてきた計画の結実であるが、47ヵ国、約2000人が北京に招かれた。

 15日は各国代表が出席した式典と一般会議で、日本側の参加者は、明石康元国連事務次長、宮本雄二・元駐中国日本大使を含む有識者や一部の宗教団体関係者 (仏教と道教) などである。

 北京週報 (本誌評論員・蘭辛珍 ・2019-05-16)  は、この大会を次のように報道している。

 「文明の心は平等と包摂性にあり」5月15日午前、アジア文明対話大会が北京で盛大に幕を開けた。・・・<アジア文明の交流・相互参考と運命共同体> をテーマに、アジア47カ国及び世界各地から訪れたゲストが一堂に会し、・・・ 習近平国家主席は開幕式に出席し、基調演説を行った。
 “人類社会にはさまざまな傲慢や偏見も存在しており、一部の人々は自らの文明が最も優れていると考え、「文明の衝突」に執着し、他の文明を否定したり、作り変えようとしたり、取って代わったりしようとして、ついには戦争や災難を引き起こした。目下、このような「文明の衝突」を吹聴する人々は依然として存在し、平和と発展という2つの世界の主流に破壊をもたらした。このような背景下におけるアジア文明対話大会の開催は極めて貴重なものとなっている。・・・” 」

 この論評は米中双方がすでに経済対立を超えた文明の相克の状況にあるとの認識を示しているように思われる。

 16日には 北辰洲際酒店で分科会が開かれた。分科会はテーマ別に3部会に分かれ中国人参加者は96名。
 外国人参加者は136名で、国籍・所属は以下のとおり。
 アジェルバイジャン・アフガニスタン・アメリカ・アルゼンチン・アルバニア・イギリス・イスラエル・インド・インドネシア・エジプト・カザフスタン・カナダ・クウェイト・ケニア・韓国・カンボジア・シンガポール・スペイン・スリランカ・タイ・タジキスタン・ドイツ・ドバイ・ニュージーランド・日本・ネパール・パキスタン・バーレン・ハンガリー・バングラデシュ・バーレン・フィリッピン・フランス・ブラジル・ブルネイ・マレイシア・マケドニア・ミャンマー・モンゴール・ヨルダン・ラオス・ルーマニア・レバノン・ロシア。

 筆者は、国際政治の専門家を通して分科会での発表の依頼を日本で受けた時、使用言語は中国語または英語と指定された。

 そこで、「ローマ文明的秩序と中華文明的秩序を超えるべき一帯一路の理念 (A Universal
Idea of the Belt and Road Initiative Beyond the Civilisational Conflicts between Pax Romana and Pax Sinica)」と題して英語で発表。

 筆者発表(「アジア文明対話大会」北京・2019年5月16日)

 本論に入る前に、私は仏教学が専門で国際政治や中国問題の専門家ではないので私の発表に期待しないように、と簡単な自己紹介をしてから、達磨大師の逸話を紹介した。

 6世紀、南インドからはるばると中国にやってきた仏教僧がいた。ボーディ・ダルマ (菩提達磨) だ。
 彼は武帝に呼ばれ対面して問われた。
 武帝、問う。 “仏教を信じ寺を建てたら、どんな功徳が得られるのか?”
 達磨大師は即答した。
 “無功徳 ! ”

 会場後方のオブザーバー席にはキリスト教徒、イスラム教徒、ヒンズー教徒などがいただろうが会場から笑いが聞こえた。
 私の発表論文は、中国の一帯一路構想は国家的レベルを超えた文明的かつ文化的価値があるのであれば、西欧文明の良質の価値観に対峙するものではないことを中国側は明確な言説を持って発信すべきであるとの趣旨である。

 分科会での発表後、5月17日午前中に「アジアデジタル芸術展」を見学し中国のデジタル技術に圧倒されたが、その後に訪れた中国高速鉄道本社指令センターの光景に筆者は強い印象を受けた。

 中国から中央アジアを貫通して欧州につながる高速鉄道網を一望する指令センターである。

中国高速鉄道本社指令センター(筆者撮影)

 中国国内の路線の運行状況、各駅構内の乗客の流れ、高速鉄道沿線の風景などが時々刻々と多数のモニターに写し出されている。

* * *

 アングロサクソン民族に主導された西欧は、植民地支配で蓄積された豊富な情報を持ち、それを英語という最強力の国際語で世界に情報を発信し、魅力的で利便性のある生活様式と技術文化を携えて世界に拡大してきた文明である。

 しかし「真昼の暗黒」の著者・ハンガリー出身のユダヤ人作家・アーサー・ケストラーが指摘しているように、アジアに対する西欧の態度は “銃と福音書が合体した真理で武装した征服者” (’ the conqueror armed with his gunand-gospel truth’ ; Arthur Koestler: The Lotus and the Robot,
1960 )でもある。

 中国は「アジア文明対話大会」において、中国には世界的覇権を求める意図はないと主張しているが、パワーバランス上、不断に米国を意識して軍事力の充実を維持せざるをえないのが現実だろう。

* * *

 「ユーラシアを制する者は世界を制する」とは地政学で言われることだが、現在イスラム圏となっている中央アジアと東アジアは、大方仏教圏であった。

 中国仏教と日本仏教の歴史的確立において最重要の大乗経典である「法華経」と「阿弥陀経」をサンスクリット語原典から中国語に翻訳した中国仏教第一の訳経僧クマーラジーヴァ
(4C.)は、現在の新疆ウィグル自治区クチャ市の出身であることを思えば、歴史は皮肉の物語である。

 行く川の流れの如く、諸行は無常であり、歴史の現在面の観察に固執してしてはならない。
 歴史は未来の上流から過去の下流へ流れている大河の流れのようである。

 自由第一のアメリカでは、政権批判は自由であり、公私にわたる人々の失敗は原則的に本人の責任としてアメリカの法治において解消されるが、中央集権的に国家計画を決めて政治運営する秩序第一の中国では、一般人による政権批判は基本的に許されず、特に要路にある者の失策は中国政府自身の威信に関わってくる。

 現在、中国は経済大国として多数の富裕層が生まれているとは言え「衣食足りて礼節を知る」(管子;前7世紀)というが「衣食足りて」無作法になるのも人間一般の常である。

 1人当たり名目GDP(US$換算)ではアメリカの 8万6,145に対して中国は1万3,314(IMF: 2024)である。
しかし、今後中国は、行政の様々な段階において小康社会の実現を漸進的かつ慎重に進める必要があるのではないだろうか。

 現在、世界的に、個人と組織について自由が偏重されて義務と責任が軽んじられる傾向にあり、各国の公僕の道義心にも揺らぎが生じている。

 中国は、特に責任ある公僕の心がけとしての儒教と、西欧の識者をも魅了する柔軟な発想の老荘の哲学の学習を、特に要路にある人々に奨励して、秩序の指導体制を “内面的精神的” に充実させるべきではないだろうか。

 そして中国の夢が世界の人々の夢に寄与するものであることを、アジアと西欧の良識ある国民にわかりやすい言説で示す必要がある。

 かつて荘子 (前4世紀 ) は「胡蝶の夢」をみた。
 その夢は歴史的正邪・善悪を超える「物化」の直観である。
 「物化」は、仏教の縁起に関わる存在論としての色即是空の空観に通じ、認識論としての唯識論に通じ、さらに唯識論は、夢の世界観の美意識に通じる。

 美意識は文化的創造の源泉である。
 これは和諧社会の柔軟な思想的根拠となるものではないか。

 現在、世界の政情は、未曾有の予測のつかない様々な価値観の混乱に満ちた非文明的様相を帯びてきた。

 量の価値観ではなく、美意識に基づいた質の価値観を持つことが益々必要とされる状況となってきた。

 インド、中国、西欧の識者らが世界各地に集って、それぞれの国情に配慮しつつ、文明的見地から人類の未来に向かって様々な夢を自由に語る対話が切に望まれる。

(2025/11/17b 記)

-----------------------------------
# 本文、引用文、一定の内容などについて、筆者の意図しない誤記や誤解などがあれば、ご指摘を受けて、感謝をもって訂正したい。

こんな記事もオススメです!

前途多難の高市早苗新政権

地域市民連合めぐせたの闘い

甦ってくる「スパイ防止法」の危険性  ~ 今を新たな戦前としないために ~

明らかになった我が国の「拡大抑止依存政策」の危険性と愚かさ   ―拡大抑止政策からの離脱、今がチャンス―