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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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明らかになった我が国の「拡大抑止依存政策」の危険性と愚かさ
  ―拡大抑止政策からの離脱、今がチャンス―

2025年8月14日

1 キーン・エッジ24で米国による核威嚇を要求

(1) 2025年7月に二つの大きな事実が明らかになりました。一つは、7月28日付共同通信記事です。この記事は、昨年2月実施された日米共同統合演習 (指揮所演習) (キーン・エッジ24) において、台湾有事を想定した演習想定の中で、中国の指導者が核兵器使用を示唆する発言をし、自衛隊トップの統合幕僚長が「日本防衛のため、米も核の脅しで対抗してほしい」と繰り返し求め、やむなく米軍もこれに応じたというものでした。

 インド太平洋軍の司令官は、最初は渋ったとのことです。おそらく、米国も核兵器による威嚇をすれば、双方が核威嚇をエスカレートさせて、核兵器使用に至ることを懸念したのではないかと想像します。

 防衛大臣は記者会見でこの報道について質問され、「事実無根」と強く否定したことを付け加えておきます。ところが、防衛省は未だ共同通信に対して、この記事が「事実無根 (誤報という意味でしょう)」だとして抗議してはいないようです。

 もう一つは、日米拡大抑止協議で行われた有事を想定した机上演習で、米軍が核兵器を使用するシナリオを議論していたと報道する7月27日の共同通信記事です。

(2) キーン・エッジ24の演習内容がどのようなものであったかは、防衛省の省秘だと思われますので、詳細は不明です。しかし、報道機関のこれまでの報道から、かなりの内容が明らかになっています。

 2024年2月5日共同通信記事によると、この演習は台湾有事を想定した初の演習であったこと、敵国は仮想の国ではなく、中国という実名を使ったこと、仮想の地図ではなく実際の地図を使った演習であったことから、台湾有事を想定したきわめて実戦的な指揮所演習であったことが分かります。

 また、この記事によると、対中国日米共同作戦計画の原案が2023年末までに作られており、キーン・エッジ24を踏まえて、2024年末までに正式版が作られること、2025年に予定している日米共同統合演習 (実動演習) (キーン・ソード25)において、作戦計画の有効性を検証する流れであること、キーン・エッジ24では、この時点では未だ作られていない仮想の自衛隊統合作戦司令部 (その後編成される) があることを想定した演習であったこと、豪軍が初めて参加した三か国軍事演習であったことが分かります。

 2024年11月25日共同通信記事では、キーン・エッジ24において、米軍は南西諸島とフィリピンへミサイル部隊を配備し、南西諸島へは海兵隊を、フィリピンへは米陸軍多領域任務部隊を配備し、二正面から台湾有事に対処する二正面作戦であったことなどが報道されました。

 さらに、2025年4月6日産経新聞ウエッブ版は、上記の共同通信記事の内容に加えて、台湾有事で中国が佐世保基地などを攻撃し、日本政府は武力攻撃事態ではなく、存立危機事態を認定し、集団的自衛権により自衛隊が武力行使ができる条件が整ったこと、自衛隊側は中国空母攻撃を優先させたかったが、米軍側から台湾海峡を航行する中国海軍強襲艦隊を攻撃するよう要請し、航空自衛隊の戦闘機がミサイル攻撃を行ったことなど、かなり具体性を帯びた内容が報道されました。

(3) 以上の情報を踏まえると、台湾有事において、存立危機事態を認定した我が国は中国との本格的な武力紛争になるが、その際核兵器使用も想定していたことが分かります。中国の核兵器使用の威嚇に対抗して、米国による核兵器使用の威嚇を自衛隊が強く求めたのです。軍隊である以上、核抑止が破綻して核兵器が使用されることも想定した対応をたてていたはずです。

1 防衛省の省秘は、文書の右肩へ「秘」のスタンプを押している。キーン・エッジ24の開示文書がないので、断定はしがたいが、私の手許にある平成19年度日米共同統合演習 (実働) (キーン・ソード演習) の基本実施計画と自衛艦隊作成の実施報告書は「秘」とされているので、キーン・エッジ24も省秘とされていると考えられる。

2 キーン・ソード25は、2024年10月23日から11月1に関に実施された。キーン・ソードとキーン・エッジは、これまで毎年1回交互に実施されていたので、共同通信の記事も2025年に予定されていると書いたのであろう。日米で台湾有事へ備えを急速に作りつつあることが、このようにたて続けに実施された理由と思われる。

2 日米拡大抑止協議における核兵器使用の協議

(1) 2025年7月27日共同通信記事は、日米拡大抑止協議において、これまで複数回有事を想定した机上演習を実施し、米軍が核兵器を使用するシナリオを議論していたと報道しました。

 日米拡大抑止協議は2010年から始まっています。これまで外務省が発表した拡大抑止協議の内容を外務省HPで見ていましたが、過去の発表で机上演習を行ったということはまでは分かっていました 3

 しかし、どのような机上演習かは不明でした。この記事で、机上演習が有事を想定したもので、その際核兵器を使用するシナリオであったことが初めて分かりました。

(2) 拡大抑止協議は、毎年2回、日米で交互に開催されており、2010年以降開催されるようになってから、日米の参加者は、外務省が北米局参事官、防衛省が防衛政策局次長、国防省が国防次官補代理、国務省が国務省軍備管理・抑止・安定性局次官補代理というように、実務者協議でした。

 ところが、これを閣僚級協議へ格上げすることが日米間で合意されました。2023年1月11日日米安保協議委員会(2+2)で、「閣僚は、米国の日本に対する 拡大抑止、及び、最近公表された米国の「核態勢の見直し」について突っ込んだ議論を行い、日本の能力によって強化される米国の拡大抑止が信頼でき、強靱なものであり続けることを確保することの決定的な重要性を再確認した。」と述べ、同年5月18日(G7広島サミットの際の)日米首脳会談において、「バイデン大統領からは、核を含むあらゆる種類の米国の能力によって裏付けられた、日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する米国のコミットメントが改めて表明され、両首脳は、そうした文脈において、情勢が進展する際のあらゆる段階において二国間の十分な調整を確保する意思を改めて確認しました。両首脳は、直近の日米「2+2」や日米拡大抑止協議における、米国の拡大抑止に関する活発かつ突っ込んだ議論を評価し、こうした議論を一層強化していくことの重要性を改めて確認」して、これまで実務者協議に過ぎなかった拡大抑止協議を閣僚級に格上げすることを合意しました (強調は井上)。

(3) 初の閣僚級の日米拡大抑止協議は、2024年7月28日に開催されました。共同発表文では、「 閣僚は、米国の核政策及び核態勢並びに同盟における核及び非核の軍事的事項の間の関係性について緊密に協議する両国のコミットメントを再確認した。閣僚は、日米の抑止力及び抑止の方策に係る議論を継続する意図を改めて確認した。閣僚は、また、情勢が進展する際のあらゆる段階において、同盟調整メカニズムを通じた二国間の十分な調整を確保する意思を再確認した。」と述べています。

 この一文で、それまで実務者協議であった拡大抑止協議を閣僚級に格上げしたことの意味を読み取れます。閣僚級拡大抑止協議は、日米安全保障協議委員会(2+2)と同じ構成メンバーです。そこで合意した内容は、同盟調整メカニズムで具体化されることになります。

 この点が実務者協議ではできなかったことです。同盟調整メカニズムは、平時から有事を通じてシームレスに機能し、日米双方の部隊の共同運用を協議したり、日米共同作戦計画を策定する、日米の軍事的一体化を促進する仕組みを作っているのです。

 安保三文書では、抜本的に強化される我が国の防衛力は、米国の核兵器を含む拡大抑止力を強化するものと位置付けています。このことから、米国が中国との武力紛争で、核兵器使用の威嚇、実際の使用に至る際にも、我が国が深くかかわるであろうことが推測できます。

 2024年12月27日、外務省は日米間の拡大抑止に関するガイドラインを作成したことを発表しました。外務省発表文によると、ガイドラインの概要は、「拡大抑止に関連する既存の日米同盟における協議及びコミュニケーションに係る手続を強化するものです」と述べています。

 外務省発表文はまた、「抑止を最大化するための戦略的メッセージングを取り扱うとともに、日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止のための取組を強化するものです。」と述べています。戦略的メッセージングとは、相手国に対する核兵器使用による威嚇と考えられます。

 ガイドラインの詳細は不明ですが、日米間で、米国が日本防衛のために核兵器を使用しようとする場合、日本側(政府と防衛省・自衛隊)が、そのプロセスに何らかの形で直接かかわることができるようにした、ということまでは想像できました。

 2025年7月27日の共同通信記事は、事態の推移に応じた両政府の連携や国民への説明など、核使用に伴う課題を検討したこと、米国が核使用に踏み切る場合を見据え、日本側との調整の在り方や連絡経路を整理し指針(ガイドライン 井上注)へ盛り込んだ、自衛隊と米軍を一体運用する同盟調整メカニズム(ACM)の枠組みを通じ、必要に応じて閣僚級でも協議することを想定している、という内容です。

 キーン・エッジ24が想定した台湾有事において、中国からの核兵器使用の威嚇に対抗して、米国の核兵器使用の威嚇を自衛隊が求めたということと、拡大抑止ガイドラインの内容を重ねると、我が国は米国による核兵器使用の共犯関係になることを物語っているのです。

3 2023年12月行われた日米拡大抑止協議、2024年12月に行われた拡大抑止協議

3 日本政府の拡大抑止依存政策の危険性

 日本政府の米国による拡大抑止依存政策は、これまでは、核兵器による脅威に対抗するためのものだとされていました。ところが、現在の拡大抑止依存政策は、米国の通常戦力と核戦力に、我が国の防衛力を一体化させ、我が国の抜本的に強化された防衛力により、米国の拡大抑止力を強化するというものになっています。

 我が国は、米国による核兵器の威嚇、使用につき共犯となっています。これにより中国による核兵器使用を抑止することができるという想定なのだとすれば、それは希望的観測に過ぎないものです。なぜなら、核兵器使用の威嚇で、相手国が核兵器使用を抑止されるとの確実な保証はないからです。

 むしろ、双方による核兵器使用の威嚇がエスカレートする危険性があります。核兵器による威嚇という、最初は政治レベルでの威嚇であったものが、核兵器を使用する態勢に入る、核兵器部隊が作戦行動をとる、核兵器使用の演習を行うなど、核兵器使用の脅威度を上げるでしょう。

 そもそも核抑止論とは、「理論」というような性質のものではありません。核抑止論が「理論」として実際に機能すると言えるためには、事実によって検証されなければなりません。しかし、核兵器の性質上、このような検証は不可能です。実際に検証してみた結果、核抑止は効かなかったら、核兵器の応酬になるし、その場合は世界の終末をもたらすかもしれません。

 核抑止論は、軍人や核兵器専門家、国際政治の専門家たちが頭の中で考えたものに過ぎないのです。それは決して「理論」ではなく、専門家たちの希望的観測に過ぎません。いくら精緻な核抑止論を作ってみても、しょせん、「頭の体操」に過ぎません。

 ましてや、台湾有事で米中間の戦争になれば、人類がこれまで経験したことのない、核兵器大国間の本格的な武力衝突になります。その際に、核抑止が有効に機能するかということは、ある意味「博打」のようなものです。核抑止は、双方の国民を人質にとる (博打の賭金にする) ようなものです。
 
 キーン・エッジ24についての共同通信の記事が語っていることは、台湾有事という米中間の大規模武力紛争下での、戦局の推移の重大な局面での双方からの核兵器による威嚇であったと思われることです。別の言い方では、核兵器使用の瀬戸際であったということです。

 その際に使用される核兵器は、中国と米国の本土を破壊する戦略核兵器ではなく、台湾、南西諸島を含む (本州も含むかもしれません) 地域へ向けた戦域、戦術核兵器だということです。

 それだけでも、私たちは核兵器による破局的被害を受ける恐怖に直面します。万一核抑止力が破綻して、双方による核の応酬となれば、我が国は間違いなく壊滅的な被害を受けるでしょう。

 これまで私たちは、米国の核抑止力への依存政策を、平時におけるものとして、戦争を防止する政治的な手段として理解していたのではないでしょうか。ところが、実際の核抑止力は武力紛争で使われるものであり、核兵器使用の瀬戸際まで情勢が進展すること、そのことが武力紛争のリスクを極めて重大なものにすること、核抑止論が想定している抑止効果が効かなければ、核兵器が使用される現実的な脅威になることが、分かったのではないでしょうか。

 拡大抑止依存政策が核兵器使用の瀬戸際政策であることが、共同通信の記事が明らかにしてくれました。政治レベルでも、拡大抑止協議において、武力紛争下で核兵器を使用する想定での演習が行われ、実際に核兵器を使用する際の日米間の具体的な協議のプロセスまでガイドラインを作成して決定していることが明らかになりました。

 拡大抑止依存政策が、どれほど危険で愚かなものであることが、私達に突きつけられているのです。私は、このようなことが明らかになってきた今こそ、拡大抑止政策からの離脱を進めるチャンスであると考えます。具体的には、核兵器禁止条約に加盟すること、北東アジア非核地帯を実現する外交努力を始めること、これらと併せて、台湾有事を起こさせないための外交政策が求められていると考えます。

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