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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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連載「ホタルの宿る森からのメッセージ」
第38回「森の中で生きるということ(その3)~恐れるべきものはあるのか」

2015年8月27日

▼フクロウ 現地の人は無論、森に慣れている。ある動物が危険だと察すれば、それなりの対応をする。虫をうっとうしく感じるのはわれわれと同じだが、たいてい最後は笑い飛ばす。質素な食事にも苦労はしないし冷たいビールがなくても不平不満はない。彼らには、われわれが使うような装備の湿気対策も心配する必要がない。最近は村住まいが多くなった森の先住民も、森の中にいれば、顔が生き生きとしている。 それでも、いくつかは忌み嫌うものがある。

森の中のフクロウ©西原恵美子

森の中のフクロウ©西原恵美子

フクロウはその対象の一つであるらしい。森の中の夜のキャンプではフクロウの鳴く声が聞こえるときがある。一羽、二羽、多いときは三羽以上のときもある。ボッボ、ボボボボロ。その声が繰り返し聞こえる。しかし彼らによると、フクロウは村から悪い魂を持ってきた使いなのだという。だからその存在を気持ち悪がる。たしかに両方とも前方を向いた目は人間の顔を彷彿させないこともない。特に夜、懐中電光の光をフクロウに当てれば、その両目が不気味に光る。 あるとき、それが昂じてしまった。 まだ未明の時刻。ぼくはテントの中にいた。なにやら先住民たちの話し声で外はうるさく、目が覚めたのだ。フクロウが鳴いている。気持ち悪くて先住民たちは眠れなかったのかもしれない。そして何かを放り投げる音。そのあとの小さな喚起。どうやらフクロウを投げた小枝で仕留めたらしい。ふざけ半分ではないにせよ、いくら忌み嫌う対象だからといって殺すことはないとは思ってしまう。彼らの文化や忌避の気持ちも察しないわけにはいかないが、ただ国立公園内でフクロウは殺してほしくなかった。しかしそれもわれわれの側からの価値判断に過ぎないかもしれない。 ▼危険そうな動物 アフリカのジャングルといえば、おどろおどろしい世界で、そこには小さな虫たちだけでなく、大蛇と猛獣がいて、危険で野蛮なところ、そういう思い込みが少なくない。「動物とか怖くないですか?」「動物に襲われる危険性なんてないんですか」これまた典型的に受ける質問である。 結論からいえば、熱帯林に生息するどの動物も基本的にはおとなしい。想像するほどの危険はないといってよい。こちらが、ひどく相手を驚かさない、静かにしている、相手に異常に接近しない、武器を持たない、そうした条件さえ守ればまずわれわれに危害を加えてくることはない。それ以外でもし問題になるとしたら、視界の悪い森の中でお互い急に鉢合わせたときだ。

森の中のアカスイギュウ©永石文明

森の中のアカスイギュウ©永石文明

突如アカスイギュウに出くわしたことがある。森の中である。こちらが考える暇もなく猛烈な勢いでわき目も振らず一目散にわれわれの方に突進してきた。ぼくといっしょにいた先住民ガイドの一人は、「早く木に登れ」とすでに登った木の上からぼくを叫ぶ。ぼくも判断の余裕はない。すぐ横にあった直径20cmくらいの木にしがみつくようにのぼった。せいぜい2mも登っていないだろう。アカスイギュウはそのまま木の下を走って通過していった。危機一髪といえばそうだが、しかしこんな経験も25年アフリカ熱帯林と関わって一度切りである。

森の中のヒョウ©西原智昭

森の中のヒョウ©西原智昭

熱帯林の中の肉食獣はヒョウである。しかし藪の多い森の中でヒョウに直接お目にかかることはめったにない。ときおり先頭を行く先住民が数10m先のブッシュの中を通り過ぎていくヒョウの姿を見たとか、ヒョウの気配のする音を耳にするくらいだ。ブーンブーンブーン、というその音は、まるでなにか機械仕掛けの低音が鳴り響いているようにも聞こえる。先住民によると、それはヒョウが尻尾をぐるぐる回している音だと。そういうときは、少し迂回しつつそろりそろりと通り過ぎることにしている。ヒョウについては、われわれはもちろん、地元に人ですら事故にあったという話は聞いていない。何度も国立公園につながる森の中の道路上を闊歩するヒョウを眺めたことがある。50mくらいの距離だ。われわれには気付いていたはずだ。しかしわれわれが見たのは、何を恐れるともなく、ただ悠然と歩くヒョウの姿であった。

樹上から地上を見つめるチンパンジーcAbea Gaston

樹上から地上を見つめるチンパンジーcAbea Gaston

チンパンジーは肉食であり、ダイカーやサルなどを狩猟する。その意味では凶暴かもしれない。体格やその腕っ節を見るだけでもかなりのパワーがありそうなのは想像がつく。しかし直接人間に攻撃を加えてきたという話は聞かない。 ただ一度、危機一髪の出来事は一度だけあった。そのときぼくは、テレビ隊と森の中でいっしょであった。撮影の対象となったチンパンジーは異常に興奮していた。複数のチンパンジーがわれわれの周囲を樹上から取り囲むようにしていた。そしてわれわれ全員が、狂ったように騒ぐあるチンパンジーの方に気をとられていた隙に、別の角度にいたチンパンジーが大枝を落としてきた。そこはカメラマンの真上だった。「危ない!」と叫んだが、瞬時のことで彼が逃げる余裕はなかった。幸い、大枝は彼らの上には落ちなかったが、かなりの近距離に落ちたことは確かだ。撮影を気味悪がって、他の個体にカメラマンの気をとらせつつ、わざとカメラを持っている人間にめがけて落とした風に思える。 ゾウとはまれに事故があることは聞く。ぼくも一度事故にあった(第13回の記事参照)。しかし、大抵の例は人間側がむやみにゾウに接近しすぎた、見通しの悪い森の中で突然出くわした、小さな子供を抱えているメスゾウがいる、あるいはかつて密猟が激しかった場所でゾウが緊張していると思われる、そうした原因が多い。 もし危険な動物を挙げるとしたら、ヘビかもしれない。これは次回に譲る。 ▼かみなり 「じゃあ、森の中でいちばん怖いものは何ですか」と質問者は責めてくる。ぼくの怖いもののひとつは雷。これは熱帯林に限らない。日本でも怖い。小さいころからそうだった。 森の中で、一度、度肝を抜く経験をしたことがある。夕方うす暗くなるころ、激しい雷雨が始まった。ぼくは、グラウンドシートが屋根代わりになっている小屋の中に座り、雨の様子を見ていた。ところが、「ドカーン!」と一発、雷が目の前に落ちたのだ。小屋の隅の外においてあった金属製の鍋に落ちたのだ。なんの前触れもなかった。 ぼくは小さいころ雷が鳴ると恐くて、親あるいは他の大人のいる場所にすぐに駆け込んだ。「雷雲は、ものすごい早さで動いていくんだよ。だから雷はすぐにもやむからね~大丈夫だよ」ということばを大人から繰り返し聞きながら、びくびくおびえていたのを思い出す。 それにしても熱帯林の雷雨はスケールが違う。雷も度肝を抜く音の場合がある。ぼくは恥ずかしながらも小声でフォーとかヒーとか叫んでしまう。それは何年たっても変わらない。特に夜は怖い。 (続く)

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