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【NPJ通信・連載記事】ホタルの宿る森からのメッセージ/西原 智昭

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ホタルの宿る森からのメッセージ ~ アフリカ熱帯林・存亡との戦い 
第11回 国立公園管理体制の立て直し ~ 森での昨今の日々とブルックナー交響曲第7番

2014年7月1日

前回まで5回連続(第6回から第10回まで)で、ゴリラに関する話をさせていただいた。野生ニシローランドゴリラの生態と、その生息危機や、それにまつわる直面している課題が少しでも多くの方と共有していただけたらと思う。

朝もやのかかる森の風景©西原智昭撮影

朝もやのかかる森の風景©西原智昭撮影

とりわけ、「マルミミゾウの密猟と象牙取引」、「熱帯林伐採」、「(われわれの森のガイドでもある)先住民」、「エコツーリズム」、そして「教育普及(コンゴ共和国内の地域住民に対するものと、その国外への方々に対するもの)」などの現状については、項を変え、詳細に述べることができたらと考えている。その前に、最近のコンゴ共和国北部現場でのアップデートな情報を提供したい。

ここ連日、特に6月に入ってからは、ほとんど休む間もなく、移動の多い日が続いている。車で悪路を一日数百キロ運転する日もあれば、森の中を何キロも歩く日もある。そうしている間は、事務所にいることができないので、事務所に戻った時には、メールも含め幾多もの事務仕事が待っている。しかし、どれも遂行しなければならないのだ。

国立公園管理という仕事に関わっているが、そのカナメはいうまでもなく、当国の法律のもと、国立公園を守ることである。簡単にいえば、国立公園に存在する野生生物を、いかなる脅威や違法行為から守ることである。それが最優先事項であり、研究やツーリズム、教育などその他の活動は二の次である。

ぼくが長年関わってきたコンゴ共和国北東部のヌアバレ・ンドキ国立公園。アフリカ熱帯林地域の中でも、有数な広大な原生熱帯林を有する場所である。その面積約4,000㎞2は東京都の2倍の広さに当たる。国立公園として制定されて以来ここ20数年の歴史の中で、国立公園近郊で密猟が起こることはほぼ皆無であった。それは近隣住民の理解もあったこともあり、またパトロール隊も人数の少ない中、最低限であっても効果のあるパトロールを実施してきたからでもある。

しかし、昨今、事情は変わってきた。われわれの国立公園基地すぐ近くでも密猟が起こった。森の中の、研究・ツーリズム地の近くでも、同様な事件が相次いで発見されている。ここほんの数カ月の出来事である。情報を合わせれば、少なくとも、5頭のマルミミゾウが殺害されている。こうした国立公園近郊での出来事は、これまではあり得なかった。無論、すべて象牙目的である。われわれの活動しているスポットの近くで起こったこうした密猟事件は、われわれプロジェクト内部の人間の関わりへの疑念をぬぐえない。

最新のマルミミゾウの死体。密猟されてから数日後。すでに象牙は抜かれている©西原智昭撮影

最新のマルミミゾウの死体。密猟されてから数日後。すでに象牙は抜かれている©西原智昭撮影

このことで、パトロール隊の仕事がスムーズに動いていない国立公園管理体制の問題が露呈された。またパトロールに従事するレンジャー(われわれはエコガードと呼ぶ)の数があまりにも少なく、昨今の頻繁な密猟に対処できなくなってきていることが背景にある。

そうした体制の立て直しと新たなエコガードの養成は、最優先事項となっている。エコガードの直接の管理者であるコンゴ共和国森林省の現地代表者との協力体制を強化するだけでなく、われわれWCSの責任者の刷新も必要とされた。その作業にぼくは直接携わり、管理体制の改善にいま急遽取り組んでいる。また、エコガードの数を増やすべく、2カ月に渡るトレーニングコースのための準備とその実施に、ぼくが直接関わることになった。

エコガードの訓練の基礎は軍隊トレーニングでもある。銃を持つ密猟者に対抗することで、エコガードも自動小銃を使う。無論、基本的な体力訓練も組み込まれる。コンゴ共和国・防衛省から軍人を招き、またエコガード訓練に熟練した外国人コンサルタントも呼んでいる。現在、合計で32人の新人エコガードを養成中であり、ぼくも週の50%くらいはトレーニング地である森の中を訪れ、必要な物資の確認や軍人とのコーディネートなどに従事している。

自動小銃AK47の実地訓練中のエコガード©西原智昭撮影

自動小銃AK47の実地訓練中のエコガード©西原恵美子撮影

そのほか、エコガードへの装備やインフラが不足している。これも、これまで国立公園管理体制の弱さであった。その回復と強化のために、装備の在庫チェックに始まり、不足分のオーダー、建築資材の購入と搬出、緊急に必要な建築物の工事の進行状況のチェックなどのために、場合によっては一日7時間の悪路の運転を厭わず、駆け回っている。

国立公園保全にとってさらに重要なことは、公園周辺で熱帯林伐採事業を実施している伐採会社と協議を重ねることである。国立公園自体は平穏でも、国立公園に向かう密猟者は、間違いなく、その周辺部の伐採区を通過し、あるいはそこで違法行為が行われる。伐採会社との協力とパトロール強化なしでは、国立公園の保守は不可能なのである。そのための伐採会社との現地での対話もぼくの重要な役割の一つである。

現在進行中のエコガード訓練とほぼ同じ時期に、伐採会社の一つの社長が国立公園を訪問することになった。そのエスコート役としてぼくが任命され、合計5日間、社長ご一行を国立公園へ案内した。すでにツーリストが訪問できる場所として確立されているベリ・バイ(湿地性草原)と、人付けされたゴリラを観察することができるモンディカという場所である。ゴリラだけでなく、マルミミゾウを観察できる機会も得て、ご一行は満足されて帰途に就いた。

伐採会社・社長による野生ニシローランドゴリラ観察©西原智昭撮影

伐採会社・社長による野生ニシローランドゴリラ観察©西原智昭撮影

こうした伐採会社との良好な関係を通じてこそ、国立公園の安泰が確保されるのである。単に、「熱帯林伐採反対」だけでは物事が進まないのが現実である。これまで、世界中の幾多の保全関係のNGOが「象牙反対」と唱えてきたが、論拠もなく単に感情優先で訴えても、象牙目的のゾウの密猟が一向に収まらないとの同じである。目的が同じでも、そこには、科学的資料に基づいた確たる戦略と社会・経済的背景をも取り込んだビジョンが不可欠なのである。

それにしても、国立公園崩壊から防ぐための手段構築のためのめまぐるしい日々とはいえ、久しぶりに多く時間を関わることのできる森はいい。

ここちよい夜気。聞こえるのは虫の音だけ。樹冠の間から光をのぞかせる星たち。そして空高く舞うホタル。人々の話し声はほとんど気ならず、むしろここちよい。この世界をなくしてはいけない。失われてほしくない世界。ぼくのためではない。研究者のためでもない。WCSのためでもない。人類の歴史をはるかに超えたこの総体-そこに書かれた偉大な叙事詩『自然のシナリオ』-のためである。

森の中でお気に入りの時間帯は「暁」である。まだ暗いうちから鳥が鳴き出し、少しあたりが見えるようになるころ、木々からサルの鳴き声が聞こえる。そして、数10メートルもの上の樹冠には、広く靄がかかり、幻想的な雰囲気を醸し出し、その霧の中を通じて、遠く朝日が差し込んでくる。野生生物も含め、森が生きている、と実感できる瞬間である。

ブルックナーはアフリカの熱帯林を見たとは思えないが、こうした熱帯林の光景に出会うたびに、ぼくの頭の中では、ブルックナーの交響曲第7番の第一楽章と第二楽章が巡る。人知を超えたその雄大さと、人間に虐げられてきた自然と野生生物の嘆き、否、そうしたことに関わってきた人間自身の悲しみがそこには表現されていると思われて仕方がない。

しかし、いま「効果的な」手を打たなければ、そうした森が地球上から喪失する日は遠くないであろう。ヌアバレ・ンドキを大切にしたい気持ちはぼくが1989年以来長年関わってきたからだけではない。いま、そうした原生の森で、野生生物の頭数が健全に保持されているような熱帯林は、世界中どこを探してもほとんどないといってよい。そこを失えば、われわれ人類は地球上のきわめて貴重な財産を喪失することになるのだ。いま、その場所を保全するという任務を果たす人材の一人として、日々奔走しているのである。

(続く)

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