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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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新ガイドラインと安保法制で米軍、米国軍事戦略との一体化を深める日本

2016年2月5日

1 2015年4月28日に日米2+2で合意された新ガイドラインは、有事や情勢緊迫時より以前の平時からの日米軍事一体化 を深める内容でした。同盟調整メカニズムを「平時から緊急事態までのあらゆる段階」で機能させること、平時から共同計画策定メカニズムを機能させて、日米の共同作戦計画を策定することを合意しています。この部分が新ガイドラインの「肝」と言うべきところです。

同盟調整メカニズムの中心機構は共同運用調整所です。自衛隊の統合幕僚監部陸・海・空幕僚監部の代表という、自衛隊の文字通りトップと、米太平洋軍司令部在日米軍司令部の代表という、これまた米地域統合軍のトップで構成されています。

太平洋軍司令部が参加するということは、少なくとも太平洋軍が管轄する太平洋~アジア~アフリカ東部海岸までの広大な戦域での,自衛隊と米軍の共同行動を想定しているからと思われます。共同運用調整所の下部には、日米の三軍の代表で構成される軍軍間の調整所も設置されます。これらの調整所は2015年11月に日米の防衛首脳会談で立ち上げが合意され、運用が始まっています。

同盟調整メカニズムと共同計画策定メカニズムについては、防衛省の以下のURLでご覧下さい。

http://www.mod.go.jp/j/approach/anpo/shishin/pdf/ACMandBPM.pdf

2 新ガイドラインの中身は、安保法制により初めて実行可能なものが含まれています。具体的には、集団的自衛権行使、アセット(武器等)防護、戦闘捜索・救難活動への支援、海上阻止活動(臨検)があります。

これらの軍事協力を日米一体として行うために,平素から同盟調整メカニズムを機能させ、軍軍間の調整所も機能させ、平素からこれらの軍事活動を想定した共同訓練を行い、共同作戦計画を策定,更新をするのです。これにより、平時から情勢緊迫、危機、戦時に至る「切れ目のない」日米軍事協力が可能になります。

3 ところで、私が新ガイドライン文書を読んだ際にほとんど理解できていなかったことがありました。「日本に対する武力攻撃への対処行動」の項の中の、「領域横断的な作戦」という言葉です。「日本以外の国に対する武力攻撃への対処」の項ではこの言葉は登場しません。初めて見た作戦概念で、新ガイドラインでも何の説明もありません。私は、「領域横断的な作戦」の意味が分からないまま気になっていました。

最近になって軍事問題研究会から入手した防衛研究所の平成25年度特別研究成果報告書「中国の軍事戦略(A2/ADを中心に)」を読んで,やっとその意味を知りました。

4 この論文の中で、台頭する中国軍の軍事戦略として米国が呼称している「接近拒否、領域拒否戦略」(Anti-Access  Area Denial の頭文字をとってA2/AD)に対抗する米軍の軍事作戦の中の中心概念として「Cross –Domain Operation」(領域横断作戦)が位置づけられていることを知りました。つまり、新ガイドラインで登場する「領域横断的な作戦」とは、万が一の中国との本格的な武力紛争を想定して米軍が作りつつある新しい作戦概念(Air-Sea Battle Conceptとも呼ばれています)の中心概念だったのです。

「領域横断的な作戦」とは,複数の軍種(陸・海・空・海兵)を統合し、これをネットワーク化された戦力として、複数の戦域(陸・海・空・宇宙・サイバー空間)で展開される横断的並行的な作戦と理解しています。

5 ところで新ガイドラインでは、日本に対する武力攻撃の際の日米の防衛分担について、自衛隊が主体的に作戦を実施し、米軍はそれを支援、補完するとされています。ところが「領域横断的な作戦」では、自衛隊と米軍は複数の領域(陸、海、空、宇宙、サイバー空間)で、領域横断的な共同作戦を実施し、複数の領域を横断して同時に効果を達成することを目的にするとされています。これは、新ガイドラインが規定している日本防衛の際の日米両軍の役割や任務(自衛隊が主役で米軍が脇役)とはいささか違うのではないかと思います。

そもそも日本の公式の防衛政策では、日本に対する本格的な武力攻撃は見通せる将来にわたり想定されていないはずです。

他方、「領域横断的な作戦」は、中国との本格的な武力紛争を想定したものです。このことから、新ガイドラインが規定している「領域横断的な作戦」は、米国と中国との本格的な武力紛争が日本に対する武力攻撃へと波及した事態を想定しているのではないかと考えざるを得ません。

6 この様に見てくると、安倍内閣がすすめている自衛隊の増強や、南方防衛、辺野古への新基地建設は「万一の場合の日本の防衛」とは違う姿が見えてきます。安倍内閣は、宮古島と石垣島へ陸自の対空、対艦ミサイル部隊(約500~800人規模)を配備しようとしています。中国海軍と空軍に対する防衛ラインです。

しかし先ほどの「領域横断的な作戦」を踏まえて考えると、これは、米海軍と海上自衛隊、米空軍と航空自衛隊の共同作戦を補完するもので、領域横断的な作戦の一部と考えられます。

また、辺野古への海兵隊の新基地建設は、基地機能の強化と併せて基地の分散の意味もあります。上掲の論文を読めば、米軍が想定している中国軍の「接近拒否、領域拒否戦略」では、中国軍が西太平洋の米軍基地(グアム、嘉手納、三沢基地など)への大量の弾道ミサイルや巡航ミサイルによる先制攻撃が行われることが想定されています。そうすると米軍基地を狭いところへ集中させるのではなく、広大な戦域に分散配備すること、各基地の抗堪性を強化する、攻撃による機能しなくなる基地の代替を多く作っておく等が必要になるはずです。このことから、辺野古への新基地建設は、代替基地としての機能も考えているのではないかと思います。もしそうであれば、私たちの税金から1兆円をかけて作っても、捨て石に過ぎないのかも知れません。米軍とすれば、強化された基地は一つでも多い方が良いはずです。中国軍攻撃に飛び立った爆撃機、戦闘機が、作戦を終えて帰投する空港がなくなり燃料切れで海に落ちるしかないのでは、戦争になりません。

7 新ガイドラインで設置された同盟調整メカニズムや軍軍間の調整所は、中国との本格的な武力紛争を想定して、自衛隊と米軍が統合され、陸・海・空・宇宙・サイバー空間での戦闘がネットワーク化されて横断的,並列的な作戦遂行が出来るようにするためのものであると思われます。

米国は決して中国を軍事的に封じ込めようとしているのではないと表明しています。しかし軍人達は万一の武力紛争に備えて(ヘッジ)、この様なことを考えているのです。その点は中国軍も同じです。米国との武力紛争を起こそうとしているのではありません。しかし不測の事態を常に想定するのが軍人達の常なでしょう。

8 しかし軍人達の想定だけに終わるとの保障はありません。もし中国との武力紛争となれば、中国軍の「接近拒否、領域拒否戦略」とそれに対抗する米軍のAir-Sea Battle Conceptと「領域横断的な作戦」により、私たちに直接戦争被害が及ぶ(捨て石と言った方が良いかも知れません)ことは確実です。

安倍内閣は,安保法制を整備してこの様な軍事戦略を推し進めようとしており、そのことが逆に中国との関係を緊張させ、安全保障環境の厳しさを一層強めることになります。新ガイドラインの実行を担保する安全保障法制の発動をさせない、廃止することは、私たちの平和と安全にとり絶対に必要なことです。

9 最後に、中国の軍事戦略である「接近拒否、領域拒否戦略」がどのようなものか簡単に説明しておきます。中国軍はみずからの軍事戦略を明らかにしておらず、ましてみずからが「接近拒否、領域拒否戦略」と呼称しているのではありません。米軍がそのように定義しているだけです。

「接近拒否、領域拒否戦略」として米国が考えている中国の軍事戦略は、第1列島線(琉球列島からフィリピン、ボルネオに至るライン)と第2列島線(小笠原諸島からグアム・サイパン,ニューギニアに至る線)の間の海域に米軍の進入禁止区域を作ることを目的としています。

「接近拒否」とは、敵対的な戦力が作戦地域に入ることを妨げること、「領域拒否」とは作戦地域における敵対的な戦力の行動の自由を制約することと考えられています。

米国が想定している(あくまでも米国の想定です)中国軍の戦術は、米軍の戦闘ネットワークと前進配備基地(在日米軍基地やグアム、サイパンの基地など)への大規模な先制攻撃から始まるとしています。戦闘ネットワークは、人工衛星やインターネットを利用した情報通信システムや、前進配備されたレーダー・通信基地(日本国内のものが含まれます)でしょう。

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