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“全面委任状”としないために

寄稿:飯室勝彦

2016年7月14日

「本当にこれでよかったのだろうか」―そう思い返している有権者が少なくないのではないか。

参院選の結果、改憲勢力が衆参両院ともに三分の二を超え、改憲発議の現実味がぐんと増した。安倍晋三首相はかねて秋からの国会で改憲条項に関する議論を煮詰めたいと表明していたが、選挙後には早速「わが党の改憲草案をベースに」と言い出した。
半世紀以上も維持されてきた、平和主義、人権尊重を軸とする日本国憲法が反古にされる恐れが生まれ、歴史上の転換点になる可能性が増した。

「押しつけ」といわれなき中傷を浴びせられながらも、憲法は制定から約70年の間、一言一句変わらず国民の間に定着してきた。戦禍を潜り抜けて戦後の復興とその後の繁栄を実現した先人たちが、戦前回帰の志向が強い自民党に「衆参とも三分の二超」という改憲発議の力を与えなかったからだ。

今度の選挙で、有権者は復古調の色彩が濃い自民党の改憲草案を前提にしながら、それでもなお改憲のゴーサインを出したのであろうか。そうとはとても思えない。

「自分の在任中に改憲を成し遂げたい」と言っていた安倍首相は選挙が始まったとたんに憲法については口をつぐんだ。改憲の議論から逃げ、景気、経済対策の宣伝に終始した。そのためなのか毎日新聞のアンケート調査によると、有権者の過半数が参院選のキーワードだった「三分の二」の意味を知らず、投票者が最も意識した政策の最多は「経済・景気対策」で「改憲」は一割だった。

標本が少ないので断定はできないが、相当数の有権者が与党である自民・公明両党の繰り広げたアベノミクスPRに惑わされたことは推測できる。55%弱という低い投票率とともに、ある意味で日本の民主主義の未熟さを物語る数値といえないだろうか。

選挙では黙っていながら、終わると隠していた課題についても「信任を得た」とばかりに強引に突っ走るのが安倍政権の常套手段。こんどもまた特定秘密保護法や安保法制と同じように、改憲に向かって隠し球作戦を実施しようとするだろう。

しかし、当面、選挙戦術としては成功しても、選挙結果は決して有権者からの全面委任ではない。三度目の隠し球を許すほど有権者は寛容ではない。

安倍首相が胸を張って自慢する自民党の改憲草案は、明治憲法以前に戻ったような復古調の条文が並んでいる。根底の発想は何世紀も歴史をさかのぼるような時代錯誤そのものである。

あの草案からは私たちの先輩が幾多の試練を乗り越え、時には血を流して確立した平和の希求、自由、平等など人権尊重という理念への敬意を感じ取れない。草案をつくった人たちの視野があまりにも狭く、歴史や近代の人権思想形成についての学習が決定的に欠けているからである。

21世紀を迎えている現在、このような草案をまともに扱えば世界の笑いものになるのは必定だ。

首相は「秋の臨時国会から両院の憲法審査会でどの条項を改めるか議論を煮詰める」というが、そのこと自体、急いで改憲しなければ対応できない問題がないことを認めているようなものだ。安倍政権はいわば「改憲のための改憲」を目指しているのである。

最終的に目指すのは中国、北朝鮮を念頭に置いての前文と第9条の解体、それに基本的人権の骨抜きであろう。

もちろん改憲勢力と言っても各党の考えにはかなり差があり、発議の実現までには紆余曲折が予想される。しかし「民主主義は多数決」と言い切った首相である。これまでも数の力で自説を押し通してきた。「三分の二超」という力を生かすチャンスを虎視眈々狙っているに違いない。

歴史から学ばず、知的営みの集積に敬意を払わない安倍政治にこのまま流されてゆくのか、それとも理性の力でブレーキをかけることができるのか。日本の民主主義が問われている。

民主主義を守る責任は為政者だけにあるのではない。主権者たる国民の側も政治状況へ積極的に参加し民主主義を支え担ってゆくべきだ。

参政権の行使は選挙で投票して終わりではない。まして「三分の二超」を与えたからには、有権者は政治、行政の動きをこれまで以上に厳しく監視、チェックして暴走させない責任がある。

民主主義を、そして世界に誇れる平和憲法を守り切れるか、決め手となるのは国民の政治意識・姿勢であり、この国で暮らす現在、未来の人々に対する責任の自覚である。

責任を自覚するのに多くの努力はいらない。現行の日本国憲法と自民党の改憲草案を読み比べれば危機感は十分感じ取れるはずだ。

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