NPJ

TWITTER

RSS

トップ  >  NPJ通信  >  NHKに関する裁判の動向

【NPJ通信・連載記事】読切記事

過去の記事へ

NHKに関する裁判の動向

寄稿:斎藤 悠貴(弁護士)

2016年11月16日

「国民が注目するNHKに関する裁判」
2016年10月、テレビ番組をインターネットで同時に配信する「ネット同時放送」について、総務省が2019年にも全面解禁する方針を固めたことが報じられた(2016年10月19日03時01分朝日新聞デジタル参照:http://www.asahi.com/articles/ASJBL6V0HJBLULFA02Q.html)。このニュースは、インターネットを接続できる環境があれば受信料を支払わなければならなくなるのだろうかという不安とともに、国民の重大な関心事となっている。
そんなNHKに関する動向が注目される中、2016年10月26日、1人暮らしの女性が、執拗な取立てがあったと主張してNHK受信料の集金人と集金人が勤務する会社に対して損害賠償を請求している裁判について、東京地方裁判所で判決が言い渡された。私は、この裁判で原告の女性の訴訟代理人を務めている。私が関わったこの裁判以外にも、この数か月の間にNHKに関する興味深い判決がいくつか出されているため、集金人に対する裁判と合わせて本稿でご紹介する。

「ワンセグ裁判とレオパレス裁判」
1つは、2016年8月26日、さいたま地方裁判所において、ワンセグ付きの携帯電話を所有する人がNHK受信料の契約を結ぶ義務があるかどうかについて判決が言い渡された裁判である。裁判長は、携帯電話の所持は放送法上受信契約を締結する義務があると定める受信設備の設置には当たらないと指摘し、受信料の支払義務がないことを認めた。これに対し、NHK広報局は、「ただちに控訴します」とコメントしているが(以上、2016年8月26日19時19分日本経済新聞電子版参照:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG26H7E_W6A820C1000000/)、ワンセグ付きの携帯電話を所有する人に受信料の支払義務がないとなれば、これまでワンセグ付きの携帯電話を所有していることを理由に受信料を支払ってきた人の受信料が返還されるのか、という問題に発展する可能性もあり、影響力が大きい。
もう1つは、テレビが備え付けられたアパートの「レオパレス」に約1か月入居した男性が、NHK受信料の返還を求めた裁判である。東京地方裁判所は、2016年10月27日の判決において、「テレビは入居時点で設置されており、男性は据え付けていない」なとどして、男性との契約は無効であると指摘した。これに対し、NHK広報局は、「契約を締結する義務が居住者側にあることを、引き続き2審で訴えていく」とコメントしている(以上、2016年10月27日00時44分(最終更新10月28日09時17分)毎日新聞ニュースサイト参照:http://mainichi.jp/articles/20161028/k00/00m/040/144000c)。レオパレスが全国展開していることを考慮すれば、入居者との契約が無効とされた場合、全国で同様の訴訟が頻発する可能性もあり、今後の動向を慎重に見守っていく必要がある。

「NHK受信料の集金人に対する損害賠償請求の裁判」
このような中で、2016年10月26日、NHK受信料の集金人に対して損害賠償を請求している裁判の判決が東京地方裁判所で言い渡された。結果は、原告女性の敗訴である。
裁判では、女性と集金人との間でどのようなやりとりがなされたかが争点となった。女性と集金人の言い分は真っ向から対立し、チャイムの数、ノックの数、声の大きさ、会話の内容など、あらゆる面で食い違っていた。これに対し、裁判所は、原告の供述には裏付けが無いなどと述べ、原告の供述は信用できないとして、原告敗訴の判決を下している。
 もっとも、この判決は、集金人に対して行われた尋問の結果を十分に考慮していない点で問題があると考えている。すなわち、今回のように1対1のやりとりが問題となる場合、そのやりとりを録音や録画をしていることは稀であり、何らかの被害に遭ったと主張する者は、尋問の中で相手の主張の矛盾点を突いていくほかない。そして、今回の裁判では、集金人に対する尋問に表れた不自然さ、不合理さを原告が裁判所に訴えているにもかかわらず、そのような原告の指摘には一切触れることなく、原告の主張は信用できないと断じている。特に、双方の言い分が真っ向から対立している場合には、どちらかが嘘をついている可能性が高いのであるから、原告の主張だけでなく、被告の集金人の主張が信用できるかどうかについても十分に検討されるべきではないだろうか。
 1対1のやりとりが問題となった時に、録音や録画がなければ信用されないのであれば、被害に遭ったと主張する者は泣き寝入りするしかなくなってしまう。裁判所には、被害があったと主張する者にとって唯一の武器となり得る尋問の結果に十分に配慮した審理が求められている。
 今回の敗訴判決について記者会見を行った後、私の法律事務所に何件か同様の被害に遭ったことがあるという連絡が届いた。同様の被害にあった人がいることは、女性の主張の裏付けとなり得るものである。もし同じような出来事に遭遇しお悩みの方がいるのであれば、私まで一度ご連絡をいただけたらと思う。
                                        以上

こんな記事もオススメです!

米中露三大軍事大国に囲まれた日本ー「1984年」の全体主義世界における日本の立場 ー*

馬鹿げたウォーゲーム

防衛力抜本強化予算 = 5年間43兆円を上回る軍拡の兆し

国立大学法人法成立 : その先に見える景色と私たちの課題