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【NPJ通信・連載記事】メディア傍見/前澤 猛

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メディア傍見50 <「能弁」「詭弁」「強弁」に酔う安倍首相>

2019年4月4日


 【緒言】4月1日に発表された新元号は「令和」だった。まさかエープリル・フール
 ではあるまいし、と驚いた。と言うのは、今年の書き初めに「仁者天下無敵」(仁が
 あれば天下無敵)と書いた後、「巧言令色鮮矣仁」(巧言やつくろい顔には誠意がな
 い)と書き足していたからだ(いずれも出典は「孟子」)。
  安倍晋三首相の臆面もない能弁・詭弁に辟易していたためで、書道展へも出品す
 る予定だったが、「『令色』は、めでたい『令和』との兼ね合いでまずい」と取り
 下げた。
 
 

「首相、批判かわす3答弁」

 安倍首相の国会での答弁を聞いていると、しばしば不安感に襲われる。本人は「真摯」を連発するし、真面目に議員の質問に答えている風を装っているが、問題の焦点をはぐらかす場合が多い。
 朝日新聞(3月26日朝刊)は「(首相の)答弁姿勢に、3つの特徴が現れている」と、次のように分類した。
  ▽実行を十分に伴わない「大風呂敷」
  ▽聞かれたことに答えず別の主張を強調する「論点ずらし」
  ▽説明不足を認めない「取り繕い」

 言い換えれば、首相は一見、いかなる質問・詰問にも弁舌さわやかに抗弁しているが、そうしたいわゆる能弁は「詭弁」と「強弁」に満ちている。つまり、自信たっぷりな抗弁は正面からの反論ではなく、しばしば焦点をすり替えている。

 先に「メディア傍見49」で、「自衛隊員募集に自治体が協力拒否?」や「安倍首相インタビュー」などの問題を取り上げてみたい、と書いた。今回、改めてこの2点を題材にして、首相の抗弁の当否を検討してみる。

「自衛隊員募集に自治体が協力拒否」?

 まず、安倍首相の「都道府県の6割以上が自衛官募集協力を拒否している」という発言(2019年2月10日、自民党大会)内容の正否について。首相は、そうした「事実」を根拠に「憲法に自衛隊を明記する」という自説の必要性を強調したのだが。
 この時の発言は、新聞各紙の報道によれば次のようだった。

  「自衛隊員の募集は市町村の事務ですが、一部の自治体はその実施を拒否し、受験票の受
  理さえも行っていません。また、防衛大臣からの要請にもかかわらず、都道府県(その後、
  市町村と言い換え)の6割以上から、自衛隊員募集に必要となる所要の協力が得られていま
  せん」

 同じ趣旨の主張は、その前に、国会で次のように表明していた。
  「今なお、自衛隊に対するいわれなき批判や反対運動、自治体による非協力な対応といっ
  た状況があるのも事実です」(2019年1月30日。198回衆院本会議議事録)

 ところが、朝日新聞の「ファクトチェック」(2月13日)の分析によると、実際は9割の自治体が何らかの形で協力しているという。
  「2017年度は…全1741市区町村のうち、紙か電子媒体で提出したのは約36%の632自治
  体」「約53%に当たる931自治体は、自衛官募集のため住民基本台帳の閲覧や書き写し
  を認めている。紙や電子媒体で名簿を提出している自治体と合わせ、9割近くが募集に
  協力していると言える」

 そして、“非協力”とされた背景には「電子媒体で名簿を提出していないのは、『市の個人情報保護条例に照らして提供できない』(福岡市)といった理由もある」と解説している。
 毎日新聞(2月13日)によれば、岩屋防衛相が12日の記者会見で、「約9割の自治体が住民基本台帳の閲覧を認めている」と発言している。

「首相」の詭弁<改憲意見は「総裁」として>

 ところで、この「自衛隊を憲法に明示する」という首相の改憲意欲が浮上したのは、読売新聞の記事からだった。そこでは、「首相」と「自民党総裁」とを使い分ける詭弁を弄した。

 読売新聞は、2017年の憲法記念日にあたる5月3日、朝刊1面に「安倍首相インタビュー」を掲載した。ここで安倍首相は、東京五輪・パラリンピックが行われる2020年を目標に、憲法9条に自衛隊の根拠規定を設けるなどの改正を行いたいとの考えを示した
 ところが、この発言が国会で問題になると、首相は「『首相』としてではなく『自民党総裁』としての発言」だったと強弁した。
 民進党の長妻昭衆院議員から首相の改憲に関する真意を問われた時、次のように述べている。
  ○安倍内閣総理大臣 今、繰り返しになるんですが、私は、ここは内閣総理大臣として立っ
  ており、いわば私が答弁する義務は、内閣総理大臣として義務を負っているわけでござい
  ます。
   自民党総裁としての考え方は相当詳しく読売新聞に書いてありますから、ぜひそれを熟
  読していただいてもいいんだろうと。これは自民党……(発言する者あり)済みません、ちょ
  っと静かに。静かにしていただけないと、これは、今この場で、今答弁の途中であります
  から、ちょっと落ちついていただきたいと思います‥‥‥いわば党総裁としてはそこで述
  べていますから、ぜひ党総裁としての考え方はそこで知っていただきたい。(2017年5月8
  日、第193回国会予算委員会第19号議事録)

 しかし、読売新聞は紙面で「現職の首相としての発言」と記載し、その年の日本新聞協会賞応募(落選)でも「『憲法改正2020年施行 9条に自衛隊明記 安倍首相インタビュー』のスクープ」と明記している(新聞協会報、2017年7月11日号)。
 実は、首相はインタビューの中でも、「10年前、憲法施行60年の節目の年も私は首相だったが、この年に国民投票法が成立し、改正に向けた一歩をしるすことができた」と述べている。それは、首相としての立場を意識した発言にほかならないだろう。
 その後も、安倍首相の詭弁は絶えない。そうした、習い性となったような首相の不誠実な言辞の典型的な例証として、以上二つの事案を取り上げてみた。

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