2010.8.28更新

牛丼すき家 「偽装委託」 「名ばかり管理職」 事件
(賃金等請求事件)
事件名:牛丼すき家 「偽装委託」 「名ばかり管理職」 事件
       (賃金等請求事件)
事件の内容:2005年9月から2006年10月分までの期間の残業代相当額合
        計40万2499円 (内訳、原告福岡淳子・金30万7178円、原告
        A・8万299円、原告B・1万5022円) 及び労基法上114条の付
        加金請求として同額を請求。
        さらに、原告福岡淳子について、店舗の売上金紛失の責任と
        して賠償させた金員56万円の返還を請求。
係属機関:東京地方裁判所民事19部
       事件番号 平成20年(ワ)9092号 裁判長 蓮井→渡辺
2010年8月27日、被告が原告の請求を認諾
紹介者:笹山尚人弁護士
原告弁護団:笹山尚人、大山勇一、佐々木亮
連絡先:首都圏青年ユニオン

【事件の概要】
1 当事者
  原告  福岡淳子他2名
  被告  株式会社ゼンショー

2 請求内容 約136万円のお金を会社が原告らに支払うよう求める。
(内訳)
@ 2005年9月から2006年10月分までの期間の残業代相当額合計40万2499円 (内訳、原告福岡淳子・金30万7178円、原告A・8万299円、原告B・1万5022円)
A 労基法上114条の付加金請求として同額を請求。
B 原告福岡淳子について、店舗の売上金紛失の責任として賠償させた金員56万円の返還を請求。

3 事案の概要
  既に東京都労働委員会の手続きで紹介している 「すき家事件」 の民事訴訟である。

  牛丼屋チェーン店、「すき家」。ここのスタッフはアルバイトの身分なのに、長時間労働を強いられ、しかも残業代を法律通りに支払ってもらえていない。 人件費全体を抑制させ、働いたのに全く賃金が出されないケースもある。お店で金銭が紛失すれば、全て現場のスタッフが肩代わりさせられる。

  時給800円からのスタート。フルタイム働いても、ようやく生活できる程度の賃金しか得られない。まさに現代のワーキング・プアそのものである。

  すき家を経営する株式会社ゼンショーは、スタッフが加盟した首都圏青年ユニオンの運動によって、2006年11月分以降の賃金については、 残業代を法律通りに支払う体制に改めた。しかし、2006年10月分以前の賃金については、是正を行っていない。

  そこで、首都圏青年ユニオン組合員ですき家スタッフの福岡淳子らは、この間、会社と組合を通じて話し合うことを求めてきたが、会社は、話し合いを一切拒否。 この話し合い拒否について救済を求めているのが既に紹介している東京都労働委員会の事件である。

  しかし東京都労働委員会を通じて話し合い協議がうまくいかない状況下で、福岡淳子らの賃金も時効を迎えてしまう。賃金の時効は、2年だからである (労基法115条)。

  そこで、賃金の支払いを行うよう、裁判に訴えたのが本件である。

  なお、この訴えの際、店舗での売上金紛失について、福岡淳子が全ての責任を負わされて賃金から56万円を賠償させられている。 この賠償についても理由がないものとして、あわせて返還を求める訴えを起こした。

  参考:不当労働行為救済申立て事件 (東京都労働委員会)
      法律を守ってよ! 〜「すき家ユニオン」

【手続きの経過】
  2008年4月4日、福岡淳子ら3名は、東京地裁に訴訟を提起した。
  第1回口頭弁論は、5月30日に開催。
  第2回口頭弁論は、7月10日に開催された。この日は、原告の福岡淳子が意見陳述をした。 原告福岡淳子の陳述書

  9月26日の期日では、被告会社が、原告が主張した残業代請求に関する事実の認否を行う予定でした。 ところが、この日にいたっても、会社は認否に関する主張を出しませんでした。 この日に会社が提出したのは、原告らと会社と契約は労働契約ではなく業務委託契約だということ、9月9日通達に照らしても、スウィングマネジャーだった原告は、 管理監督者であって残業代請求できないという書面でした (9月9日通達については、SHOP99事件、 9月24日期日 の報告を参照して下さい)。

  これに対しては、原告は、いつになったら事実の認否を行うのか、また、業務委託契約だと主張するのならその主張の基礎となる事実は何かが不明確ではないか、 ということを指摘しました。裁判所からも、「時給で働く人間が業務委託契約と主張するのはいかがなものか。」 「業務委託契約だということを裏付ける事実が全く出ていない。このような主張をそれでも維持するつもりか。」 と会社側に対する指摘がなされました。

  裁判所が公開の法廷で大きな声でこのような指摘をすることは珍しく、裁判所からみても、会社の主張が異例のものであることがわかります。 会社はそれでもこれらの主張を撤回せず、残業代請求に関する事実の認否を次回までに行うこと、会社の主張をさらに補強する主張を提出するとしましたので、 そのことを確認して終了しました。
 会社の主張の不合理性を、傍聴席に座るみなさんに明らかに出来た法廷だといえます。

  2008年11月14日の期日では、被告会社から、原告らの労働時間の一部について、これを否定する具体的な事実を主張する書面が出されました。 また、原告側からは、会社が、原告らと会社の契約は労働契約ではなく業務委託契約だと主張する点、原告の1人がスウィングマネジャーだった当時は、 「管理監督者」 とする点の会社主張に対し、原告らの就労実態からみれば労働契約としか考えられず会社主張が荒唐無稽であること、 管理監督者の法理論からしても、原告らの仕事の実態からしても、管理監督者たり得ないとの反論の準備書面を提出しました。

  2009年2月27日の期日では、会社から、原告らの労働時間の一部について原告はその時間に就労していないという内容の証拠が提出されました。 具体的には、店舗内のビデオ映像をプリントアウトしたものです。
  しかし、写っているのは店舗内の一部であり、これをもって原告がその時間に店舗内にいなかったことを立証できる証拠ではないため、 この証拠は、原告が残業代を請求する際の就労の証拠として提出している 「デイリー勤怠報告書」 という、 シフトを書き込んでいる書面全体の信頼性を疑うという趣旨の証拠であるということが確認されました。 被告会社からは、会社のこの言い分を述べる準備書面もあわせて提出されています。

  次回は、会社のこの張に対し、原告が反論することが予定されています。
  次回の反論くらいで、双方の主張が出尽くすかなというのが今の印象です。

  参考 「すき家」 未払い残業代事件での
ゼンショーからの刑事告訴についての声明  2009.4.15
首都圏青年ユニオン、同すき家組合員事件弁護団


  4月24日は、原告側が会社側の証拠評価に関わる主張に対し、そのような主張は誤りである旨の指摘の準備書面を提出しました。 また、担当裁判官が、蓮井裁判官から渡辺裁判官に変更になりました。
  交替した渡辺裁判官から新たな問題提起がありました。 それは、原告側が求めている労働時間について、会社側がそれを認めるのか認めないのかはっきりしないというものでした。 そこで段取りとして、原告側が自ら主張する労働時間について、エクセル表で各日の時間について主張表を期日の3週間前までに作成提出し、 会社はそのエクセルデータに認否を○、×などと標記し、次の期日に提出することとなりました。

  6月26日に開かれた期日では、原告側は約束通りエクセル表を提出しましたが、会社側はエクセル表に認否をしてきませんでした。 会社は、原告が時間主張の根拠としている 「デイリー勤怠報告書」 の証拠としての信憑性にこだわり、 この書面を根拠に原告が労働時間を主張するのはおかしいから出さなかったと言いました。 そして、あくまで原告が今の態度を貫くなら、被告としては全部否認と言うしかないと主張しました。 驚くべきことに、会社は、賃金を支払っているにもかかわらず、「原告は全く働いていない」 と主張することになったのです。   裁判所は、では、証拠調べに進みましょうということで話を進め、原告側が次回証人の申請と、証人予定者の陳述書を準備するということになりました。

  7月31日の期日では、原告側は人証申請書(証人尋問の申し出)を行いました。 被告がこれに対し、被告側の人証申請書(証人尋問の申し出)を行うこと、書証の補充を行いたいとのことでそれを行うということになりました。 原告は、証人尋問に向けて陳述書を提出することになりました。

  9月18日の期日では、原告側は原告福岡淳子の陳述書を提出しました。被告側は、反論の主張書面を提出しましたが、書証及び人証申請は行いませんでした。 原告側は早急にこれを行うべしと申し入れました。裁判所から、原告3名の陳述書を全て提出するようにとの申し出があり、原告はそれを了解しました。

  11月6日の期日では、原告側は原告3名の陳述書を提出、被告が9月に出した書面への反論書面を提出しました。 被告側が、原告側の陳述書を見た上で、書証等を提出するすることになりました。

  12月25日の期日では、被告側から、書証及び陳述書(2名分)が提出されました。書証は、原告らが勤務していない証拠だという店舗内の映像写真であり、 その点に対する事実認識を原告に陳述書で補充説明してもらうということになりました。 また、被告は、残る1名について陳述書を提出し、かつ、人証申請書を出すことになりました。 なおこの日は、弁論準備期日(通例法廷以外の場所で行われる手続)でしたが、裁判所が傍聴者の傍聴について否定的な態度を取ったため、 原告側は民事訴訟法に基づき傍聴させて欲しい旨申し入れました。

  2010年1月28日の期日では、被告側から、陳述書(1名分)及び人証申請書が提出されました。 これに基づき、証人尋問を4月23日に行うこと、次回に原告側から最後の陳述書の提出及び尋問時間、順番などを決めることになりました。 この日は、弁論準備手続でしたが傍聴も認められました。

  2010年2月26日の法廷では、原告の陳述書を提出し、証人の採用及び尋問時間の確認を行いました。
  原告側は、原告福岡淳子、会社側は、会社の労務担当社員及び原告らの元上司について尋問を行うことになりました。

  4月23日の期日では、原告福岡淳子及び会社の労務担当者の証人尋問を実施しました。
  原告らと被告が委任関係にはないこと、会社はデイリー勤怠報告書に基づき労働時間を把握していること、 そのデイリー勤怠報告書に原告は虚偽を記載していると会社は主張しながら、その虚偽について懲戒や契約不更新といった対処をせず、 刑事告訴という異常な対応を行っていること、が明らかになりました。 また、原告側が負担させられた損害金についても、原告が負担することの不当性について原告側は詳細に立証しました。

  6月11日期日の内容
  原告らの元上司だったマネージャーの証人尋問が行われました。
  本件の争点の一つである、お店の売上金が紛失した事件の損害を当時スウィングマネージャーだった原告が一人で負わされた事件について、 なにゆえそのような事態が発生したのかについて尋問が為されました。
  証人は、原告の強い希望でそのような事態となったことを証言しましたが、原告側の反対尋問で、お店の売上金が紛失した場合、 従業員がその全額を負担することは通常ないこと、にもかかわらず原告が全額負担するということに対して保険制度を活用することも、 そのような必要もないといった説明もマネージャーが行わなかったこと、特殊な対処だがといった内容になっておらず、 通常そのように取り扱うかのような報告書が提出され、被告代表者もそれを確認して押印しているなどを認める証言をしました。

  原告側は、真実は、従業員に全損害を負担させるやり方が横行しており、そのことを浮き彫りに出来たと評価しています。

  6月11日の期日後、裁判所の提案で、和解期日が設けられましたが、話し合うにいたらず、判決を迎えることになりました。

  ところが、結審日として予定されていた本年9月10日を前に突如、会社が8月26日に原告らの請求額合計994,777円をすべて認諾して、 訴訟は終了した。

【本件訴訟の意義】
  労働者が働いた分の賃金を法律通りもらいたい、という当たり前のことを求める訴訟である。 これ自体は当然のことだが、当然のことが認められていない日本社会では大きな意味がある。

  より重要なのは、会社が支払いを拒絶する理由として持ち出している 「偽装委託」 「名ばかり管理職」 の論点である。
  時間で就労し、マニュアルで拘束される店舗のアルバイト従業員が労働者ではないから労基法の適用はないという主張は、極めて珍しい。 原告らは、原告らが労働者でなかったら、日本中からほとんど労働者がいなくなってしまうと考えている。 「労働者性」 が争われているという意味では重大であり、会社の主張が裁判で認められてしまっては、会社が、「委託契約」 を 「偽装」 することが容認されてしまう。

 また、「名ばかり管理職」 問題である。「管理監督者」 とは、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場において、 同法所定の労働時間等の枠を越えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、 また、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているので、労働時間等に関する規定の適用を除外されても、 上記の基本原則に反するような事態が避けられ、当該労働者の保護に欠けるところがない者」 をいうと解釈されている。 アルバイトの店長が管理監督者であったら、これまた日本中に残業代を支払わなくてもよい労働者があふれてしまう。

  また、労働者が失敗するたびに、その責任を全部取って賠償に応じていては、労働者は安心して働くことが出来ず、生活そのものがなりたたなくなる。

  舞台は 「すき家」 である。これは働く者、誰にでも起こりうる事件なのだ。

  会社の主張を認めず、当たり前の法律の原則を実現して労働者が安心して働くことが可能な条件を切り開く意味で重要な事件である。 ぜひ多くの方にご注目いただきたい。

【首都圏青年ユニオンと顧問弁護団の声明】(抜粋)
  近時、「ワーキングプア」 「格差」 「貧困」 といった問題が起き、このような状況下で苦しむ非正規労働者が多くいることが社会問題化している。 この問題が引き起こされている第一の原因は、企業が労働法令を守らないことにあり、 特に、非正規労働者への賃金未払いや紛失金の強制立替えはめずらしくないといわれている。
  今般の勝利は、 非正規労働者であっても声をあげてたたかうことによって大企業に法律を遵守させることができるという道筋を示したという点で非常に重要である。
  会社は今回の認諾及び中労委命令により、原告らの主張を事実上全面的に認め、かつ団交拒否の違法性が再度明らかになった以上、 原告及び組合、首都圏青年ユニオンの主張に反する労務政策を一切取ってはならない。 私たちは会社に対し、ただちに原告ら組合員への差別的取扱いを中止し謝罪すること、 組合、首都圏青年ユニオンとの団体交渉を開始しすみやかに労使自治のルールを確立するよう強く求める。
  今回の勝利を非正規労働者の権利擁護に活かすよう、私たちはこれからも奮闘する決意である。
文責 笹山 尚人弁護士