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高田健著『2015年安保、総がかり行動
     ―大勢の市民、学生もママたちも学者も街に出た。』 
                       (梨の木舎)

2017年4月3日

                                             評者:星野 正樹

次の世代への「バトン」として

 高田さんの新著「2015年安保、総がかり行動」は、2015年を中心にたたかわれた「戦争法」に反対する運動の「記録」、というより「日録」といった方がぴったりくるような内容になっている(巻末には文字通り2014年から2016年の国会周辺での戦争法反対行動の日程一覧が掲載されている)。
 この本を読むとあの「2015年安保」と呼ばれる運動は、なぜあれほどまでに広範な人々を巻き込んだ大きなうねりとなったのか、それは何かの偶然でもなく、一時の流行でもない、日本の市民社会が変革していく戦後史におけるターニングポイントだった、ということがよくわかる。特に2章と3章は、いままでになかった新しい市民運動が生まれた瞬間についての、歴史的に貴重なドキュメントである。
 2章「2014年6月30日、官邸に人々は集まり始めた」、に描かれている集団的自衛権行使容認の閣議決定以降の国会前を中心としたさまざまな行動についての記述は、高田さんが現場で走りながら書き、書きながら走り抜けた臨場感あふれる筆致と写真や国会前でのいろいろな人のスピーチが豊富に収録されたことで、現場の息づかいや集まった人々の「熱」が伝わってくる。文章の合間から高田さんのシュプレヒコールが聞こえるようだ。
 3章「2015年安保闘争の特徴―総がかり行動―」では総がかり行動実行委員会がどのような議論の上に成立したのか、そこで大切されたことは何なのか、現時点での成果と課題は何かということが詳述されている。さまざまな歴史的経緯のために、いままで統一行動ができなかったグループが違いを乗り越えて共闘に至った経過をあらためて読むと、これまでの運動の歴史を知らない人にとっても、いかにこの「総がかり」というかたちをつくることが重要で大事なものだったのかということがわかりやすく解説されている。「総がかり」という誰もが安心して参加できる枠組みがあったからこそ、SNSやフェイスブック、プラカードなどさまざまなアイディアを駆使して自由に自分を表現できる空間が確保された、そのことによって多くの自立した市民の参加を促すことにつながったということだと思う。あの国会前のエリアは、個人の自由の表現の場でもあったということも言えるのではないか。 
 3章を締めくくる「国際連帯の証としての李泳禧賞」では、総がかり行動が朴 槿恵大統領を退陣に追い込んだ韓国の民衆運動にも影響を与え、民主主義を求める東アジアの人々との連帯につながったこと、今後の課題としてアジアの市民運動の相互の交流もより大事になるだろうことが示唆される。
 この本の中で印象的だったことのひとつは、参加者数についてのデマや警察による不当な弾圧、過剰警備に対しての抗議や申し入れについて、そのときどきの文書も多数収録されるなど非常に丁寧に書かれていることである。この資料性は現在の権力の横暴性なども含め今後の運動を担う人にとっては非常に参考になるし、そこから非暴力の抵抗運動とはどうあるべきかということを考えるヒントにもなるように思う。
 確かに戦争法は「成立」してしまった。しかし、総がかり行動の種は全国各地に飛び散ってそれぞれの独自の運動にアレンジされ、今日もどこかで「19日行動」「自衛隊の南スーダン撤退」、「共謀罪反対」「森友学園の真相究明」など、さまざまな課題についての集会やデモが「普通に」行われ、そこに「普通の」人がひとりでも参加している。この「誰でも普通にデモに参加することが当たり前になった」ことが、「2015年安保」のひとつの大きな成果ではないだろうか。
 最終章である7章「これから―野党+市民運動の共闘、この道しかない」にあるように市民運動はもう「総がかり行動以前」と「総がかり行動以後」にはっきりと分かれた。もう「総がかり行動以前」には戻れないし戻ってはいけない。その上でこれからさらに運動を発展させ、大きくしていくために何が必要なのか。その重要な「財産」がこの一冊に詰まっている。この本は、これから新しい道を切り開き運動を前進させようと考える全ての人にとって、何度も立ち戻り、何度も参照される指針として、運動の「北極星」のようなものとして読まれるだろう。
 そしてわたしにとっては高田さんからの「物事の当事者であれ、傍観者になるな」というメッセージを伴った重いバトンを渡された、そんな気持ちでいっぱいである。
 
 
2015年安保~総がかり行動2-min

     高田健著「2015年安保、総がかり行動―大勢の市民、学生もママたちも学者も街に出た。」(梨の木舎)
                                   A5判188頁(カラー16頁)1800円+税

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