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【速報】川内原発稼働等差止仮処分申立事件の却下決定要旨全文を掲載します

2015年4月22日

平成26年(ヨ)第36号 川内原発稼働等差止仮処分申立事件

決定要旨

1 事案の骨子と結論

本件は、債権者ら(川内原子力発電所から250㎞圏内に在住する住民12名)が、債務者(九州電力株式会社)に対し、人格権に基づき、債務者が設置している川内原子力発電所1号機及び2号機(本件原子炉施設)の運転差止めを命ずる仮処分命令を申し立てた事案であるところ、本決定は、債権者らの申立てには理由がないとして、これを却下するものである。

2 本件申立てについての司法審査の在り方について

原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原発運転差止仮処分における裁判所の審理・判断は、福島第一原発における事故の経験を考慮した最新の科学的知見及び原子力規制委員会が作成した安全目標(セシウム137の放出量が100TBqを超えるような事故の発生頻度を10-6/年程度を超えないように抑制する。)に照らし、同委員会が策定した新規制基準の内容及び同委員会が示した当該原子炉施設に係る新規制基準への適合性判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきである。この安全目標が達成される場合には、健康被害につながる程度の放射性物質の放出を伴うような重大事故発生の危険陛を社会通念上無視し得る程度に小さなものに保つことができると考えられる。

そして、まずは債務者の側において、新規制基準の内容及び原子力規制委員会による新規制基準への適合性判断に不合理な点のないことを相当の根拠を示し、かつ、必要な資料を提出して主張疎明する必要があり、債務者がその主張疎明を尽くさない場合には、本件原子炉施設の安全性が確保されず、健康被害につながる程度の放射性物質の放出を伴うような重大事故を引き起こす危険性があることが事実上推認される。債務者が上記の主張疎明を尽くした場合、本件仮処分命令が認められるためには、本来的に主張疎明責任を負う債権者らにおいて、本件原子炉施設の安全性に欠ける点があり、債権者らの生命、身体等の人格的利益の侵害又はそのおそれがあることについて、主張疎明をしなければならない。

3 地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性について

(1)新規制基準の合理性

ア 新規制基準は、国内外の最新の研究成果や調査結果等を踏まえド多数の専門家によって構成される合議体において、相当期間・多数回にわたる検討・審議を行った上、一般からの意見募集とその検討を経て、専門的知見を有する原子力規制委員会によって策定されたものであり、その策定に至るまでの調査審議や判断過程に看過し難い過誤や欠落があると認められないから、福島第一原発における事故の経験等をも考慮した最新の科学的知見及び安全目標に照らし、その内容に不合理な点は認められない。

イ 新規制基準では、基準地震動(施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動)として、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」をそれぞれ策定することが求められている。債権者らは、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定に用いられる手法が既往地震の観測記録を基礎とする平均像を用いたものとなっている点を問題視するところ、地震発生のメカニズムについての知見(その地域ごとに発生する地震の様式、規模、頻度等に一定の傾向が認められる。)等に照らせば、このような地域的な傾向を考慮して平均像を用いた検討を行うことは相当であり、平均像の利用自体が新規制基準の不合理性を基礎付けることにはならない。

平均像を導くための基礎データの中に平均像から大きくかい離した既往地震が含まれるとしても、その地域的な特性(震源特性、伝播経路特性、敷地地盤の特性)が本件敷地と大きく異なるのであれば、その既往地震を考慮しなくても不合理とはいえない。

ウ 日本の原子力発電所においては、過去10年間でその当時の基準地震動を超過した地震が四つ(5ケース)発生していることが認められるが、新規制基準においては、これらの基準地震動超過地震が生じた原因とされる地域的な特性を基準地震動の策定に当たって考慮できるようにその手法が高度化されているから、これらの基準地震動超過地震の存在が新規制基準の不合理性を直ちに基礎付けるものではない。

(2)新規制基準への適合性判断の合理性

ア 原子力規制委員会は、本件原子炉施設に係る発電用原子炉の設置変更許可に際し、その耐震安全性について、債務者の実施した地震・地質等の調査やこれに基づく基準地震動の策定、耐震設計方針が薪規制基準に適合したものであると認める判断を示し、川内1号機については、工事計画の認可により耐震設計に係る新規制基準等への適合性を認め、川内2号機についても、工事計画認可申請についての審査が行われている。

上記の原子力規制委員会による新規制基準への適合性判断は、専門的知見等を有する原子力規制委員会により、債務者からの多数回にわたるヒアリングや、一般からの意見募集及びそこで提出された意見の検討を経て示されたものであり、その調査審議は厳格かつ詳細に行われたものと評価できるから、福島第一原発における事故の経験等をも考慮した最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められないというべきである。また、川内2号機に係る耐震設計については、原子力規制委員会による新規制基準等への適合性判断は未だ示されていないものの、その方針については新規制基準への適合性が認められており、現在継続中の工事計画認可申請に係る調査審議についても、その過程に不合理な点があるとは認められない。

イ 債務者は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定に当たって震源モデルを構築しているが、それに先立って、本件敷地周辺海域において、相当綿密に測線を設定した海上音波探査や重力異常に関する調査を実施して活断層の連続性を慎重に確認したものと認められる。

債務者は、これらの調査結果を基に、本件敷地周辺の地域的特性を踏まえて想定すべき最大限の断層面積や応力降下量等を設定し、各種の「不確かさ」を考慮して震源モデルを構築し、これに基づき断層モデルを用いた手法による地震動評価を行った結果、原子炉施設の耐震性能に最も影響する地震動評価値(短周期レベルA)で見ると、断層面積や応力降下量等の想定値を最大限にして算出される地震動より更に約1、8~2.0倍の余裕が確保されていると認められる。本件敷地周辺の活断層の性質及び内陸地殻内地震に関する知見等を考慮すると、本件敷地周辺で発生する地震の地域的な特性として地震動が平均よりも相当程度小さくなる傾向があると評価でき、このことは債務者の行った各種の地震動評価と整合する。その上で、応答スペクトルに基づく手法による地震動評価においても平均像や地震観測記録等から導かれる地震動に対して一定の余裕が確保されている。

ウ 債務者は「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の評価に際して海洋プレート内地震を検討用地震として選定していないが、これは本件敷地周辺で発生し得る海洋プレート内地震の震源位置から本件敷地までの距離が十分離れているため、その地震の揺れにより本件原子炉施設に被害が発生することはないものと評価したことによる。このような債務者の海洋プレート内地震に関する評価は最近の地震学の知見に照らしても相当なものであり、新規制基準への適合性を認めた原子力規制委員会の判断に不合理な点はない。

エ 債務者は、「震源を特定せず策定する地震動」の策定に当たって、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(地震ガイド)に例示された16地震の観測記録の中で精度の高い地盤情報が得られている留萌支庁南部地震のK-NET港町観測点(本件観測点)における観測記録のみを検討している。地震ガイドでは、「震源を特定せず策定する地震動」に関し、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内の地震について得られた震源近傍における観測記録に基づいて評価することが求められているところ、現時点においては、他の観測記録に関して高精度の地盤情報等が備わっていないことなどに鑑みれば、債務者による地震動評価は現時点における最新の知見に基づくものとみることができる。

なお、債務者は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動の検討過程で、本件敷地周辺で発生し得る地震について十分安全側に立った評価が尽くされているから、「震源を特定せず策定する地震動」は本来生じ得ないものであるが耐震安全上の観点から念のために付け加える位置付けにあると主張するが、新規制基準及び地震ガイドの趣旨・文言、これらが策定されるまでの議論状況等に鑑みれば、「震源を特定せず策定する地震動が債務者の主張するような位置付けであると解することはできない。したがって、債務者においては、検討対象とした観測記録以外の地盤情報に関して新たな知見が得られるなどした場合には、これらの観測記録に基づいて「震源を特定せず策定する地震動の評価を実施すべきである。

オ 本件原子炉施設の耐震設計においては、その際に用いられる評価基準値が実際に建物等が壊れる限界値との関係で十分な余裕が確保されている上、実際の設計段階でも評価基準値に対して上限とならないように工学的な判断に基づく余裕が確保されており、さらには放射線に対する遮へいの要求等から建物の壁がより厚く設計されるなど、耐震以外の要求からも耐震安全上の余裕が付加されていることなどが認められる。これらの耐震安全上の余裕があることについては、原子力安全基盤機構が実施した耐震実証実験の結果やストレステストの結果等からも裏付けられている。

力 債務者は、本件原子炉施設に係る安全確保対策として、従来からの多重防護の考え方に基づく設計に加え、新規制基準に従い、重大事故が発生し得ることを前提とする安全対策(シビアアクシデント対策)として、保安設備の追加配備等の対策を行っている。これらの安全対策によっても地震に起因する事故により放射性物質が外部環境に放出されることを相当程度防ぐことができるというべきである。

キ 本件原子炉施設について、確率論的安全評価によって算定された基準地震動の年超過確率が104/年~105/年程度とされている。また、厳しい重大事故を選定して環境に放出されるセシウム137の放出量を解析したところ、7日間に約5.6TBq(事故発生後100日間では約6.3TBq)との結果が得られている。加えて、前記オの耐震安全上の余裕が確保され、前記力の安全確保対策が施されていることを考慮すれば、安全目標が求める安全性の値を考慮しても、本件原子炉施設に係る基準地震動の策定及び耐震安全性の評価に不合理な点があるとはいえない。

(3)債権者らの主張について

債権者らは、本件原子炉施設には大規模な地震が発生した場合の「冷やす」機能及び「閉じ込める」機能の維持について重大な欠陥があるとして、債権者らの人格的利益が侵害される具体的危険性がある旨主張するが、このような欠陥により事故の発生が避けられないと認めるに足りる的確な疎明はないといわざるを得ない。

4 火山事象により本件原子炉施設が影響を受ける可能性について

(1)新規制基準の合理性について

前記3(1)と同様に、原子力規制委員会が策定した新規制基準の内容に不合理な点は認められない。なお、原子力規制委員会は、その策定に際し、火山学の専門家からも助言等を受けていることが認められる。

「原子力発電所の火山影響評価ガイド1が検討対象火山について火山活動のモニタリングと兆候把握時の対応を条件付けている点に関しては、当該火山について火砕流等の火山事象の影響を受ける可能性が十分小さいと評価されたことを前提に、その可能性が十分に小さいことを継続的に確認することを目的とするものであることなどを考慮すれば、これらの定めが火山学の知見に照らしても不合理なものとまではいえない。

(2)新規制基準への適合性判断の合理性について

債務者は、新規制基準に従って、各種調査を実施した上で、火山事象により本件原子炉施設が受ける影響を評価していることが認められ、その評価は火山学の知見により一定程度裏付けられている。その上で、原子力規制委員会は、本件原子炉施設に係る火山事象の影響評価についても、火山学の専門家の関与・協力も得ながら厳格かつ詳細な調査審議を行ったものと評価できるから、新規制基準への適合性判断は福島第一原発における事故の経験等をも考慮した最新の科学的知見に照らしても、不合理な点は認められない。

これに対し、カルデラ火山の破局的噴火の活動可能性が十分に小さいとはいえないと考える火山学者も一定数存在するが、火山学会の多数を占めるものとまでは認められない。また、そのように考える火山学者においても、破局的噴火の頻度が小さいものであるとの認識は共通しており、そうした火山学者の指摘は、破局的噴火については観測例が存在せず、その実体や機序が不明で噴火を予知することも困難と考えることなどから破局的噴火の活動可能性を否定できないとする趣旨とみるべきである。

5 本件避難計画等の実効性について

本件原子炉施設周辺の地方公共団体が策定した避難計画を含む緊急時対応(本件避難計画等)においては、本件原子炉施設に発生した事象ごとに、本件原子炉施設からの距離に応じて区分された三つの地域(5㎞圏内、5~30㎞圏及び30㎞、圏外)に応じて採るべき避難行動が具体的に定められており、あらかじめ計画していた避難先施設が放射性物質の拡散状況等で使用できない場合には「原子力防災・避難施設等調整システム」により避難先を調整する方策等も定められている上、放射線防護資機材等の備蓄、緊急時の放射線量等の測定方策、安定ヨウ素剤の投与等についても、その方策が具体的に定められている。これらによれば、本件避難計画等は、現時点において一応の合理性、実効性を備えているものと認められる。

6 まとめ

以上のとおり、債権者らが本件原子炉施設の運転に当たって具体的危険性があると主張する点を検討しても、債権者らの人格権が侵害され又はそのおそれがあると認めることはできないから、本件仮処分命令の申立てには理由がない。

※ ぜひ、あわせてお読みください

高浜原発再稼働差止め仮処分福井地裁決定要旨全文 http://www.news-pj.net/diary/18984

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