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【速報】高浜原発再稼働差止め仮処分を取消し
福井地裁決定要旨を掲載します

2015年12月24日

関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の再稼働差し止めを命じた福井地方裁判所(地裁)の仮処分決定を不服とし、関電が申し立てた異議について、福井地裁(林潤裁判長)は2015年12月24日、異議を認め、仮処分決定を取り消した。以下、同決定の要旨を掲載する。

 

再稼働差し止めを命じていた仮処分決定はこちら → http://www.news-pj.net/diary/18984

 

平成27年(モ)第38号保全異議申立事件

決定要旨

1 事案の概要

本件は,債務者(関西電力株式会社)の設置する高浜発電所3号機及び4号機(以下「本件原発」という。)から250km圏内に居住する債権者らが,債務者に対し,人格権に基づく妨害予防請求として,本件原発の運転差止めを命じる仮処分の申立てをし,当裁判所が平成27年4月14日に上記申立てを認容する原決定をしたのに対し,債務者が保全異議の申立てをし,原決定の取消しを求めていた事案であり,本決定は,債務者の上記異議申立てを認め,原決定を取り消し,債権者らの申立てをいずれも却下するものである。

2 司法審査の在り方

原子炉施設の安全性の判断には,多方面にわたる極めて高度な最新の科学的,専門技術的知見に基づく総合判断が求められるところ,いわゆる新規制基準の趣旨は,専門性・独立性が確保された原子力規制委員会(以下「規制委員会」という。)において十分な審査を行わせることで,原子力利用における安全の確保を徹底することにあるものと解されるから,裁判所は,新規制基準の内容及び規制委員会の基準適合性判断に不合理な点があるか否かという観点から,原子炉施設の安全性を審理・判断するのが相当であるが,原子炉施設に関する知見等は専ら債務者側が保持していることなどを考慮すると,債務者において,新規制基準の内容及び規制委員会の基準適合性判断に不合理な点がないことの主張疎明を尽くさない場合には,周辺住民の人格権が侵害される具体的危険があることが事実上推認されるというべきである。

そして,原子炉施設に絶対的安全性を想定することはできないが,福島原発事故等の被害の甚大さや深刻さを踏まえれば,裁判所は,福島原発事故の経験等も踏まえた現在の科学技術水準に照らし,原子炉施設の危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されているか否かという観点から,あくまでも厳格に審理・判断すべきである。

3 基準地震動の合理性について

新規制基準では,基準地震動(施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動)の策定に当たり,複数の手法を併用し,最新の科学的・技術的知見を踏まえ,不確かさを適切に考慮して評価をすることが求められるとともに,これを規制委員会において専門的・技術的知見に基づき中立公正な立場で個別的かつ具体的に審査する枠組みが採用されているところであり,その内容は合理的である。

また,債務者は,詳細な地盤構造等の調査を行った上で,信頼性の高い計算手法を用い,かつ,断層の長さや深さを始めとする各種パラメータ等を保守的に設定することで,国際水準に照らしても保守的な評価を行っているから,債務者が新規制基準下で策定した本件原発の基準地震動(以下「本件基準地震動」という。)が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点はない。なお,債務者の用いた計算手法自体は平均的な地震動を求めるものであるが,債務者は計算の前提となる各種パラメータを十分に保守的な設定としていること,本件原発敷地には硬質な岩盤が均質に広がっており地震動の増幅要因は認められていないことなどを考慮すれば,上記計算手法を用いた債務者の評価を不合理ということはできない。

4 耐震安全性の相当性

新規制基準では,原子炉施設の安全性確保に重要な役割を果たす施設等(以下「耐震重要施設」という。)と安全性確保に不可欠とはいえない施設等(主給水ポンプや外部電源等)の耐震重要度が区別されているが,前者の耐震重要度をSクラスとすることで高度の耐震安全性を確保し,もって原子力発電所全体の安全性の確保を図っている。この新規制基準の基本的な考え方及び内容には十分な合理性がある。

また,債務者は,耐震重要施設の本件基準地震動に対する安全性を保守的に評価するとともに,全交流電源喪失のような厳しい事象を想定した安全対策や,福島原発事故を踏まえて本件基準地震動に対応する耐震補強工事等を実施するなどしており,本件原発の耐震安全性は本件基準地震動に対して相応の余裕を有しているといえるから,これを新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点はない。

5 使用済燃料の危険性

新規制基準では,使用済燃料を冷却する施設の耐震重要度分類がBクラスとされているが,代替的注水・冷却手段に高度の耐震安全性を要求することで使用済燃料の安全性を確保している。このような新規制基準の規制内容には十分な合理性がある。

また,債務者は,使用済燃料を冷却する施設を含め,使用済燃料ピット(貯蔵プール)の安全性を確保する施設等の本件基準地震動に対する耐震安全性を確保するとともに,多様な代替的注水・冷却手段を整備しているから,使用済燃料ピットの安全性が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点はない。

なお,債権者らは,竜巻及びテロ等の危険に対し,原子炉格納容器のような堅固な施設によって使用済燃料ピットの防御を固めるべきと主張するが,債務者は,我が国に発生した過去最大の竜巻を想定し,余裕を持たせた安全性評価を行うとともに,竜巻による飛来物への対策等も講じでいること,テロ等による大規模損壊については,放射性物質の放出低減を最優先に考えた対策及び手順の整備等を行っていること,本件原発が具体的にテロ等の標的になっていることもうかがわれないこと等に照らせば,竜巻及びテロ等の危険性を考慮しても,規制委員会の判断の合理性は左右されない。

6 地震以外の外部事象の危険性

債権者らは,地震以外の外部事象として,津波,深層崩壊及び土砂災害の危険性を主張する。

しかし,津波については,最新の科学的・技術的知見に裏付けられた基準津波(供用中の施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波)の策定と耐津波安全性の確保を求めた上で,これを規制委員会が専門的・技術的知見に基づき中立公正な立場で個別的かつ具体的に審査するという新規制基準の内容に不合理な点はない。また,債務者は,文献や堆積物調査によって過去の津波を調査した上で,保守的な計算によって基準津波を策定し,その高さを上回る防潮ゲートや防潮堤の設置等の浸水対策を実施しているから,本件原発の基準津波及び耐津波設計方針が新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点はない。

その他の外部事象(深層崩壊及び土砂災害)についても,新規制基準の規制内容に不合理な点は認められず,また,本件原発の敷地周辺の立地条件や自然環境,重大事故対策に必要な設備の配備状況等に照らせば,土砂災害の危険に関する債務者の対策を新規制基準に適合するとした規制委員会の判断に不合理な点はない。なお,深層崩壊の具体的危険性を示す的確な疎明資料はない。

7 安全性確保に関するその他の問題

債権者らは,安全性確保に関するその他の問題として,施設の老朽化,格納容器再循環サンプスクリーン(ろ過装置)の閉塞,計装設備の不備,免震重要棟の不存在による危険性を主張するが,債務者の実施する高経年化対策等の内容や耐震構造を有する緊急時対策所の存在等に照らせば,債権者らが主張する危険性を考慮しても,本件原発の安全性に関する規制委員会の判断の合理性は左右されない。

8 その余の主張等

以上によれば,核燃料の損傷・溶融に結び付く危険性が社会通念上無視し得る程度にまで管理されているか否かという観点からみても,債務者において,新規制基準の内容及び規制委員会の基準適合性判断に不合理な点がないことについて主張疎明を尽くしたと認められ,本件原発の安全性に欠ける点があるとはいえない。したがって,その余の債権者らの主張(核燃料の損傷・溶融が生じた後の対応等)を判断するまでもなく,債権者らの人格権が侵害される具体的危険があると推認することはできない。

なお,新規制基準に合理性が認められるのは,原子力事業者に対し,常に最新の多方面かつ高度な科学的・技術的知見に基づく安全性の確保を求めるとともに,規制委員会において,専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して安全性を審査するという法の趣旨に則った枠組みが機能することが前提である。法の趣旨にもとるような運用がされれば,新規制基準の合理性はその基礎を失うのであるから,債務者及び規制委員会においては,福島原発事故に対する深い反省と絶対的安全性は存在しない(いわゆる「安全神話」に陥らない)という真摯な姿勢の下,常に最新の科学的・技術的知見を反映し,高いレベルの安全性を目指す努力が継続されることが望まれる。また,本件原発において絶対的安全性が想定できない以上,過酷事故が起こる可能性が全く否定されるものではないのであり,万が一過酷事故が発生した揚合に備え,避難計画等を含めた重層的な対策を講じておくことが極めて重要であることは論を待たない。

したがって,債務者,国及び関係自治体は,より実効性のある対策を講じるように努力を継続することが求められることは当然である。

9 結論

以上のとおり,債権者らの人格権が侵害される具体的危険があると推認することはできず,債権者らによる主張疎明その他本件に現れた一切の事情を考慮しても,債権者らの人格権が侵害される具体的危険を認めるには足りないから,債権者らの申立ては,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。

平成27年12月24日

福井地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官 林   潤

裁判官    山口 敦士

裁判官    中村 修輔

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