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川内原発稼働等差止仮処分即時抗告審
福岡高裁宮崎支部決定要旨を掲載します

2016年4月8日

平成27年(ラ)第38号 川内原発稼働等差上仮処分申立却下決定に対する即時抗告事件

(原審・鹿児島地方裁判所平成26年(ヨ)第36号)

決 定 要 旨

第1 主文

1 抗告人らの本件抗告をいずれも棄却する。

2 抗告費用は抗告人らの負担とする。

第2 事案の概要と本件の争点

1 本件は、抗告人らが、人格権に基づく差止請求権を被保全権利として、相手方(九州電力株式会社)が設置、運転している川内原子力発電所1号機及び2号機(以下「本件原子炉施設」という。)の運転の差止めを命じる仮処分命令を申し立てた事案であり、原審は、上記被保全権利の疎明がないとして、抗告人らの本件仮処分命令の申車てをいずれも却下したことから、これを不服として抗告人らが即時抗告をしたものである。

2 本件における争点は、①本件申立てについての司法審査の在り方(争点1)、②地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点2)、③火山事象により本件原子炉施設が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点3)、④その他の事象により本件原子炉施設が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点4)、⑤本件原子炉施設の周辺の地方公共団体が策定した避難計画等(以下「本件避難計画等」という。)の実効性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点5)、⑥保全の必要性(争点6)、⑦担保金の額(争点7)である。

第3 当裁判所の判断

1 本件申立てについての司法審査の在り方(争点1)について

(1)人の生命、身体は、それ自体が極めて重大な保護法益であり、このような人格権は、物権の場合と同様に、排他性を有する権利というべきであるから、人は、上記人格権が違法に侵害されるおそれがある場合には、将来生ずべき違法な侵害行為を排除するため、当該侵害行為の差止めを求めることができる。本件申立てに係る被保全権利は、抗告人らの生命、身体に係る人格権に基づく妨害予防請求として、相手方に対し、本件原子炉施設の運転の差止めを求めるものと解される。そして、抗告人らが主張する差止請求に係る被侵害利益が生命、身体という各人の人格に本質的な価値に係るものであり、本件原子炉施設の安全性の欠如に起因する放射線被曝という侵害行為の態様、当該侵害行為によって受ける抗告人らの被害の重大さ及び深刻さに鑑みると、人格権に基づく妨害予防請求としての本件原子炉施設の運転の差止請求が認められるためには、本件原子炉施設が安全性に欠けるところがあり、その運転に起因する放射線被曝により、抗告人らの生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在することをもつて足りると解すべきである。

もっとも、どのような事象が生じても発電用原子炉施設から放射性物質が周辺の環境に放出されることのない安全性を確保することは、少なくとも現在の科学技術水準をもってしては不可能であるから、人格権に基づく妨害予防請求としての発電用原子炉施設の運転等の差上請求においても、当該発電用原子炉施設が確保すべき安全性については、我が国の社会がどの程度の水準のものであれば容認するか、換言すれば、どの程度の危険性であれば容認するかという観点、すなわち社会通念を基準として判断するほかはない。

(2)福島第一原子力発電所における事故(以下「福島第一原発事故」という。)後に行われた平成24年法律第47号による核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「原子炉等規帝J法」という。)の改正(以下「本件改正」という。)は、福島第一原発事故の深い反省に立ち、その教訓をいかしてそのような事故を二度と起こさないようにするとともに、我が国の原子力の安全に関する行政に対する損なわれた信頼を回復し、当該行政の機能の強化を図るため、原子炉等規制法において、最新の科学的技術的知見を規制に反映し、これを踏まえた基準に許可等済みの発電用原子炉施設等を適用させる制度(バックフィット制度)を導入し、事故の発生防止はもとより、万一炉心の著しい損傷その他の重大な事故が起きても放射性物質が異常な水準で外へ放出されるような事態に進展しないように多様かつ重層的な対策を要求するなどの重大事故対策を強化し、運転期間の制限等を行うなど、発電用原子炉施設等の安全規制体制を強化するとともに、規制と利用の分離を徹底し、規制の任に当たる組織(原子力規制委員会)の独立性を確保し、もって、いわゆる安全神話に陥ることなくその専門技術的知見に基づいてその規制権限を行使することができるようにする趣旨のものと解される。

その趣旨からすれば、本件改正後の原子炉等規制法は、福島第一原発事故の教訓等に鑑み、発電用原子炉施設等の安全規制に最新の知見を反映させ、発電用原子炉施設が常に最新の科学的技術的知見を踏まえた基準に適合することを求めるとともに、科学的、技術的手法の限界を踏まえて、想定外の事象が発生して発電用原子炉施設の健全性が損なわれる事態が生じたとしても放射性物質が周辺環境に放出されるような重大事故が生じないよう、重大事故対策の強化を求めるものであると解される。このような本件改正後の原子炉等規制法の規制の目的及び趣旨からすれば、原子炉等規制法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものと解されるのであって、同法1条にいう「大規模な自然災害」についても上記のような趣旨に解される。そして、このような本件改正後の原子炉等規制法の規制の在り方には、我が国の自然災害に対する原子炉施設等の安全性についての社会通念が反映しているということができる。

福島第一原発事故の経験を経た後の我が国において発電用原子炉施設の安全性の確保について上記のような立法政策がとられたことにも鑑みると、発電用原子炉施設の安全性が確保されないときにもたらされる災害がいかに重大かつ深刻なものであるとしても、抗告人らが主張するような発電用原子炉施設について最新の科学的、技術的知見を踏まえた合理的な予測を超えた水準での絶対的な安全性に準じる安全性の確保を求めることが社会通念になっているということはできず、また、極めてまれではあるが発生すると発電用原子炉施設について想定される原子力災害をはるかに上回る規模及び態様の被害をもたらすような自然災害を含めて、およそあらゆる自然災害についてその発生可能性が零ないし限りなく零に近くならない限り安全確保の上でこれを想定すべきであるとの社会通念が確立しているということもできないのであり、原子力利用に関する現行法制度の下において上記のような立法政策が採用されていると解すべき根拠も見いだせない。そして、発電用原子炉施設が現在の科学技術水準に照らし客観的にみて上記のような安全性に欠けるものである場合には、当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、放射線被曝により人の生命、身体に重大な被害を与える具体的危険が存在するものと解すべきである。

(3)人格権に基づく妨害予防請求として発電用原子炉施設の運転等の差止めを求める訴訟や保全処分においては、原告(債権者)が、当該発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあり、その運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝によりその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在することについての主張、立証(疎明)責任を負うべきであるが、当該発電用原子炉施設を設置、運転等する主体としての事業者である被告(債務者)は、発電用原子炉施設の安全性に関する専門技術的知見及び資料を十分に保持しているのが通常であること、他方で、発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に欠け、放射性物質が周辺の環境に放出される事故が起こったときには、当該発電用原子炉施設に近い住民ほど放射線被曝による被害を受ける蓋然性が高く、しかも、その被害の程度はより直接的かつ重大なものとなると想定されるのに対し、当該発電用原子炉施設からはるかに遠く離れた地域の住民は、通常は、その健康の維持に悪影響を及ぼす程度の量の放射線に被曝する可能性はほとんどないか著しく小さいものと想定されることに鑑みると、人格権に基づく妨害予防請求として発電用原子炉施設の運転等の差止めを求める訴訟(保全処分)において、当該訴訟の原告(債権者)が当該発電用原子炉施設の安全性の欠如に起因して生じる放射性物質が周辺の環境に放出されるような事故によってその生命、身体に直接釣かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住等する者である場合には、当該発電用原子炉施設の設置、運転等の主体である被告(債務者)事業者の側において、まず、当該発電用原子炉施設の運転等(稼働)によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により原告(債権者)ら当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことについて、相当の根拠、資料に基づき、主張、立証(疎明)する必要があり、被告(債務者)事業者が、この主張、立証(疎明)を尽くさない場合には上記の具体的危険が存在することが事実上推定されるものというべきである。

これに対し、当該訴訟(保全処分)の原告(債権者)が少なくとも上記の地域から遠く離れた地域に居住等する者である場合には、原告(債権者)において、当該発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に重大な欠陥等があり、その運転等によって放射性物質が異常な規模で周辺環境に放出されるなど、その放射線被曝によりそのような地域に居住等する当該原告(債権者〕の生命、身体にまで直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在することを主張、立証(疎明)すべきである。

そして、発電用原子炉施設の設置及び運転等についての法規制からすれば、上記訴訟(保全処分)における被告(債務者)事業者は、前記の具体的危険が存在しないことについての主張、立証(疎明)において、その設置、運転等する発電用原子炉施設が原子力規制委員会において用いられている具体的な審査基準に適合するものであることを主張、立証(疎明)の対象とすることができ、その審査基準に適合する旨の判断が原子力規制委員会により示されている場合には、具体的な審査基準の設定及び当該審査基準適合性についての判断が、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づくものである上、原子力規制委員会が原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから任命される委員長及び委員により構成され、委員長及び委員は専門的知見に基づく中立公正な立場で独立して職権を行使することとされていることにも鑑みると、被告(債務者)事業者は、当該具体的審査基準に不合理な点のないこと及び当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないことないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証(疎明)すれば足りるというべきであり、被告(債務者)事業者が上記の点について自ら必要な主張、立証(疎明)を尽くさず、又は原告(債権者)の主張、立証(疎明)(いわゆる反証)の結果として被告(債務者)の上記立証(疎明)が尽くされない場合には、原子力規制委員会において用いられている具体的審套基準に不合理な点があり、又は当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があることないしその調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があることが事実上推定されることになり、その場合には、被告(債務者)は、それにもかかわらず、当該発電用原子炉施設の運転等によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該原告(債権者)の生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないことを主張、立証(疎明)しなければならない。

2 地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点2)について

(1)新規制基準の合理性について

「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」(以下「設置許可基準規則」という。)及び実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈J(以下、設置許可基準規則と併せて「新規制基準」という。)の制定経緯や新規制基準及び内規である「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(以下「地震ガイド」という。)の規定内容にも鑑みると、新規制基準における基準地震動の考え方は、発電用原子炉施設の敷地及び敷地周辺の調査を徹底的に行い、最新の科学的技術的知見を踏まえ、各種不確実さも考慮した上で、複数の手法を用いて評価した地震動を多角的に検討し、これを基に、当該発電用原子炉施設の敷地において発生することが合理的に予測される最大の地震動を策定し、その地震動に耐え得る設計を要求することによって、当該発電用原子炉施設にその地震動への耐震性を持たせ、なおかつ、その地震動の予測の限界を率直に認め、基奉地震動を超過する地震など想定外の事象が発生し、発電用原子炉施設の健全性が損なわれる事態が生じたとしても、その事態を放射性物質が大量に環境に放出される前に収束させるだけの備えを当該発電用原子炉施設に持たせようという認識に基づくものであることが認められ、このような考え方それ自体は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求める原子炉等規制法の趣旨に沿うものであって、何らの不合理な点はない。

また、基準地震動の策定方針をみても、発電用原子炉施設の敷地及び敷地周辺について最新の科学的、技術的知見を踏まえた調査を徹底して行うことを前提に、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」と「震源を特定せず策定する地震動」を策定し、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」については、兵庫県南部地震を契機に地震学及び地震工学が著しく進歩したことを踏まえて高度化された地震動評価手法である断層モデルを用いた手法に加えて、応答スペクトルに基づく地震動評価という異なる季法による地震動評価をも行った上で設定することとし、これを基本としつつも、敷地周辺の状況等を十分考慮した詳細な調査を実施しても、なお敷地近傍において発生する可能性のある内陸地殻内の地震の全てを事前に評価し得るとは言い切れないことから、これを補完するものとして、観測記録を基に各種の不確かさを考慮して、「震源を特定せず策定する地震動」を適切に策定することにより、発電用原子炉施設の耐震設計の基準とすべき基準地震動の策定に万全を期することとしたものであつて、このような新規制基準における基準地震動の策定方針それ自体に、何ら不合理な点はない。

平成17年から平成23年までの間に各地の原子力発電所において基準地震動を超過する事例が5件発生しているとしても、これらの基準地震動は、いずれも新規制基準が策定される前の基準に基づいて策定されたものである上、東北地方太平洋沖地震に係る2件を除く3事例については、少なくともその後の科学的技術的失H見に照らしてみれば、その地域の特性(震源特性、伝播経路特性又は敷地地盤の特性)についての考慮ないしその前提となる調査及び評価が不十分であつたということもできるところ、新規制基準は、上記基準地震動超過事例の原因の分析を踏まえ、その教訓をも取り入れる形で、基準地震動の策定に当たり地域的特性(震源特性、伝播経路特性又は敷地地盤の特性)を十分考慮することを求めるとともに、その前提となる調査及び評価に当たっては最新の科学的、技術的知見を踏まえることを求めるなどしており、地震ガイド等の具体的な審査基準においても、新規制基準の趣旨を具体化した詳細な定めがされていることからすると、基準地震動を超過した上記事例が発生した事実をもって、新規制基準における基準地震動の定めが不合理であることの根拠とすることはできない。

(2)基準地震動の策定について

ア 敷地ごとに震源を特定して策定する地震動について相手方が行った活断層の調査の手法、調査の結果及びこれに基づく活断層の評価に不合理な点は見当たらない。

相手方の応答スペクトルに基づく地震動評価は、検討用地震に係る地震規模の設定、距離減衰式の選定及び地震伝播特性(サイト特性)の評価等のいずれの過程についても、新規制基準及び地震ガイドの趣旨に照らして不合理な点は見当たらない。なお、相手方は、応答スペクトルに基づく地震動評価において、地震規模を「松田式」と呼ばれる手法(松田時彦「活断層から発生する地震の規模と周期について」(1975)で提案された式。以下「松田(1975)の関係式Jという。)を用いて評価した上、距離減衰式としてS、Noda et al.「RESPONSE SPECTRA FOR DESIGN PURPOSE OF STIFF STRUCTURES ON ROCK SITES」(2002)で提案された方法(以下「Noda et al.(2002)の方法」という。)を用いており、経験式を重畳的に用いて評価しているが、松田(1975)の関係式もNoda et al.(2002)の方法も、平均像を求める経験式としての有用性が一般に承認されているものであって、これらの経験式を用いつつも、経験式としての限界を踏まえた上で、最新の科学的技術的知見を踏まえ、十分な調査に基づいて、震源特性、伝播経路特性及び敷地地盤の特性を考慮して、地震動を評価することが、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される規模の地震動を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるという原子炉等規制法及び新規制基準の趣旨に照らして不合理ということはできず、かえって、抗告人らの主張するような、誤差の最大値ないし平均像からのかい離の最大値を重畳する方向で考慮することは、地域的特性を踏まえた地震動評価の観点からも明らかに不合理というべきである。

相手方の断層モデルを用いた手法による地震動評価は、基本震源モデルにおける震源パラメータの設定、不確かさの考慮、地震動の減衰評価等のいずれの過程についても、新規制基準及び地震ガイドの趣旨に照らして不合理な点は見当たらない。

そして、相手方は、応答スペクトルに基づく地震動評価が断層モデルを用いた手法による地震動評価の結果を全ての周期帯で上回ることから、応答スペクトルに基づく地震動評価による設計用応答スペクトル(最大加速度540cm/s2をもって代表させることとして、敷地ごとに震源を特定して策定する地震動Ss-1を策定したというのであるから、相手方の上記地震動の策定が新規制基準及び地震ガイドの趣旨に照らして不合理であるということはできない。なお、相手方の断層モデルを用いた手法による地震動評価は、一部に経験式(経験的グリー関数)を用いてはいるものの、震源断層のパラメータの設定において、短周期レベルAの設定に当たり2段階の経験式を用いるものとされている強震動予測レシピによらず、地域的な特性の考慮から強震動予測レシピによった場合よりも保守的な設定を行っていることなどからすれば、応答スペクトルに基づく地震動評価結果が断層モデルを用いた手法による地震動評価を上回る結果となっていることが直ちに相手方の断層モデルを用いた手法による地震動評価が過小となっていることを裏付けるものではなく、また、本件原子炉施設において観測された地震の観測記録に基づく応答スペクトルとNoda et.(2002)の方法を用いて導かれた応答スペクトルの比率が短周期側で内陸補正係数を上回っているとしても、相手方は応答スペクトルに基づく地震動評価において内陸補正係数を適用していないのであるから、相手方の基準地震動の策定が過小評価となっているということはできない。

イ 震源を特定せず策定する地震動について

新規制基準において、「震源を特定せず策定する地震動」は、最新の科学的技術的知見を踏まえて詳細な調査を尽くしたと、最新の科学的技術的知見を踏まえた方法により「敷地ごとに震源を特定して策定する地震癖力」を評価しても、その性質上必然的に限界(科学技術上の限界ないし調査の限界等)が存するものであり、他方で、事前に活断層の存在が指摘されていなかった地域において発電用原子炉施設に大きな影響を与えるおそれのある地震が発生している現実があることに鑑み、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」を補完するものとして、位置づけられているものである。このような「震源を特定せず策定する地震動」の位置付け及び性格等からすれば、新規制基準及びこれを具体化した地震ガイドは、「震源を特定せず策定する地震動」について、震源と活断層を関連付けることが困難な過去の内陸地殻内地震であって震源近傍において強震動が得られたものの観測記録そのものを用いて、その観測記録を基に、当該観測記録に含まれる地盤増幅特性を考慮し、必要に応じて、地盤情報等を用いて観測記録から観測点における解放基盤波を策定した上、当該発電用原子炉施設の敷地及び敷地周辺の特性を踏まえ、当該施設に係る解放基盤表面までの地震波の伝播特性を適切に反映させるなど、各種の不確かさを考慮して当該敷地の地盤物性に応じた応答スペクトルを設定することを求めるものであるということができ、このような新規制基準及び地震ガイドの規定内容は、「敷地ごとに震源を特定して策定する地震動」の策定が適切に行われる限りにおいて、不合理なものということはできない。したがって、「震源を特定せず策定する地震動」は当該発電用原子炉施設の敷地の直下でMw6.5の規模の地震が発生することを想定して評価すべきである旨の抗告人らの主張は採用できない。

そして、相手方は、地震ガイドに例示された地震のうちから抽出した5観測点における観測記録の中からはぎとり解析を行うための精度の高い地盤情報が得られている留萌支庁南都地震(Mj6.1、Mw5.7)のK-NET港町の観測点(推定断層面からの断層最短距離約3.81km。以下「本件観測点という。)で得られた観測記録を基に、地盤の減衰定数のばらつき等を考慮したはぎとり解析を行つて、本件観測点における解放基盤波(6 0 6cm/s2)を導き、これに余裕を考慮して、「震源を特定せず策定する地震動」(Ss-2。最大加速度6 2 0 cm/s2)を策定しているところ、本件原子炉施設に係る解放基盤表面の方が本件観測点に係る基盤層(解放基盤表面)よりも硬いものとなっていることなどに鑑みると、相手方の「震源を特定せず策定する地震動」の策定は、検討対象地震の選定)その分析、不確かさの考慮等の各過程について、新規制基準及び地震ガイドの趣旨に照らして不合理な点は見当たらない。

以上に加え、相手方は、本件原子炉施設の敷地及び敷地近傍(敷地を中心とする半径5kmの範囲)において、徹底した調査を行った結果、敷地内又は敷地近傍に確認される断層については少なくとも後期更新世以降の活動はないものと判断され、将来活動する可能性のある断層の存在が否定されていることを併せ考慮すると、相手方が、留萌支庁南部地震の本件観測点における観測記録を基に、震源を特定せず策定する地震動Ss-2を策定したことが、新規制基準及び地震ガイドの趣旨に照らして不合理であるということはできず、また、その評価が過小なものとなっているということもできない。

ウ  以上のとおり、基準地震動の策定に関する新規制基準及び地震ガイドの定めが不合理であるということはできず、相手方の基準地震動の策定が新規制基準及び地震ガイドに適合するとした原子力規制委員会の判断も不合理ということはできない。

(3)本件原子炉施設の耐震設計上の裕度

新規制基準及び地震ガイドの耐震安全性の確保の考え方は、原子炉等規制法の趣旨に照らしても、不合理ということはできず、耐震安全性確保のための「耐震設計に係る工認審査ガイド」(以下「工認ガイド」という。)の規定にも不合理な点は見当たらない。そして、本件原子炉施設の安全上重要な施設についてその耐震設計が新規制基準並びに地震ガイド及び工認ガイドに適合しているとした原子力規制委員会の判断が不合理であるということはできない。

抗告人らは、評価基幣値が塑性変形の限界値に対して余裕を持って設定されているのは、各種不確定要素を考慮した必要不可欠な安全代であって、その余裕を基準地震動を超過する地震動のための余裕として考慮することは許されないと主張するが、個々の建物・構築物や機器・配管系のみならず、それらを構成する部品や材料についても、抗告人らのいう設計、施工に内在する各種の不確定要素を考慮して評価基準値を下回る設計がされるのが通常である上、相手方は、地震応答解析等を行って安全上重要な施設の安全性評価を行ったところ、建物・構築物(鉄筋コンクリート造耐震壁)については評価基準値を大きく下回り、機器・配管系についても、評価基準値を下回ったのみならず、おおむね弾性変形の範囲にとどまったというのであるから、設計、施工に内在する各種の不確定要素を考慮したとしても、本件原子炉施設の安全上重要な施設(建物・構築物及び機器・配管系)は、限界値に対して相当の余裕を有しているものということできる。

また、抗告人らは、相手方の解析は、その計算条件等が明らかにされていない上、モデル化の困難性等による設計ミスを度外視しているから、保守的なものとなっているか疑わしいとも主張するが、相手方は、地震応答解析において、コンクリート強度の値について実際の強度ではなく設計値を用いたり、モデルに入力する建物等の各位置に対する地震力について地震応答解析で求められた動的地震力の最大値を静的地震力として用いるなど、計算結果が保守的なものとなるように計算条件を設定しているのであるから、抗告人らの上記主張も、採用することができない。

(4)本件原子炉施設の安全確保対策

ア 発電用原子炉施設の重大事故等の防上に関する新規制基準の定めが不合理であるということはできず〕相手方の重大事故等紺策が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断が不合理であるということもできない。

イ 新規制基準には、多重、防護(深層防護)の考え方のうち少なくとも第4層までの深層防護が盛り込まれているということができる。新規制基準の内容には、抗告人らの主張するとおり、可搬設備での対応を基本としたアクティブな安全確保策が含まれているということができるものの、多様な状況に柔軟に対処し得るという利点もあると考えられることなどからすれば、新規制基準における重大事故対策の基本的な考え方が深層防護の考え方に照らして不合理であるということはできない。また、発電用原子炉施設の全ての設計基準対象施設が建築基準法等の基準を満たし一般産業施設又は公共施設と同程度の安全性を有することを当然の前提とした上で、重大事故の発生及び拡大を防止する機能を有する施設を特に安全施設と位置付けて、その重要度に応じて、独立性、多様性、多重性の確保を求めたり、耐震設計上高度の安全確保を求めたりすること等によって、重大事故の発生及び拡大の防止を図ることが、第4層の深層防護の具体的な方策として直ちに不合理であるということはできない。このような多重防護の要となる施設を最も耐震重要度の高いSクラス(耐震重要施設)と位置付け、他のクラスの施設よりも厳しい基準を設けることにより、高度の耐震安全性を確保しようとする新規制基準及び地震ガイドの耐震安全性の確保の考え方が、原子炉等規制法の趣旨に照らして不合理ということはできず、外部電源設備及び主給水ポンプが基準地震動に対してSクラスの機器・配管系と同等の耐震安全性を有していないとしても、直ちに耐震設計として不合理であるということはできない。また、使用済燃料設備についても、燃料取扱建屋及び使用済燃料ピットは、いずれも、耐震重要施設(Sクラス)とされており、十分な耐震安全性を有していると認められ、使用済燃料ピットが原子炉格納容器のような堅固な施設に覆われていないとしても、原子炉冷却材圧力バウンダリとの冷却方法の相違等からすれば、耐震設計上の安全性を欠くということはできない。

(5)小括

基準地震動の策定、耐震安全性の確保及び重大事故対策等に関する新規制基準の内容に不合理な点はなく、また、本件原子炉施設がこれらの新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断が不合理であるということもできず、相手方はこれらについて、相当の根拠、資料に基づく疎明を尽くしたというべきである。

もっとも、新規制基準に反映された科学的、技術的知見が最新のものであるとしても、科学的技術的知見に基づく将来予測には、科学的、技術的手法の限界に出来する不確実性が不可避的に存し、予測を超える事象が発生する可能性(リスク)は残るのであつて、本件原子炉施設において策定された基準地震動を上回る地震動が発生する可能性(リスク)は零にはならない。また、本件原子炉施設の建物・構築物及び機器配管系の設計上裕度が存するとしても、その裕度の程度はさまざまである上、設計、施工に内在する種々の不確定要素や応答解析の手法に内在する限界等からして、建物・構築物や機器・配管系が損傷等する可能性(リスク)も零ではない。さらに、重大事故対策においても、当該重大事故等を発生させた自然現象等の影響等により重大事故等対処施設が正常に機能せず、あるいは現場の混乱等により人為ミスが重なるなどの不測の事態が生じる可能性も皆無ではない。

しかしながら、新規制基準は、基準地震動の策定、耐震安全性の確保、重大事故対策などといった、各項目の基本的な考え方やそれに基づく具体的な方針ないし基準を佃別的に見れば、上記のようなリスクを残すものとなっており、また、他に合理的な方針ないし基準が存在することを否定するものでもなく、今後とも最新の科学的、技術的知見等を不断に反映させてその内容を改善、向上させていくべきものといえるが、少なくとも耐震安全性の確保という観点から基準地震動の策定、耐震安全性の確保、重大事故対策等の新規制基準の定めを全体としてとらえた場合には、発電用原子炉施設の安全性を確保するための極めて高度の合理性を有する体系となっているということができる。

そうであるとすれば、本件原子炉施設が耐震安全性を欠くことにより、抗告人らの生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在するということはできない。

3 火山事象により本件原子炉施設が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点3)について

(1)本件原子炉施設の立地評価について

「原子力発電所の火山影響評価ガイド」(以下「火山ガイド」という。)は、発電用原子炉施設の火山影響からの安全性の確保に関する新規制基準の定めを受けて、原子力発電所への火山影響を適切に評価するための方法と確認事項をとりまとめたものであり、立地評価と影響評価から構成されている。

立地評価に関する火山ガイドの定めは、原子力発電所にとつて設計対応不可能な火山事象が当該原子力発電所の運用期間中に到達する可能性の大小をもって立地の適不適の判断基準とするものであり、しかも、上記の可能性が十分小さいとして立地不適とされない場合であっても、噴火可能性につながるモニタリング結果が観測された(火山活動の兆侯を把握した)ときには、原子炉の停止、適切な核燃料の搬出等の実施を含む紺処を行うものとしているところからすると、地球物理学的及び地球化学的調査等によって検討対象火山の噴火の時期及び規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提とするものであるということができる。

そうであるところ、最新の知見によっても火山の噴火の時期及び規模についての的確な予測は困難な状況にあり、VE16以上の巨大噴火についてみても、中・長期的な噴火予測の手法は確立しておらず、何らかの前駆現象が発生する可能性が高いことまでは承認されているものの、どのような前駆現象がどのくらい前に発生するのかについては明らかではなく、何らかの異常現象が検知されたとしても、それがいつ、どの程度の規模の噴火に至るのか、それとも定常状態からのゆらぎに過ぎないのかを的確に判断するに足りる理論や技術的手法を持ち合わせていないというのが、火山学に関する少なくとも現時点における科学技術水準であると認められる。そうであるとすれば、現在の科学的技術的知見をもってしても、原子力発電所の運用期間中に検討対象火山が噴火する可能性やその時期及び規模を的確に予測することは困難であるといわざるを得ないから、立地評価に関する火山ガイドの定めは、少なくとも地球物理学的及び地球化学的調査等によって検討対象火山の噴火の時期及び規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提としている点において、その内容が不合理であるといわざるを得ない。

もつとも、VE17以上のいわゆる破局的噴火については、日本全体でみても約1万年に1回程度とされており、約7300年前の鬼界アカホヤ噴火が完新世(約1万1700年前以降)における地球上で最大の噴火であるとされているが、地球物理学的見地からは、将来必ず発生するものであり、他方で、破局的噴火がもたらす影響は、広大な地域の自然及び社会を一瞬にして壊滅させ、全国的規模で生活基盤や社会の諸機能に深刻な被害を与えるにとどまらず、地球的規模でその生態系等に影響を与えるものということができ、その被害の規模及び態様は、発電用原子炉施設について想定される原子力災害をはるかに上回るものということができる。そうであるところ、少なくとも今日の我が国においては、このようにその影響が著しく重大かつ深刻なものではあるが極めて低頻度で少なくとも歴史時代において経験したことがないような規模及び態様の自然災害の危険性(リスク)については、その発生の可能性が相応の根拠をもつて示されない限り、建築規制を始めとして安全性確保の上で考慮されていないのが実情であり、このことは、この種の危険性(リスク)については無視し得るものとして容認するという社会通念の反映とみることができる。

そうであるとすれば、発電用原子炉施設の安全性確保についてのみ別異に考える根拠はないというべきであり、発電用原子炉施設の安全性が確保されないときにもたらされる災害がいかに重大かつ深刻なものであるとしても、そのことから直ちに独り発電用原子炉施設についてのみこの種の危険性(リスク)についても安全性確保の上で考慮すべきであるという社会通念が確立しているとまで認めることはできず、このような危険性(リスク)をも発電用原子炉施設の安全性確保の観点から自然災害として想定すべきか否かは、結局のところ政策判断に帰するものというべきところ、少なくとも原子力利用に関する現行法制度の下においては、これを自然災害として想定すべきとの立法政策がとられていると解する視拠は見いだし難い。

そうであれば、少なくともVE17以上の規模のいわゆる破局的噴火については、その発生の可能性が相応の根拠をもつて示されない限り、発電用原子炉施設の安全性確保の上で自然災害として想定しなくても、当該発電用原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあるということはできない。また、そのように解しても、本件改正後の原子炉等規制法の趣旨に反するということもできない。これを火山の影響に係る立地評価の基準についていえば、過去の最大規模の噴火がVE17以上の破局的噴火であってこれにより火砕物密度流等の設計対応不可能な火山事象が当該発電用原子炉施設に到達したと考えられる火山が当該発電用原子炉施設の地理的領域に存在する場合であっても、当該発電用原子炉施設の運用期間中にそのような噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されない限り、立地不適としなくても、原子炉等規制法の趣旨に反するということはできず、また、原子炉等規制法の委任を受けて制定された設置許可基準規則6条1項の趣旨にも反しないというべきである(なお、上記のように解したとしても、設計対応不可能な火山事象が当該発電用原子炉施設に到達したと考えられる火山について火山ガイドに定める火山活動のモニタリングを行う意味が失われるものではない。

そうであるところ、相手方が火山ガイドに従って抽出した火山のうち設計対応不可能な火山事象(火砕物密度流)が本件原子炉施設敷地に到達したことが否定できない3つのカルデラ火山を含む5つのカルデラ火山(始良カルデラ、加久藤・小林カルデラ、阿多カルデラ、鬼界カルデラ及び阿蘇カルデラ)については、いずれも、本件原子炉施設の運用期間中に破局的噴火が発生する可能性が相応の根拠をもって示されているということはできないから、上記5つのカルデラ火山との関係において立地不適としなくても本件原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあるということはできず、その余の火山については設計対応不可能な火山事象が本件原子炉施設敷地に到達する可能性はないというのであるから、本件原子炉施設が火山の影響に対する安全性の確保の観点から立地不適と考えられないとした原子力規制委員会の判断が結論において不合理であるということはできない。

(2)本件原子炉施設の影響評価について

ア 相手方は、検討対象火山と本件原子炉施設敷地との距離等からして、降下火砕物を除く火山事象による影響はないと評価しており、その評価が不合理であるということはできない。

イ 降下火砕物の影響評価に関する火山ガイドの定めは、降下火砕物の影響の特徴を踏まえた発電用原子炉施設の安全性確保の基準を定めたものとして、不合理ということはできない。

ウ 前記の5つのカルデラ火山の最近の噴火状況、これらのカルデラ火山と本件原子炉施設敷地との位置関係及び距離、これらのカルデラ火山のマグマ溜まりの状況等に鑑みると、相手方が始良カルデラにおける約2.8~3万年前の破局的噴火である姶良Tn噴火後最大規模の桜島薩摩噴火(VE16。総噴出量約11 k㎥)を踏まえ、降下火砕物の量につき本件原子炉施設に層厚15cmの降下火砕物が生じるものと想定して降下火砕物の影響を評価したことが、新規制基準及び火山ガイドの趣旨に照らして不合理ということはできず、相手方の降下火砕物の影響に対する防護設計が火山ガイドを踏まえたものになっているとして新規制基準に適合するものとした原子力規制委員会の判断が、不合理であるとはいえない。

なお、相手方が降下火砕物の大気中濃度として想定した値が少なくとも10倍以上の過小評価となっている疑いがあるものの、非常用ディーゼル発電機等の機器の構造、機能、想定される降下火砕物の性状、作業の手順、要員の配置等からすれば、降下火砕物の非常用ディーゼル発電機への侵入等による機器への影響はないとした相手方の評価が不合理であるということはできず、また、降下火砕物の換気空調設備への侵入等により機器の機能に影響がないとした相手方の評価が不合理であるということもできない。また、降下火砕物の影響に対する安全性の確保については、人力による対応が重要な部分を構成しているが、これは、降下火砕物という起因事象の性格上やむを得ないものである上、短時間で効率的に作業を行うことがおきるような設備上の工夫や態勢整備等もされていることなどをも併せ考えると、直ちに安全性に欠けるということはできない。

(3)小括

以上によれば、立地評価に関する火出ガイドの定めは、少なくとも地球物理学的及び地球化学的調査等によって検討対象火山の噴火の時期及び規模が相当前の時点で的確に予測できることを前提としている点において、その内容が不合理であるといわざるを得ないが、相手方が火山影響評価の検討対象火山として抽出した火山に含まれるカルデラ火山との関係において立地不適としなくても本件原子炉施設が客観的にみて安全性に欠けるところがあるということはできず、その余の火山については設計対応不可能な火山事象が本件原子炉施設敷地に到達する可能性はないというのであるから、本件原子炉施設が火山の影響に対する安全性の確保の観点から立地不適と考えられないとした原子力規制委員会の判断が、結論において不合理であるとはいえない。

また、降下火砕物の影響評価に関する火山ガイドの定めは、降下火砕物の影響の特徴を踏まえた発電用原子炉施設の安全性確保の基準を定めたものとして、不合理ということはできず、相手方が、降下火砕物による影響を火山事象として抽出し、降下火砕物の量につき、本件原子炉施設に層厚15cmの降下火砕物が生じるものと想定して、火曲ガイドに従った影響評価を行い、防護設計を行ったことについて、火山ガイドを踏まえたものになっているとして新規制基準に適合するものとした原子力規制委員会の判断が、不合理であるということはできない。そうであるとすれば、本件原子炉施設が火山の影響に対する安全性の確保に係る新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断が不合理であるということはできず、相手方は、これらについて、相当の根拠、資料に基づく疎明を尽くしたというべきであり、本件原子炉施設が火山の影響に対する安全性を欠くことにより抗告人らの生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在するということはできない。

4 その他の事象により本作原子炉施設が影響を受ける可能性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点4)について

(1)竜巻について

竜巻による飛来物の使用済燃料ピットヘの衝突に対する安全性についての相手方の評価の過程に不合理な点は見当たらず、相手方の評価が新規制基準及び「原子力発電所の竜巻影響評価ガイド」に適合するものとした原子力規制委員会の判断も不合理であるということはできない。したがって、相手方は、この点について、相当の根拠、資料に基づく疎明を尽くしたというべきであって、本件原子炉施設の使用済燃料ピットが竜巻の影響に対する安全性を欠くことにより抗告人らの生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在するということはできない。

(2)テロリズム及び戦争行為について

我が国の法制上、テロリズムを含む犯罪行為の予防及び鎮圧は警察等の責務とされており、原子力災害対策特別措置法も、原子力災害の発生の防止に関し事業者に万全の措置を講ずる責務を課す一方で、国は、テロリズムその他の犯罪行為による原子力災害の発生をも想定し、これに伴う被害の最小化を図る観点から、警備体制の強化、原子力事業所における深層防護の徹底、被害の状況に応じた対応策の整備その他原子力災害の防止に関し万全の措置を講ずる責務を有すると規定していることからすれば、発電用原子炉施設を含む原子炉施設のテロリズムその他の犯罪行為に対する安全性の確保については、国の責務であることを基本としつつ、施設の構造及び設備並びに重大事故等対策の観点からの規制を通じて事業者にも一定の責務を課しているものということができ、設置許可基準規則におけるテロリズムその他の犯罪行為の発生を想定した不法な侵入等の防止や重大事故等対策に係る定めは、上記のような法の趣旨を具体化したものということができる。そして、テロリズムその他の犯罪行為の発生を想定した相手方の不法な侵入等の防止や重大事故等対策が新規制基準及び「実用発電用原子炉に係る発電用原子炉設置者の重大事故の発生及び拡大の防止に必要な措置を実施するために必要な技術的能力に係る審査基準」に適合するとした原子力規制委員会の判断が不合理であるということはできない。そうであるとすれば、本件原子炉施設その他の発電用原子炉施設について、抗告人らの主張するようなテロリズムに対する脆弱性を検討する余地があるとしても、これをもって、本件原子炉施設が安全性に欠けるところがあるとして、事業者である相手方による抗告人らの人格権(生命、身体に係る権利)に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはできない。

戦争行為による攻撃からの発電用原子炉施設の安全性の確保については、基本的に国の責務として国の防衛政策に位置づけられるべきものであり、現行法制度の下においては本件原子炉施設その他の発電用原子炉施設について、武力攻撃に対する危険性を検討する余地があるとしても、これをもって、本件原子炉施設が安全性に欠けるところがあるとして、事業者である相手方による抗告人らの人格権(生命、身体に係る権利)に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはできない。

5 本件避難計画等の実効性と人格権侵害又はそのおそれの有無(争点5)について

(1)原子力基本法や原子力災害対策特別措置法等、原子力災害対策に関する法令の規定からすれば、原子力災害の発生の防止及び拡大の防止等について原子力事業者は第一次的な責務を負うものの、当該原子力事業所において必要な措置を講ずることが前提とされており、当該原子力事業所周辺住民の生命又は身体を原子力災害から保護するための避難等を含むいわゆるオフサイトの災害対策は、市町村、都道府県及び国(原子力防災会議、原子力災害対策本部)が担うものとされ、このうち周辺住民の避難等については、避難計画の作成及び逃難の勧告又は指示を含めて、基本的に市町村の責務とされているということができる。そして、これらのいわゆるオフサイトの災害対策については、発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象とされず、原子力規制委員会は、原子力災害対策指針を定めるほか、内閣総理大臣とともに原子力事業者による原子力事業者防災業務計画の作成等を規制する権限等を有するにとどまっており、その趣旨については、原子力規制委員会にその専門的、科学的な観点から関与させることとしたものであると解される。なお、原子力災害対策を発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象とするか否かは、立法政策に属する事柄であって、災害対策基本法及び原子力災害対策特別措置法等に基づく原子力災害対策が有効かつ適切に機能する限りにおいて、上記のような立法政策が、深層防護の観点からも、不合理であるということはできず、そのような立法政策がとられたからといって、直ちに確立された国際的な基準を満たさないということもできない。

以上のような現行法制度の下においては、発電用原子炉施設に起因する原子力災害の発生等に対する周辺住民の避難計画が全く存在しないか又は存在しないのと同視し得るにもかかわらずあえて当該発電用原子炉施設を運転等するような場合でない限り、当該選難計画が合理性ないし実効性を欠くものであるとしても、その一事をもつて直ちに、当該発電用原子炉施設が安全性に欠けるところがあるとして、当該発電用原子炉施設を設置、運転等する原子力事業者による周辺住民等の人格権(生命、身体に係る権利)に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはできないと解すべきである。

(2)本件避難計画等は、その内容が防災基本計画及び原子力災害対策指針に適合するものであつて、原子力防災会議において、本件原子炉施設からの距離に応じた対応策が合理的かつ具体的なものとして定められていることを確認したとして了承されている。そうであるとすれば、本件避難計画等について、抗告人らの主張するように、段階的避難の実効性、 自然災害を想定した避難経路の確保、避難行動要支援者(要援護者)についての避難態勢、選難手段、選難先の確保等、避難施設等調整システムの実効性、自家用車で避難できない住民等に係る輸送手段の確保、避難時における避難車両の燃料補給や避難者の車中における放射線被曝の危険等、避難先の変更等に係る情報伝達の実効性等の問題点を指摘することができるとしても、本件避難計画等の内容等からして本件原子炉施設に起因する原子力災害の発生等に対する周辺住民の避難計画が存在しないのと同視し得るということはできないから、本件避難計画等の下において相手方が本件原子炉施設を運転等することをもって、直ちに事業者である相手方による抗告人らの人格権(生命、身体に係る権利)に対する違法な侵害行為のおそれがあるということはできない。

6 結論

以上によれば、抗告人らの相手方に対する人格権に基づく本件原子炉施設の運転の差止めを求める本件仮処分命令の申立ては、被保全権利についての疎明を欠くことに帰するから、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

したがって、本件抗告は、いずれも理由がないから、これらを葉却すべきである。

平成28年4月6日

福岡高等裁判所宮崎支部

裁判長裁判官 西川 知一郎

裁判官    下馬場 直志

裁判官    秋元 健一

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