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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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敵基地攻撃能力保有論の行方 2

2020年10月15日


5 憲法の視点からの検討


( 1 ) 政府の憲法 9 条解釈、専守防衛
 敵基地攻撃能力保有論は、憲法 9 条との整合性が問われています。論点は専守防衛との整合性、自衛権行使の地理的限界です。

 専守防衛との関係では、昭和31年 2 月29日衆議院内閣委員会での鳩山総理大臣答弁 (統一見解) が必ず引用されます。ただ下線部の答弁はなぜかあまり引用されることはありません。

「我が国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾等による攻撃が行われた場合、座して死を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。

 昨年私が答弁したのは、普通の場合、つまり他に防御の手段があるにもかかわらず、侵略国の領域内の基地をたたくことが防御上便宜であるというだけの場合を予想し、そういう場合に安易にその基地を攻撃するのは、自衛の範囲には入らないであろうという趣旨で申し上げたのであります。

 鳩山総理大臣の答弁は、日本に対する核弾道ミサイル攻撃を想定していたことはその答弁内容 (座して死を待つ) や、当時の長距離ミサイルの弾頭は核弾頭であったという事情からうかがうことができます。その後の弾道ミサイル、巡航ミサイルの発展の中でもこの見解は現在まで政府の立場として維持されています (2015年 9 月 4 日平安特委理事会提出資料参照) 。

 上記答弁書の後の昭和34年 3 月19日衆・内閣委で伊能防衛庁長官は「ご承知のように設例として、国連の援助もない、また日米安保条約もないというような、他に全く援助の手段がない、かような場合における憲法上の解釈の設例としてのお話でございます」と述べたこと、平成17年 5 月12日衆・安保委で大野防衛庁長官が必要最小限、他に手段がないことに言及したうえで、「しかしながら、・・・日本防衛の考え方、これは日米安保条約の下において、専守防衛を基本とする、こういうことであります。したがいまして、日米間でやはりそこに役割分担がある・・・。我々としては、敵基地攻撃というのは、法理論的には今申し上げた意味で可能でありますけれども、敵基地攻撃を目的とした装備というものは考えておりませんし、このような攻撃を目的とした長距離巡航ミサイルのようなものも考えておりません。」と述べたことを挙げておきます。そうしないと、憲法9条に関する政府見解が、憲法 9 条の下では敵基地攻撃能力保有は合憲であるとの理解が独り歩きしているからです。

 憲法 9 条の下で許される自衛権行使の三要件とほぼ同じ内容の専守防衛は、自衛隊の憲法9条適合性を保証するために持ち出されたものです。憲法 9 条が明文改憲されず自衛隊が存在している以上、敵基地攻撃能力に関する政府解釈が現在まで維持されていることは当然です。

( 2 ) 専守防衛の規範的側面
 専守防衛は二つの側面から論じることができると考えます。一つは安全保障防衛政策としての専守防衛政策であり、もう一つの側面は、自衛隊を憲法で規制する規範的側面です。前者は項を改めて安全保障政策の視点で論じるので、ここでは規範的側面に限定して述べます。

 いうまでもなく、政府解釈による憲法 9 条で許容される自衛権行使は、国際法上の自衛権行使の要件よりも厳しく制限され、国際法上の自衛権行使の三要件の一つである「均衡性」を、憲法 9 条政府解釈による自衛権行使要件では「必要最小限」としています。その結果、我が国の自衛権行使として他国領域での武力行使は出来ない、敵領土の占領は出来ない、戦時臨検は出来ないとされています。

 専守防衛の規範的側面は、自衛隊が憲法 9 条に適合するとの政府解釈を導く大前提です。これは更に自衛隊の装備や自衛権行使の地理的限界論にまで及び、現実の自衛隊の装備や行動を規制してきたのです。

 敵基地攻撃能力保有論は、専守防衛により規制されてきた自衛隊の装備、役割、任務を大きく変貌させる内容になります。敵領域内での攻撃作戦を遂行可能にする偵察衛星システムや無人機などによる偵察監視活動、敵レーダー・無線通信を妨害、無力化する電子戦機、測位衛星機能を妨害する電子戦システム、敵情報を収集・伝達し、それに基づき攻撃作戦を指揮・命令する戦闘情報ネットワークの構築、敵防空網を破壊無力化して敵領域内まで侵攻可能なステルス攻撃機と長距離空対地ミサイル、我が国領土内や公海上から敵領土内の軍事施設を攻撃できる中距離弾道ミサイル、長距離巡航ミサイル、これらの攻撃作戦を可能にする自衛隊の部隊の創設と訓練など、これまで専守防衛の下で作られてきた自衛隊の姿を大きく変貌させるものとなります。

 また、敵の防空システムをかいくぐりながら敵領土内の軍事施設を攻撃する作戦は、きわめて危険度の高いものです。また誤って軍事施設ではない民間施設や市民を殺傷する危険性もあります。そのため航空侵攻部隊は厳しい実戦的な訓練を重ねなければなりません。在日米空軍機が日本の各地の山岳地帯などで低空飛行訓練をしているのは、敵領土内へ航空侵攻して攻撃するという作戦を想定した訓練を積んでいるからです。

 わが国の軍事力を敵領域内へ投射する敵基地攻撃能力保有論では、自衛権行使の地理的限界も問題になります。これについての政府見解は概ね以下のものです。

 自衛権の行使はわが国領域に限定されるものではなく、我が国の防衛に必要な限度において (我が国周辺の) 公海・公空にまで及ぶ。武力行使の目的をもって武装した部隊を他国領域に派遣するいわゆる「海外派兵」は一般に自衛のための必要最小限度を超える (昭和44年12月29日政府答弁書、昭和48年 9 月19日秀・決算委義邦内閣法制局長官答弁、H10年11月30日衆・本会議大森内閣法制局長官答弁など) 。

 敵基地攻撃のため敵領空、領海内への偵察機や攻撃機、水上艦艇を派遣する、攻撃目標を同定するため特殊部隊を敵領土へ侵入させることは、憲法9条では決して許されない軍事活動となります。そして実効的な敵基地攻撃には、これらの活動は不可欠です。

 敵基地攻撃は、先制的自衛権行使との関係で、武力紛争劈頭での攻撃の是非が議論されていますが、武力紛争の最中でも敵基地攻撃作戦は敢行されます。自衛権行使の要件を満たしていたとしても、我が国防衛のために敵領域深く攻撃作戦を行うことは専守防衛とは相いれないのではないでしょうか。専守防衛では、我が国への攻撃を我が国領域やその周辺で排除すればそれで終えなければならず、敵領域まで追撃することはできないはずです。

 自民党提言による敵基地攻撃能力保有論は、憲法 9 条解釈により積み重ねられてきた専守防衛を根底から否定することになります。なぜなら、いったんこれを容認すれば、敵の軍事的能力の向上、先端装備の保有に対抗する際限のない敵基地攻撃能力保有論になり、これ以上は「必要最小限」を超えるから禁止すべしという憲法9条と専守防衛の規範的側面は完全に否定されることになるからです。

6 国際法の視点

 国連憲章第51条では、自衛権行使の要件として武力攻撃の存在を挙げています (「武力攻撃が発生した場合」と憲章に規定) 。武力攻撃が発生していない、着手もされていない段階で敵の意図を先回りして脅威を取り除く予防攻撃は違法となります。我が国に対する武力攻撃の着手があれば、着弾以前でも自衛権行使ができるというのが政府解釈ですが、この点は容認できる立場から考えてみます。

 わが国に対する武力攻撃の着手という判断は極めてむつかしい、現実には不可能と思われます。北朝鮮、中国が我が国を狙って弾道ミサイルを発射しようとした場合に、発射前にそれを攻撃破壊するということが果たしてできるかを考えればこの点を理解できるでしょう。

 何を根拠に我が国を狙った弾道ミサイルを発射しようとしていると判断できるのか。車載移動式・固体燃料のミサイルであれば、発射地点へ移動すればすぐに発射可能です。敵ミサイル部隊のこの動静をリアルタイムで監視するなど不可能です。

 敵領域内での絶対的な航空優勢を確保した湾岸戦争でも、イラク軍の車載移動式短距離弾道スカッドミサイルのハンティングは成果をあげられていません。よしんば運よく発見できたとしても、発射しようとしているミサイルが我が国を狙ったものと判断することはむつかしいでしょう。発射機に設置されたミサイルが、韓国や台湾を狙う短距離なのか我が国を狙う中距離なのか識別は決して容易ではありません。また訓練と実戦とを区別することもむつかしいでしょう。

 発射台に設置されてから液体燃料を注入して数時間たってから発射する弾道ミサイルであれば、発射台に設置したものを攻撃破壊することは可能かもしれませんが、車載移動式固体燃料であれば、発射ポイントへ移動すればすぐにでも発射できるので、これを攻撃しても間に合いません。

 このように数え上げればきりがないのです。結局実効的な敵基地攻撃は、国際法に違反する予防攻撃あるいは先制攻撃にならざるを得ません。

(次回に続く)

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