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【NPJ通信・連載記事】憲法9条と日本の安全を考える/井上 正信

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将来の憲法改正を議論していた外務省 上

2020年10月29日


1 1969年 9 月25日、外務省内部でひそかに議論されて作成された「我が国の外交政策大綱」という文書があります。この文書は外務省内部に設置された外交政策企画委員会が作成したものです。
 ※ 「我が国の外交政策大綱」

 この時期は、日本の核政策にとって大きな転換点を迎える NPT (核不拡散) 条約調印、批准問題を控えていました。
 外務省の説明によると、外交政策企画委員会とは「外交政策立案機能の強化を目的として、外務省の幹部が、重要外交課題に関して自由な見地から総合的に議論を行っていた委員会。」です。
 
 第 2 回委員会は1969年 8 月29日、第 3 回は同年 9 月 2 日、第 4 回は同年 9 月 4 日に開催されています。出席者は開催の都度若干の違いはありますが、当時の法眼外務審議官 (のちの外務事務次官) 、斎藤官房長、鈴木孝国際資料部長、遠藤領事移住部長、金沢、高島、沢木各参事官、村田企画室長、岡崎調査課長などです。第 4 回委員会は法眼外務審議官の部屋で開かれています。

2 私は日本政府の核政策がどのように形成されたのか、とりわけ2009年 2 月に、オバマ政権下での核態勢を議論する目的で米国連邦議会が設置した「戦略態勢委員会」がヒヤリングした日本政府代表 (在ワシントン日本大使館の 4 名の外交官 その代表が政務担当公使―現外務事務次官秋葉剛男氏) が戦略態勢委員会に対して、海洋発射核巡航ミサイルの退役に反対し、日本に対する核抑止力を強めるため、米国が小型で使いやすい、地中貫通能力がある、柔軟性のある、米国に核戦力で張り合うことを断念させるほどの圧倒的な核戦力を保持することなどを求めたことに見られるように、日本政府の核兵器に強く依存する体質がどのように形成されたのかを調べようと思っていました。
 ※ 2009年 2 月に戦略態勢委員会へ提出した日本政府の意見書 (英文)

3 「我が国の外交政策大綱」は67、68頁で、「核兵器については、NPT に参加すると否とにかかわらず、当面核兵器は保有しない政策をとるが、核兵器製造の経済的・技術的ポテンシャルは常に保持するとともにこれに対する掣肘を受けないよう配慮する。」と述べて、独自核保有の途を残そうとしました。

 日本政府は1970年 2 月、NPT に署名しますが、その際の政府声明の最後で、条約第10条の脱退条項を引用しながら、この規定に留意する、と述べました。これも「我が国の外交政策大綱」で独自核武装の道を残す方針を定めたことの反映でした。
 ※ NPT条約署名の際の日本政府声明

 実はこの政府声明を掲載している外務省HPを見ると、「日本政府は、以上の基本的考え方に基づき次の諸点に強い関心を有することを表明する。」との記載はありますが、「次の諸点」はなぜか省いています。私がここで掲載した日本政府声明は、情報開示された NPT 批准を巡る外務省の内部資料の中に含まれるものです。
 なぜ外務省が政府声明の重要な個所をわざわざ省いてHP上に掲載しているのかは不明ですが、興味深いことです。

4 「我が国の外交政策大綱」が作られるまでの外交政策企画委員会の記録は外交史料館で保存されています。もともとは「極秘」のスタンプが押してある文書です。これを読んでいるうちに、核政策とは別の個所に目が行きました。それは、「我が国の外交政策大綱」の内容について、憲法改正をしなければここまで書けないのではないかとの議論がされている箇所です。

 この議論は「我が国の外交政策大綱」の案の「Ⅱ 分野別政策 1、安全保障に関する施策」を議論した箇所です。以下第 4 回外交政策企画委員会記録をご紹介しましょう。参加メンバー一人一人の発言記録です。
 ※ 第 4 回外交政策企画委員会記録 1
 ※ 第 4 回外交政策企画委員会記録 2
 ※ 第 4 回外交政策企画委員会記録 3

5 
法眼 (外務審議官 以下肩書略)
 「自衛力増強をどういうテンポでやって行くかー。そして、防衛産業も大事だけれども、今のところ武器は輸出しないということになっている。」

鈴木 (国際資料部長 以下肩書略)
 「紛争当事国には出さないという原則だ。」
    ※ 法眼外務審議官の発言を修正する趣旨でしょう。

沢木 (参事官 以下肩書略)
  「特に攻撃的なものは出さない。ジープでも前に銃架がついていなければいい。」

斉藤 (官房長 以下肩書略)
  「韓国の警備艇は武器に入るのかな。出してもいいと思うけれども。」

金沢 (参事官 以下肩書略)
  「基本的にはここに書いてある方向 (委員会で議論している「我が国の外交政策大綱」の草案の意味) (筆者注:草案は前掲委員会記録の末尾に別添として付されていますのでご覧ください。) で良いのじゃないかと思う。ただ、武器に類したものを輸出するということになると、やはり通産省が非常に警戒的である。彼らが直接国会の答弁に立つものだから。一切だめだということになる。」

沢木 「貿易管理令だがその元で、その主管官庁が通産であるという意味において通産がやっている。実際上相談はしているけれども。」

鈴木 「警察能力を高めるものは出してもよいと思う。いわゆる武器になってくると、量産をやるためにはどうしても輸出を必要とするということがある。」 

   ※ 以上は「我が国の外交政策大綱」で、「我が国の安全保障に寄与し、かつ効果的な防衛産業を維持するに必要な限度において武器輸出、軍事援助 (当面国内治安用) を実施する。」と記載されている内容についての議論です。この個所の記述は委員会で議論した草案と「我が国の外交政策大綱」 (66,67頁) との違いはありません。武器輸出の主管官庁である通産省は安全保障政策の観点がないと言いたげです。また、「我が国の外交政策大綱」で「当面関係国の国内治安用」と述べていることは、将来の武器輸出の突破口として警察用だとの理屈を考えたのでしょう。

法眼 「安保条約だけれども、自衛力との交替の前提として、アジアの平和のために必要なものがあるわけですね。それを肩代わりするにはどういう風にするかという計算が立つのじゃないか。例えば、今かりに10という力 (筆者注 : 在日米軍と自衛隊の力を合わせたもの) があって、アジアの安全を保障するためにはその何パーセント必要かということになって、その何パーセントを維持するためにアメリカが退いていくに応じて日本がどの程度穴埋めができるか。穴埋めする方法とか、具体的なものが出てくるわけだ。それを防衛庁でやらなければならない。」
   
※ この発言は、草案で「在日米軍基地は逐次縮小・整理するが原則として自衛隊がこれを引きつぐとともに、日本及び韓国の防衛に死活的重要性を有する若干米軍基地はこれを存置し、もって抑止力の維持を図ること。」と述べていることに言及したものです。
   「我が国の外交政策大綱」では、草案のこの個所に加えて、草案にはなかった憲法改正問題を含意する文章が付け加わります。付け加わる文章は、これに続く議論を踏まえて付け加わることになります。それは以下に述べるような議論でした。
 
発言者の発言中略
 村田企画室長の「今のところ本土防衛についてすら日米両方の分担が明確ではない。これは非常に大きな問題だと思う。」との発言を受けて、

堂ノ脇 (分析課長 以下肩書略)
 「 (草案 井上注記) 44ページの上段で、『核抑止力及び西太平洋における大規模の機動的海空攻撃力のみを米国に依存し』他はすべて日本側が引き継ぐ、という思想であるが、厳密にいえば『攻撃力』のみではなく、補給力も必要なのである。そこまで日本は負担することはできない。」

※ この指摘を受けて「我が国の外交政策大綱」 (64頁) では「大規模な海空攻撃力及び補給力のみを米国に依存」と草案の記述が修正されます。

堂ノ脇 「それから、その次にある『若干の限定された重要基地の米軍への供与を中心とする』というところであるが、朝鮮半島で事件が起こった場合、限られた基地だけを提供するという考え方が果たしてそれでいいのかどうか。日本にある基地を特に制限もなく使わせるというふうに書いたほうがいいか。その辺があいまいだと思う。」

沢木 「ここまで書くのだったら、憲法改正論は考えてないか。」

村田 「我々がどう考えようと、必ず 5 年くらいのうちに我が国は憲法改正問題にぶつかると思う。」 

沢木 「だから憲法改正問題は全然触れなくていいのか。」

村田 「これは一応外交施策という大きい枠の中で書いたものだから―。」

沢木 「憲法改正を前提にしないというのならば、もっとずっとトーンダウンしないとあっちこっちぶつかってくる。武器輸出とか軍事援助とか―。だから、ここまでやるのだったら憲法改正だ。」

村田 「武器輸出は憲法改正しないでもできる。」

沢木 「それから、ここまで行けば地域的集団安全保障体制に日本が参加する問題、これはどう考えているのか。そこが先に出てくるのではないか。」

村田 「もしそうなれば、日米安保条約を相互援助条約に切り替えるというのが先であって、韓国、台湾等を入れるというのが先ではない。」

高島 (参事官 以下肩書略)
 「もし憲法改正するならば結果的には地域防衛にも参加できるわけだ。そうなるのが一番いいだろう。」

金沢 「憲法改正する必要があるということを書くのはちょっと・・・。」

法眼 「法体系の整備を必要とする、というくらいでどうか。」
 中略

鈴木 「憲法改正の点は?」

村田 「『国内の法体系を改正する』というようなことで―。」

  ※ 憲法問題についてのこのような議論を経て、決定された「我が国の外交政策大綱」は、草案にない以下の文章が付け加わりました。
  「我が国の自衛力を質・量の両面で整備、拡充し、かつ国内の法体系の整備、改正及び行政上の諸体制の充実により、この自衛力が保持する実力を有事の際十分発揮できるよう措置すること」 (65頁)

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