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「安倍政治の継承」に現実味

寄稿:飯室勝彦

2020年11月13日


 長期政権を突然放り出した安倍晋三元首相は、再選を果たせず、退陣に追い込まれたドナルド・トランプ米大統領との親密な関係を誇示していた。 2 人は独裁的政治手法、知的営為に関する敬意の欠如などさまざまな点で類似性が指摘された。そしていま、安倍氏に代わって登場した菅義偉首相とトランプ氏との同質性が浮き彫りになってきた。安倍氏の退場で改憲の危機が遠のいたと楽観するのは危険だ。トランプ氏をリトマス試験紙にたとえると、菅首相が掲げたスローガン、「安倍政治の継承」が現実味を帯びてくる。厳しい監視、警戒が必要だ。

◎証拠に反する主張を繰り返す
 首相として初の国会論戦を迎えた菅氏は日本学術会議の会員任命をめぐって野党の厳しい追及を受けた。野党は新たな会員として会議側の推薦したメンバーのうち 6 人を首相が任命しなかったことが違法であり、学問の自由を侵害していると迫った。

 6人が共謀罪法制定など政府の重要施策に反対したので任命されなかったのではないか、との疑いが濃いからである。「推薦された人物を任命するかしないかの最終判断権は首相にある。推薦通りに任命しなければならないのではない」とする政府側と、「首相の任命権は形式的なもので推薦された通り任命しなければならない」と主張する野党側が鋭く対立した。

 任命基準を問われた菅首相は、当初「 (学術会議の) 総合的・俯瞰的な活動を実現するため」と抽象的な答弁でかわそうとしたが具体性がないと詰め寄られ、もっと踏み込まざるを得なくなった。その結果、引き出された答弁が「多様な会員を確保することが大事だ」「会員の出身や所属大学に偏りがある」「旧帝大の会員が45%、私立大は24%、49歳以下は 3 %にすぎない」などである。

 しかし、今回任命されなかった 6 人のうち 3 人は私立大教授であり、東大教授の 1 人は50歳代前半で比較的若い。任命されなかった加藤陽子東大教授は女性である。2015年にまとまった政府の有識者報告書は「性別と年齢は大幅に改善され、地域バランスも若干改善されている」と評価している。

 大義名分とした「多様性確保」は前提を欠いた虚偽と言わざるを得ないにも関わらず自説を言い募っている。だいいち首相は 6 人の論文や著作物は加藤教授を除いて読んでいないことを認めた。「多様性」以前の問題である。

◎強権的、強引な政治手法
 トランプ氏がツイッターなどで大量の嘘を流し続けていることについては多くを言う必要はあるまい。しばしば警告を受けている。選挙で敗れても証拠も示さずに「不正が行われた」「選挙を盗まれた」などと主張して敗北を認めない。虚偽に基づいて自説を展開する点でトランプ、菅両氏は同質だ。

 強権的、強引な政治展開をするのも両者の共通点だ。トランプ氏は議会が自分の言う通りにならないと大統領令を乱発して自分の意思を押し通したり、意に沿わない政権幹部を次々更迭することもした。再選に失敗し、任期が 2 ヶ月足らずしかない段階に至っても国防長官を解任した。人種差別に対する抗議デモの鎮圧に連邦軍を出動させようとしたトランプ氏の方針に反対したからだと言われる。

 菅氏が内閣官房長官の時、内閣人事局を背景に官僚に対する人事権を掌握することで政治、行政を動かしていたことは周知の事実だ。著書には自身の政策に反対した総務省の課長を更迭したことが書かれている。

 総務相時代にはテレビ番組作りの不祥事に絡んで番組作りに介入しようとしてテレビ業界の反発を招いた。何よりも今回の学術会議会員の任命問題である。理由も告げずに特定の人物を排除した手法は強引きわまる。仮に首相に選ぶ権利があるとしても、そのやり方は「手にした権力を早速試してみた」ようではないか。たとえは悪いが、封建時代に武士が新刀の切れ味を試した蛮行を想起させる。

◎政権交代で落着とはゆかず
 内閣官房長官として安倍氏を長年支えてきた菅首相が「安倍政治の継承」を自分の政権の目標とするのは自然ではあるだけに「形式的な目標として掲げただけ」との見方もあるが、安倍氏と盟友関係と言われたトランプ氏と菅氏の同質性をあわせて考えると楽観的過ぎる。日常的に政権、政治を監視し、チェックしていないと、安倍氏がやり残した宿題である「改憲」や「戦後レジュームからの脱却」などが現実的なテーマとして浮かび上がりかねない。政権交代で一件落着とはいかない。

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