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コロナ対策で見えてきた菅流の限界

寄稿:飯室勝彦

2021年1月6日


 新型コロナウイルスが年末年始も猛威を振るい、感染拡大が世界中で止まらない。日本政府の対策も後手続きで医療が逼迫しつつある。そうした中で、「安倍政治の継承」を掲げて権力を握った菅義偉首相の本質と限界が明瞭になってきた。

◎言行不一致の菅首相
 年末年始、菅首相はテレビなどを通じて国民の前にしばしば登場、不要不急の外出を自粛し多人数での会食を控えるよう国民に協力を求めた。しかし例年より少ないとはいえ有名寺院、アメ横など局所的には混雑したところが多かったし、多人数の会食もあちこちで明らかになった。国会議員、果ては首相自身がそうした会食の場に出ていたことさえ分かって謝罪する始末だった。
 まさに言行不一致、これでは多くの人たちが首相の呼びかけを軽視したのも無理はない。

 もともと政府のコロナ対策は迷走気味だ。自分が主導したGO TOトラベル、イートなど感染拡大の防止と矛盾するキャンペーンに「経済を回す」と称してこだわったり、緊急事態宣言の再発出をためらったりしている間に感染者が急増した。若者などが首相の呼びかけを深刻に受け止めなかっただろうことは推察できる。
 ただし多くの国民が首相の訴えを真剣に受け止めなかったのはそれだけが理由ではないだろう。

 テレビで首相の表情、語りを見聞きして元首相小泉純一郎氏を思い浮かべた人は少なくないはずだ。首相当時の小泉氏は背筋をピンと伸ばし、カメラの向こうにいる国民を正面から見つめ郵政改革の必要性を雄弁に語った。原稿なしで説き聞かせ、「ねっ、そうでしょう」「そう思いませんか ? 皆さん」「現状はおかしいじゃありませんか」など聞く側の耳にねじ込むように語る表情は自信にあふれていた。
 アジテーション演説ともいえる小泉流を安易に評価することは危険だが、自分の言葉で語る小泉氏の主張が聞く者の胸に響いたことは確かだ。

◎対照的で自信なさそう
 菅首相はこれと対照的だ。下を向いて原稿を棒読み、たまに顔をあげても視線はあらぬ方へ泳いでいるように見える。口を大きく開けない、ぼそぼそ調の語り口は小泉流の自信満々とはほど遠く自信なげだ。首相が国民に何かを訴えても聞く側の胸に響いてこない。
 国民は敏感だ。政府の政策の迷走や首相の言行不一致だけでなく、首相が醸し出す自信のなさも政府に対する信頼感を失わせている。その信頼感喪失の象徴が盛り場の人出、多人数会食の続出なのであり、さらには世論調査における支持率の急落であるといえないか。新型コロナウイルス感染の広がりは政治家菅義偉氏と菅氏による政治の本質、弱さを浮き彫りにしたと言える。

◎虎の威を借りた “舞台裏政治家”
 安倍晋三内閣の官房長官だった菅氏は、人事をテコに官僚を押さえ込んで行政を思うように動かし、安倍一強態勢下で勝ち馬に乗り遅れまいとする議員心理を利用して、強権的だった安倍政権を支え、勢いに乗じて後継の座を勝ち取った。
 これは人生行路が政治に大きく左右される役人、ポストや権力のうま味がほしい政治家相手だからこそ通じる裏舞台における手法であり、不特定多数の国民には通用しない。一強という “虎の威” は借りようにも消えてしまっている。
 表情、口調は個人の属性でもあるが内心の反映でもある。新型コロナウイルスという未知の敵を前に戸惑い、いらだち、自信を失っているのが菅首相の現実と見える。国民はそれを感じ取っている。

 振り返れば安倍前首相も、コロナ対策に自信がなくなり、持病を口実に再び政権を放り出した疑いが濃い。情況がそれを語っている。退陣後は療養専一かと思いきや活発に動き回り、持論の改憲への熱意も衰えていない。持病に関する情報は伝えられず、一部には再々登板の声さえ流れる。難局に自ら立ち向かわず、口実を設けて政権を投げ出したとすれば無責任極まる。

 そんな安倍氏を支えて日本の政治を動かし、政権を継承した菅首相の責任は重い。持論や面子などに固執せず、あらゆる知見を総動員し、異論にも謙虚に耳を傾けてコロナ対策に万全を尽くさなければならない。

 有権者・国民の側にも安倍、菅両氏のような政治家に権力を託した責任がある。政府関係者も国民も、将来、歴史として記録される厳しい社会に生きていると自覚して行動するよう求められている。

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