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リコール署名偽造 民主主義を揺るがす犯罪

寄稿:飯室勝彦

2021年2月5日


 「意味がない」からやってはいけないのではない。民主制度を悪用して民主主義の根幹を揺るがす犯罪行為として許されないのである。大村秀章愛知県知事の解職請求 (リコール) を目指した署名活動を巡る不正の疑惑を、「地方の問題」と軽視してはならない。事実関係を徹底的に解明して関係者の責任を追及しなければならない。

◎署名の 8 割が無効
 愛知県選挙管理委員会の発表によると、選管に提出された、大村知事の解職に関する署名43万5000筆のうち約83%が、同一筆跡など無効の疑いがある署名だった。報道によると、署名活動を積極的に支援した河村たかし名古屋市長は、コメントを求められて署名偽造を「リコール制度、民主主義の根幹を揺るがす」としながらも、「 (私が知っていたら) 絶対に止めます。意味のないことだから」とも語ったという。
 「少ない署名 (署名はリコールの住民投票実施に必要な数に達しなかった) になおかつけちをつけて二度とリコールしないようにする陰謀だと自分は信じている」――こちらは署名集めのための政治団体の代表で、美容外科「高須クリニック」院長の高須克弥氏だ。
 二人とも署名集めで重要な役割を担ったにしては軽すぎる談話ではないか。問題の深刻さ、そのことに対する自分たちの責任を正しく理解しているとは思えない。やってはいけないのは「意味がないから」ではなく、民主制度の手続きを利用しながら実際は民主制度に反する悪質な行為だからだ。その点ではメディアの反応も鈍く、一部を除いてローカルニュースとして地味な報道だったのは残念だ。

◎市長と院長は車の両輪
 リコールの発端は、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」だった。展示内容を問題視して制限を主張する高須氏らと「表現の自由」を重視する大村知事が対立し、高須氏らが実行委員会会長だった大村氏の責任を問うとして署名集めを始めた。かねて大村知事と政治的に対立していた河村氏は高須氏とともに街頭演説や署名集めをするなど積極的に支援した。しかし高須氏が自分の健康状態悪化を理由に運動を終了するという不自然な経緯もあり、署名は法定数の86万6000人に達せずリコールの住民投票は実現しなかった。
 ところが愛知県選管の発表によると、選管に提出された署名のうち83%の36万2000人分が無効と判定された。筆跡などから同じ人が書いたと認められる署名が90 %、選挙人名簿に登録のない署名が48%、活動の受任者が選挙人名簿に登録されていないケースも24%あったという。前代未聞の不正である。大村知事が「民主主義の根幹を揺るがす由々しき事態だ」と怒ったのは当然だ。

◎民主制度、有権者を愚弄
 民主主義の基本は公平な選挙だが、リコールもそれに劣らず大事な制度だ。選挙で選ばれた自治体首長など公職者が有権者の意や利益に反するようになった場合には、やはり署名や投票によって解職することができる。いわば民主主義が守られない危険が生じた場合のセーフティーネットである。それだけに手続きは厳重で、地方自治法は署名の偽造に最高 3 年の懲役刑を科すと定めている。公職選挙法による不正投票の罰則と同じであるのは、リコールの署名が選挙の投票と同じ価値をもつ民主主義の根幹だからである。
 その制度を悪用して自分と思想・信条や政治的立場が異なる者を葬ろうとしたのなら民主主義、それを支える有権者を愚弄するものだ。

 県選管は今後も調査を続け、刑事告発も視野に入れているという。捜査当局とも協力して、誰が、なぜ、どのようにして、など徹底的に解明すべきだ。何十万もの署名偽造を特定個人が実行したとみるのは不自然であり、集団の関与があったと見る方が自然だ。
 ことは決してローカルニュースではない。「愛知県で起きたこと」「特定の個人の暴走」と矮小化してはならない。日本の民主主義を確固たるものにするため、「民主制度の名のもとに民主主義を否定しようとした悪質な行為」として事実関係をあますことなく詳細に解明して公表しなければならない。関係者の政治的立場や思惑、影響などに惑わされてはならないことは言うまでもない。

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